大規模広域災害の時代 週のはじめに考える (2019年12月22日 中日新聞)

2019-12-22 10:23:19 | 桜ヶ丘9条の会

大規模広域災害の時代 週のはじめに考える 

2019/12/22 紙面から

 東京は世界一安全だが、世界一リスクが大きい。言い換えれば、治安はいいが、自然災害が怖いという調査結果が出ています。日本全体に通じる話です。

 英エコノミスト誌の都市安全性指数で、東京が三回連続で世界一安全とされました。英保険組合ロイズが発表した都市リスク指標でも東京が一位でした。治安や自然災害だけが評価の基準ではありませんが、納得のいく指摘です。

 昨年は西日本豪雨、関西を襲った台風21号、今年も東日本で大きな被害が出た台風19号などの風水害がありました。「日本は安全」と油断してはいけません。

 

「狩野川台風級」と警告

 

 被害を小さくするにはどうすればよいのでしょうか。

 台風に関しては、進路予測の精度が高くなり、備えやすくなっています。例えば、台風19号は十月十二日午後七時前に静岡県の伊豆半島に上陸しました。気象庁は九日に台風が「非常に強い勢力で東日本に接近・上陸する」という進路予報を出しました。前日には「狩野川台風級」という表現で警戒を呼び掛けました。

 狩野川台風は約六十年前に伊豆半島を通過した大型台風です。気象庁は「古い台風をわざわざ引き合いに出さないといけないぐらいのレベルと伝えたかった」そうです。しかし「伊豆半島の台風」と受け取った人が少なからずいたといわれ、福島県や宮城県で多くの死者を出しました。

 情報の出す側と受け取る側の行き違いが他にもありました。今年から警戒レベルが発表されています。「全員避難」はレベル4で、レベル5になると、すでに災害が発生しているような状態です。避難自体が危険な場合があるので「命を守る最善の行動を」と呼び掛けています。ところが5と聞いて避難を始めた人もいました。

 

ここにいてはダメです

 

 新たな課題も明らかになりました。海抜ゼロメートル地帯が広がる東京の江東五区です。五区の一つ江戸川区が今年五月に「ここにいてはダメです」という表紙のハザードマップを公表しました。今回は見送られましたが、事前避難の対象は五区で最大二百五十万人です。鉄道会社が計画運休し、時間が限られる中で本当に避難できるのか。重い宿題です。

 ゼロメートル地帯は関東平野だけではありません。国内で最大なのは愛知県などに広がる濃尾平野です。堤防や防潮堤の強化も必要ですが、浸水を前提に対策を考えるべきでしょう。

 加藤孝明東大教授は「災害前と災害後で分けて考えたら」とアドバイスします。

 水没する恐れのないマンションなどに住んでいる人は、台風襲来時は垂直避難で上層階に。台風通過後、必要であれば避難すればよいというのです。

 防災計画に初めから垂直避難を組み込み、災害後の救助や移動方法を考えておくのです。こうすれば、高齢者や入院患者などの避難もスムーズに進むでしょう。もちろん、垂直避難を選んだ人たちは、直ちには救援の手は届かないかもしれない、という覚悟と準備が必要です。

 自分自身や家族の命を守るには、自ら考え、行動しなければなりません。そのためには的確な情報が必要です。

 今夏からスマホで大雨・洪水警報の危険度分布を知らせるサービスも始まっています。気象庁の情報を基に五社が実施しています。

 IT企業ヤフーは「Yahoo! 防災」というアプリを使って利用者に知らせます。スマホの位置情報を基に防災情報をリアルタイムで伝えます。利用者は千八百万人です。

 同社はネット企業の社会貢献としてやっているといい、約八百二十の地方自治体とは防災協定を結んでいます。同じアプリで、自治体が住民向けに広報したい災害情報を伝えることもできます。

 担当者は「スマホの画面は小さいので、できるだけ直感的に分かりやすく伝えることを心がけている」と言います。

 

スマホよりひと声の力

 

 官庁はデータを集め、分析する能力は非常に高いのですが、国民一人一人に伝えることは苦手です。その役割は民間企業の方が得意です。救援物資の備蓄や輸送などでも国や自治体、企業、NPOなどの協力が進んでいます。

 大規模広域災害時代の今、企業は災害後も事業活動を継続できるようにする計画作りが求められています。その中に社会貢献を盛り込んではどうでしょうか。社会全体の復旧が進まなければ事業の継続もありえないのですから。

 ところで、避難するときには隣近所にも声をかけてください。人を動かす力がもっともあるのは、知り合いのひと声なのです。