世界で森林火災なぜ頻発❓ 豪で深刻、鎮火のめど立たず (2020年1月17日 中日新聞)

2020-01-17 09:36:15 | 桜ヶ丘9条の会

世界で森林火災なぜ頻発? 豪で深刻、鎮火めど立たず 

2020/1/17 中日新聞

 

 オーストラリアの森林火災が大変だ。各地で昨秋から発生し始め、燃え広がった。北海道より広い約一千万ヘクタールを焼き、鎮火のめどは立っていない。ここ数年、米国や南米・アマゾンなどでも深刻な森林火災が発生。森林が失われることで、温暖化が加速するという指摘がある。たとえ大規模な森林火災の恐れは少ないとしても、日本にとって対岸の火事ではない。

 昨年十二月三十一日、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州ヤットヤタ地区では、午前中から気温が四〇度を超え、熱を帯びた北風が吹いていた。住民三百人ほどの集落は、それまでに続いた周辺の火災でけぶっていた。

 元板金業のマーク・レガンザーニさん(64)が、三方から迫る火災に気付いたのは昼前。娘の夫のフィル・コブさん(33)が「火がすぐ来るから逃げろ」と助けに来た直後だった。瞬く間に家が火に包まれた。

 この時、五キロ離れた所に住むマークさんの息子の妻、真紀子さん(40)がマークさんの携帯を鳴らした。マークさんは「もう逃げなきゃ。これで話せるのは最後かもしれない。愛してるよ」と言って電話を切った。

 マークさんらは車に飛び乗った。火に取り囲まれ逃げ道がなく、思い切って火の中に車を走らせた。「こっちこっち」と呼ぶ声が聞こえ、二人は車を捨てその家に向かった。途中、燃え上がる車の中に動かぬ人の姿が見えた。

 その家にも火が迫っていた。追い込まれたフィルさんが「焼け死ぬよりは銃で死ぬ方がましだ」と銃を探し始めた時、風向きが変わり、助かった。集落は焼けた。五百人が住む隣のレイクコンジョラも全焼。両地区で死者が出た。

 マークさんが避難したフィルさんの家にも三日後、火災が迫った。二度も夫と父親を失いかけたフィルさんの妻は、今も精神的に落ち込みが続く。

 数日後、真紀子さんの自宅にも「危ない」という情報が届いた。住民らは「海に逃げるしかない」「ボートで逃げるか」とパニックに。消防車と消火ヘリは来ない。各地の山林火災で出払っていた。ラジオでは「緊急通報をしても無駄です。助けは来ません」と流れていた。「この国に来て十年。こんなに恐ろしい思いをしたことはない」と真紀子さんは振り返る。

 ヤットヤタから南に約一キロの郊外で暮らす鍼灸(しんきゅう)師林涼子さん(51)は十二月三十一日昼すぎ、自宅から百メートルに煙が迫っていると気付いた。消防士の「今すぐ逃げろ」という声で、家族四人で車に乗り、避難所に逃げる。幸い家は燃えず、その日のうちに帰宅できた。

 林さんは「森林火災は毎年十二~二月によく起きる。それなのに、今回は昨年九月から始まった。自然発火や雷で火が付き、干ばつと乾燥で一気に燃え広がった。これほど大規模な火災はなかった」と言う。

 地元紙の報道などによると、九月以降の火災で全豪では一千万ヘクタールが焼失し、死者は約三十人。コアラやカンガルー、野鳥、は虫類など無数の生き物の命が奪われた。停電が起き、電話は不通。道路は各地で寸断された。

 「砂漠以外の貴重な森林や牧草地の大半が燃えた。観光客も来られるような状況ではなく、町全体が沈んだ感じ。今も煙が漂い、窓を開けられない」。林さんは「また火が来るのでは」と不安を感じつつ、避難した住民たちに無償ではりやきゅうを施している。

 

◆温暖化が招く悪循環

 

 大規模な森林火災は、世界各地で頻発している。

 昨年はブラジル北部のアマゾン地域で森林火災が多発。八月に開催された先進七カ国(G7)首脳会議でも取り上げられた。インドネシア・スマトラ島とカリマンタン島でも昨年、森林火災が起きて深刻な煙害をもたらした。二〇一八年には米西部カリフォルニア州でも。ギリシャ・アテネ近郊の山林火災では、九十人以上の死者が出た。

 原因は雷、違法な伐採、火入れ、たき火の不始末などさまざま。地球温暖化との関連も指摘される。

 地球温暖化防止に取り組む「気候ネットワーク」の平田仁子(きみこ)国際ディレクターは「森林火災は、気候変動の一環。出火原因は人為的だったとしても、気温の上昇や乾燥といった温暖化の影響も絡んで、火が広がる傾向がある」と話す。

 森林が燃えると、二酸化炭素を吸収する役割が失われる。さらに、樹木が蓄えた炭素も一気に放出される。平田さんは「温暖化がさらなる温暖化を加速させる悪循環に陥る」と危ぶむ。

 林野庁によると、日本の森林火災は一三~一七年の五年間で年平均千三百八十六件。一日に三、四件のペースで起きている。その七割が一~五月に集中している。ほとんどの火災が、小規模なうちに消し止められている。

 火災原因で最も多いのはたき火の不始末(29・1%)。冬に落ち葉など燃えやすいものが蓄積し、乾燥も進む。春になって山菜採りや行楽で山に入る人が増え、たき火やたばこの火の不始末で火災が起きるのだ。

 林野庁研究指導課の志磨克(かつ)課長補佐は「長期的に見れば減少傾向。山火事が多発した一九六〇~七〇年代は山の樹木が小さかったので、燃えやすかった。今は、樹木が育った。(火災の原因をもたらす)人間が山に入る頻度も昔より減った」と説明する。

 山火事は自然の摂理という見方もある。

 「もともと原野や高山では雷による自然発火で山火事が起きていた。自然のサイクルの一部として、植物の世代交代を促すなどしてきた。例えば、火事の熱で松かさが開いて種が広がったり、枯れ木や下草を燃やしたりした」。横浜国立大の森章准教授(森林生態学)は、森林火災の「効能」をこう説明する。

 それが「災い」と考えられるようになったのは、二十世紀に入ってから。山林火災を燃えるに任せず、すぐ消し止めるようになったためだ。その結果、下草や枯れ葉などが残されたまま積もるようになった。これらは出火すると「燃料」になり、火災の規模を大きくしてしまう。消火活動に対し、自然界からしっぺ返しを受けているのだ。

 しかし、オーストラリアの大規模火災は、それだけでは説明が付かないと森准教授は考える。

 「オーストラリアはインド洋の海面温度の変化などで降水量が少なく、ひどい干ばつに見舞われていた。そこに火事が起き、被害が大きくなった。干ばつを招いたのが温暖化だとすれば、人災要因が大いにある」

 実際、オーストラリア気象庁は、一九年を「観測史上最も暑く、乾燥した年だった」と発表。これが火災の拡大につながったとの見方を示している。

 温暖化の影響が大きいのなら、日本でも異常な森林火災が起きないか。

 森准教授は「温暖化が進むと、日本では降水量が増えると考えられている。乾燥に伴って被害が広がる森林火災は、日本では起きにくいだろう。むしろ、豪雨などを気にかけるべきだ」と話した。

 (片山夏子、中沢佳子)