振動、騒音に加えて、磁界の人体への影響を甘く見るな(リニア新幹線)

2013-12-07 18:11:21 | 桜ヶ丘9条の会
1964年6月10日から始る東京オリンピックの間に合わせようと、夜を日に継いでの突貫工事で完成した東海道新幹線により、名古屋南部の新幹線沿線の住民575人が、新幹線の走行に伴う騒音と振動の差し止めと慰謝料を求めて名古屋地裁に提訴したのは、
1974年のことである。
この新幹線訴訟は、騒音と振動が住民に深刻な影響を及ぼしたことから、やむなく地域住民が立ち上がったものだが、当時は、公害訴訟に司法が一定の役割を果たしていたが、その後の40年間に司法は後退を重ね、原発関連の訴訟では、福島原発事故にいたるまで数々の差し止め訴訟があったが事故発生を止める姿勢がなかった。
新幹線訴訟も記事にあるように被害を認めた上で、和解で終った。
新幹線訴訟での争点は、主に騒音や振動による被害だったが、リニアには、振動、騒音に加えて、磁界が生命に与える深刻な影響がある。
転載した報告文の最後に大岡昇平氏の日記が紹介されているが、「国鉄の利益、ひいては国家の利益のために国民は泣けということか」という事態がますます進んでいる。



日本の公害訴訟の系譜 第6回
名古屋新幹線公害訴訟 弁護士 高木輝雄 (名古屋弁護士会)

1 新幹線公害と訴訟

 名 古 屋 市 内 の 東 海 道 新 幹 線 の 沿 線 に 居 住 す る 住 民 575 人 は 、 1974年 (昭 和 49年 3 月30日、国鉄を相手どって、新幹線列車の走行に伴う騒音と振動の 一定値以上の侵入の差止めと 慰謝料を求めて、名古屋地方裁判所へ提訴した。
 新幹線が走っている名古屋市南部の沿線は、住宅を主に商店や小工場が混在する古くからの市 街地であるが、その真中に、あたかも街を分断するかのように新幹線の高架橋がそびえている。 その高架橋の上を、朝6時ごろの始発から夜 12時ごろの最終まで、平均5分に 1本の割合で、1〇〇〇トン近い重量 物が時速2〇〇キロ以上の高速で疾走するのである。
  沿線住民の生活環境は、高架橋による日照阻害や高架下に生い茂る雑草、高架橋からの雨水の落 下 な ど 高 架 橋 の 存 在 そ の も の に よ っ て も 大 変 悪 化 し た が 、 な か で も 列 車 の 走 行 に 伴 う 騒 音 ・振 動による被害はひどいものであった。当時は、80ホンをはるかにこえる騒音(鉄橋では 1〇〇ホ ン に 達 し て い た )と 70デ シ ベ ル 以 上 の 振 動 (ひ ど い と こ ろ で は 8〇 デ シ ベ ル を 超 え て い た )に 曝 さ れていた。
 このような激しい騒音B振動のため、沿線住民の多くが、「イライラする」「ドキッとする」「 いた た ま れ な い 気 持 に な る 」な ど の 精 神 的 被 害 、睡 眠 妨 害 、病 気 療 養 妨 害 、「テレ ビ ・ラジオ が 聴 け な い」「 ステレオの針がとぶ」「勉強や思考が妨げられる」「 会話や電話が妨げられる」などのさまざ まな日常生活上の被害、「建具の開閉が困難になった」「 壁が落ちたり、ひびや隙間ができた」 「屋 根瓦がずれて雨漏りがする」「 家が傾いた」といった家屋損傷などの被害を受け、さらに頭痛・食 欲 不 振・ 胃 腸 障 害 ・血 圧 変 調 ・自 律 神 経 失 調 な ど の 身 体 的 被 害 を 訴 え る も の も 相 当 数 に 上 っ た 。

 80年(昭和55年)9月11日、名古屋地方裁判所の判決が出されたが、その内容は、
①被害存在を認めた慰謝料の支払いを命じたものの、
②公共性を理由に公害の差し止めは認めないというものであった。
この判決には住民も国鉄も控訴し、85年(昭和6〇年)4月 12日、名古屋高等裁判所の判決が出されたが、結論は同趣旨のものであった。この判決に対しても双方が最高裁判所へ上告したが、上告審係属中の86年(昭和61年)4月28日、住民と国鉄との間の直接交渉によって和解協定が成立した。   
 その主な内容は次のとおりである。
1 国鉄は新幹線の騒音を当面七五ホン以下とするのをはじめ、騒音・振動の軽減をはかること。
2 国鉄は住民に対し和解金を支払うこと。
3 移転補償や家屋に対する防音・防振工事を誠実に実施すること。
4 高架下や移転補償の跡地の環境整備をはかること。
5 公害を現状より悪くするような施策を行わないこと。
6 騒音・振動の監視や移転補償の跡地の環境保全的利用については、名古屋市の協力を得ること。

2 新幹線公害をもたらしたもの
 東 海 道 新 幹 線 が 開 通 し た の は 、 64 年 (昭 和 39 年 ) 10月 1 日 で あ る 。 そ の 月 の 10日 か ら始 ま る 東 京 オ リ ン ピ ツ ク に 間 に 合 わ せ る た め 、夜 を 日 に 継 い で の 突 貫 工 事 で 完 成 し た 。
 当 時 の 日 本 の 社 会 は 、 60年 (昭 和 35 年 )7 月 、 安 保 と 三 池 争 議 の 岸 信 介 内 閣 に か わ っ て 発 足 した池田勇人内閣による「所得倍増計画」の大喧伝のもとに高度経済成長路線を歩んでおり、そ の 一 環 と し て 62 年 (昭 和 37 年 )に は 「全 国 総 合 開 発 計 画 」が 閣 議 決 定 さ れ て い る 。 太 平 洋 メ ガロ ポ リ ス に は 東 海 道 新 幹 線 の ほ か 名 神 ・東 名 の 高 速 道 路 建 設 も 進 め ら れ て お り 、 大 き い こ と や 速 い ことがもてはやされるといった風潮が強かった。しかし他方、急激な高度化や高速化は同時にさま ざまなひずみをもたらした。高度経済成長政策の 一環としてコンビナートの立地された太平洋ベ ルト地帯や、全国総合開発計画によって拠点開発された地域の多くで、深刻な公害問題が発生し た の は 、 そ の 典 型 で あ る 。 64年 (昭 和 39年 ) 4 月 、 二 重 県 四 日 市 市 で 最 初 の 公 害 病 患 者 の 死 亡 が出ている。
 
 新幹線とて、その例外ではなかった。
そ の 後 、 公 害 問 題 は 深 刻 な 社 会 的 ・政 治 的 問 題 と な り 、 公 害 対 策 基 本 法 の 制 定 (67 年 )と そ の改正(経済調和条項の削除、70年)、環境庁の設置(71年)など、立法・行政の面での一応の 対 応 が な さ れ た が 、 他 方 、 新 全 国 総 合 開 発 計 画 年 )、 日 本 列 島 改 造 論 (72年 )な ど に よ る 全国的な新幹線鉄道網、高速道路網などの開発計画が打ち出されている。
 名 古 屋 新 幹 線 公 害 訴 訟 は 、こ の よ う な 状 況 の 中 で 、国 家 的 プ ロジ エク ト に 起 因 す る 公 害 に 対 し て問題を提起したものであり、同時に「大きいことはいいことだL 速ければ速いほどよい」といっ た社会的風潮に対して反省を促したものといえよう。

3 公害裁判の流れ

 74年の提訴当時は、イ病判決(一審71年、二審72年)、新潟水俣病判決(71年)、四日
市 判 決 (72年 )、水 俣 病 判 決 (73年 )と い わ ゆ る 四 大 公 害 訴 訟 の 勝 訴 判 決 が 出 さ れ 、さ ら に 74年 2 月 に は 、新 幹 線 と 同 じ 公 共 事 業 に よ る 公 害 を 問 題 と し た 大 阪 国 際 空 港 公 害 訴 訟 の 一部 差 止めを認める判決が出され、司法が公害解決において積極的な役割を果たしていた。
しかし、その後の裁判所にはその姿勢が乏しい。大岡昇平氏が80年9月 11日の日記に次の よ う に 書 い て い る 『 成 城 だ よ り 』文 芸 春 秋 )。

「名 古 屋 新 幹 線 判 決 下 る 。 こ れ ま で の 賠 償 の 支 払 い を 命 じ 、 将 来 の 慰 藉 料 を 認 め な い 変 な 判 決 。 騒音振動差し止めも、新幹線の公共性を強調して棄却、各地への波及の危惧をいう。現地住民が 現に困り、乗務員同情して減速し、乗客は少しぐらいのおくれはかまわぬ 、といっているのに、裁 判 官 の み 高 速 性 に 公 共 の 利 益 を 認 む 。理 屈 に 合 わ な い こ と 、日 本 社 会 全 体 に 波 及 せ ん と す 。高 速 移 動 は 全 国 民 の 要 望 に は 非 ず 。新 幹 線 は 申 す ま で も な く 、赤 字 国 鉄 の 最 高 の 黒 字 線 、公 共 の 福 祉 と は 、す な わ ち 国 鉄 の 利 益 、ひ い て は 国 家 の 利 益 の た め に 国 民 は 泣 け 、と い う こ と か 。裁 判 所 が こ のような法理にて作動する以上、末端に鬼頭、安川の如き、おかしな判事の出現は必然とす。」
 公害訴訟において、差止めの分野での前進が大きな課題であると思う。

 ※ ( 日本環境法律家連盟機関誌『環境と正義』17号(1・2月合併号・1999年1月25日発行)掲載原稿から「日本公害訴訟の系譜 総集編」としてまとめられた記事から執筆者の許可を戴いて、転載しました。)

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1 コメント

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誤字多すぎ ()
2014-07-06 12:24:52
直せよ
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