きょうの潮流
「わたしは―ここで銃殺された老人のひとりひとり/わたしは―ここで銃殺された赤児のひとりひとり/わたしの体内のなにものも/これを絶対に忘れはすまい」▼ロシアの詩人エフトゥシェンコがつづった「バビ・ヤール」の一節です。ウクライナのキエフにあった渓谷の名前で、かつてナチス・ドイツによる大虐殺が行われた地。それを世に訴えた彼の詩はショスタコービッチの交響曲にもなりました▼ユダヤ人をはじめ、数万もの市民が谷のへりに立たされ銃殺。死体は崖を崩して埋められました。人類が過ちをくり返さないと誓った場所。ロシア軍がミサイルを撃ち込んだテレビ塔はその跡地に立ち、隣接の公園には追悼碑が置かれています▼「特別な祈りの場所。あなた方はホロコーストの犠牲者を2度殺した」。ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアをそう批判しました。「非ナチ化」を侵攻理由にあげたプーチン大統領に対し、追悼施設は声明を発表。「違法な侵攻を正当化するためにホロコーストをゆがめ、操作しようとしている」と▼軍事攻撃から1週間。日常を突然奪われ、恐怖や不安に泣き叫ぶ母や子。市民の犠牲者は日を追うごとに増えています▼空の青と大地の小麦を象徴する黄。いまウクライナの2色の国旗をかかげ、身にまとい、連帯を表す人びとは世界各地に。ウクライナの大使は国連で訴えました。「もしウクライナが生きのびなければ、国際平和も生きのびられない。民主主義が陥落しても不思議ではない」