日本国憲法の基本原理を否定する秘密保全法案について、強く反対する声明が、愛知弁護士会会長名で2013年9月17日に出されたので、転載します。
「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する声明
現在,「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見募集が行われているが,日本国憲法の基本原理を尊重する立場から,以下の理由に基づき「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)の国会提出に強く反対する。
1 国民主権原理や国民の憲法上の権利などに重大な影響を与えるおそれのある法案の立法化が是認されるためには,当該法案を必要とする具体的事情(立法事実)の存在が必要不可欠である。
ところが,2011年1月4日に政府が設置した秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議において紹介された過去の情報漏えい事案については,既に必要以上とも言える対策が採られている。従って,秘密漏えいを防止するために新たな立法を必要とする立法事実は存在しない。
2 本法案では,秘密指定の対象となる「特定秘密」の範囲を,①防衛,②外交,③外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止,④テロ活動防止の4分野とし,別表で項目を挙げている。
しかし,これによって秘密指定できる情報の範囲は広範かつ不明確に過ぎる。第1号(防衛に関する事項)は,自衛隊法別表第4と同じであり,何ら限定していない。第2号(外交に関する事項)は,「安全保障」の範囲が無限定に広がるおそれがある。第3号(外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止に関する事項)は,「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全への脅威」「その他の重要な情報」など抽象的で曖昧な文言になっており,範囲が極めて不明確である。第4号(テロ活動防止に関する事項)は,政府がどのような「テロ活動」を想定するかについての歯止めもなく,政府の活動がその防止のためのものかどうかについても政府の主観的な判断次第であることから,際限なく範囲が拡大する可能性がある。
これらに対し,「我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要」との限定要件を付するとしても,その文言自体が抽象的であるうえに,行政機関が自ら判断することとなっているので,厳格に運用される保障はない。
また,法律案の概要は秘密指定について有効期間を定めているが,秘密指定の乱発を防止する機能を果たすものではない。むしろ,有効期間の定めにより,指定する必要のない情報についてまで安易な秘密指定がなされるおそれや,指定期間の延長を繰り返すことで,本来公文書館で閲覧に供される文書まで不開示とされるおそれがある。
3 人的管理は,情報を管理する人に着目して,人の監視を強化することによって情報漏えいを防ごうとするものである。確かに,過去の漏えい事件を振り返ると,漏えい者について何らかの特異事情が見受けられないではない。しかし,現実には,様々なリスク要因があっても情報漏えいしない者がいる一方で,リスク要因がほとんどなかった者が情報漏えいすることも起こりうる。従って,リスク情報を集積することにより漏えい事件を未然に防ぐことは困難である。他方,人的管理の対象となる情報には,他人に知られたくない個人情報が相当含まれており,プライバシー侵害のおそれがある。本法案は,行政機関職員等の同意を得た上で,第三者に対する照会等により調査を行うこととしているが,行政機関職員等が上司等から同意を求められた場合に,真に自由な意思に基づいて同意・不同意の判断を行うことは組織の性質から考えて不可能である。
4 本法案では,故意による情報漏えいだけでなく,過失による情報漏えいも処罰するとしているが,過失犯を処罰対象とすることは,責任主義の原則からして極めて問題である。また、既遂の場合だけでなく,未遂の場合,共謀の場合,独立教唆の場合,煽動の場合も処罰対象としており,処罰できる行為の範囲が著しく広い。
本法案では,国会議員,裁判官,情報公開・個人情報保護審査会委員などが故意又は過失により秘密情報を漏えいした場合には懲役5年以下の刑罰を課することにしている。しかし,裁判官及び審査会委員は国家公務員法の守秘義務で十分に足りており,このような処罰規定を設ける必要はない。また,国会議員については,国会議員間の自由な討論や政策秘書に調査させることをも罰則付で禁止することになり,議会制民主主義が空洞化するおそれがある。
本法案によれば,秘密情報を取得する行為態様が,「人を欺き」「人に暴行を加え」「人を脅迫する行為」「財物の窃取」「施設への侵入」「不正アクセス行為」「特定秘密の保有者の管理を害する行為」である場合,行為者は処罰されることになる。しかし,これらの行為概念はいずれも不明確である。特に「その他の特定秘密の保有者の管理を害する行為」は,それ自体は犯罪ではないことを想定しているようであるから,処罰範囲は不明確である上に,過剰と言わざるを得ない。
5 以上から,日本国憲法の諸原理を尊重する立場から,本法案が立法化されることに強く反対し,政府が本法案を国会に提出しないよう強く求める。
2013年(平成25年)9月17日
愛知県弁護士会 会長 安井信久
「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する声明
現在,「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見募集が行われているが,日本国憲法の基本原理を尊重する立場から,以下の理由に基づき「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本法案」という。)の国会提出に強く反対する。
1 国民主権原理や国民の憲法上の権利などに重大な影響を与えるおそれのある法案の立法化が是認されるためには,当該法案を必要とする具体的事情(立法事実)の存在が必要不可欠である。
ところが,2011年1月4日に政府が設置した秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議において紹介された過去の情報漏えい事案については,既に必要以上とも言える対策が採られている。従って,秘密漏えいを防止するために新たな立法を必要とする立法事実は存在しない。
2 本法案では,秘密指定の対象となる「特定秘密」の範囲を,①防衛,②外交,③外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止,④テロ活動防止の4分野とし,別表で項目を挙げている。
しかし,これによって秘密指定できる情報の範囲は広範かつ不明確に過ぎる。第1号(防衛に関する事項)は,自衛隊法別表第4と同じであり,何ら限定していない。第2号(外交に関する事項)は,「安全保障」の範囲が無限定に広がるおそれがある。第3号(外国の利益を図る目的で行われる安全脅威活動の防止に関する事項)は,「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全への脅威」「その他の重要な情報」など抽象的で曖昧な文言になっており,範囲が極めて不明確である。第4号(テロ活動防止に関する事項)は,政府がどのような「テロ活動」を想定するかについての歯止めもなく,政府の活動がその防止のためのものかどうかについても政府の主観的な判断次第であることから,際限なく範囲が拡大する可能性がある。
これらに対し,「我が国の安全保障に著しく支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要」との限定要件を付するとしても,その文言自体が抽象的であるうえに,行政機関が自ら判断することとなっているので,厳格に運用される保障はない。
また,法律案の概要は秘密指定について有効期間を定めているが,秘密指定の乱発を防止する機能を果たすものではない。むしろ,有効期間の定めにより,指定する必要のない情報についてまで安易な秘密指定がなされるおそれや,指定期間の延長を繰り返すことで,本来公文書館で閲覧に供される文書まで不開示とされるおそれがある。
3 人的管理は,情報を管理する人に着目して,人の監視を強化することによって情報漏えいを防ごうとするものである。確かに,過去の漏えい事件を振り返ると,漏えい者について何らかの特異事情が見受けられないではない。しかし,現実には,様々なリスク要因があっても情報漏えいしない者がいる一方で,リスク要因がほとんどなかった者が情報漏えいすることも起こりうる。従って,リスク情報を集積することにより漏えい事件を未然に防ぐことは困難である。他方,人的管理の対象となる情報には,他人に知られたくない個人情報が相当含まれており,プライバシー侵害のおそれがある。本法案は,行政機関職員等の同意を得た上で,第三者に対する照会等により調査を行うこととしているが,行政機関職員等が上司等から同意を求められた場合に,真に自由な意思に基づいて同意・不同意の判断を行うことは組織の性質から考えて不可能である。
4 本法案では,故意による情報漏えいだけでなく,過失による情報漏えいも処罰するとしているが,過失犯を処罰対象とすることは,責任主義の原則からして極めて問題である。また、既遂の場合だけでなく,未遂の場合,共謀の場合,独立教唆の場合,煽動の場合も処罰対象としており,処罰できる行為の範囲が著しく広い。
本法案では,国会議員,裁判官,情報公開・個人情報保護審査会委員などが故意又は過失により秘密情報を漏えいした場合には懲役5年以下の刑罰を課することにしている。しかし,裁判官及び審査会委員は国家公務員法の守秘義務で十分に足りており,このような処罰規定を設ける必要はない。また,国会議員については,国会議員間の自由な討論や政策秘書に調査させることをも罰則付で禁止することになり,議会制民主主義が空洞化するおそれがある。
本法案によれば,秘密情報を取得する行為態様が,「人を欺き」「人に暴行を加え」「人を脅迫する行為」「財物の窃取」「施設への侵入」「不正アクセス行為」「特定秘密の保有者の管理を害する行為」である場合,行為者は処罰されることになる。しかし,これらの行為概念はいずれも不明確である。特に「その他の特定秘密の保有者の管理を害する行為」は,それ自体は犯罪ではないことを想定しているようであるから,処罰範囲は不明確である上に,過剰と言わざるを得ない。
5 以上から,日本国憲法の諸原理を尊重する立場から,本法案が立法化されることに強く反対し,政府が本法案を国会に提出しないよう強く求める。
2013年(平成25年)9月17日
愛知県弁護士会 会長 安井信久
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