モリカケ終わらせない 改元ムードで疑惑もリセット!?
2019/4/5 中日新聞
新しい元号が発表されたところで、安倍政権に向けられた疑惑がリセットされるものではない。森友・加計(かけ)学園問題のことだ。森友を巡る国有地売却や財務省関連文書の改ざんでは、有印公文書変造・同行使容疑などで告発され、大阪地検特捜部が不起訴とした佐川宣寿(のぶひさ)・前国税庁長官らについて、市民で構成する検察審査会が「不起訴不当」と議決した。疑惑追及の先頭に立ってきた人たちは言う。「モリカケを終わらせない」
「とにもかくにも、検察が不起訴にしたのはおかしかった、いうこと。今度こそしっかり捜査してもらわんと」
財務省近畿財務局に行った情報公開請求から、森友学園の問題に最初に気が付いた大阪府豊中市議の木村真氏は、大阪第一検察審査会が三月二十九日に公表した議決について語る。
森友問題を振り返る。財務省が二〇一六年六月、国有地を「タダ同然」の格安価格で森友学園に売却。学園側が建設中だった小学校の名誉校長には、安倍晋三首相の妻昭恵氏が就いていた。学園と財務局とのやりとりを記した公文書は廃棄され、国会に提出した公文書は昭恵氏の名前など都合の悪い部分が削られた。改ざんを苦にした職員は自殺に追い込まれた。
怒った市民が、背任や有印公文書変造・同行使容疑などで、当時、財務省幹部として関わっていた佐川前国税庁長官らを大阪地検に告発。地検特捜部は捜査したが、不起訴とした。
そこで木村氏を含む複数の市民グループが検察審査会(検審)に申し立てた。検審が計三十八人を審査し、佐川氏ら計十人を「不起訴不当」と議決した。
くじで選ばれた十一人の市民で構成する検審は、八人以上が起訴すべきだと判断すれば「起訴相当」となり、強制起訴への道が開ける。今回は制度上、一歩手前の「不起訴不当」にとどまったが、少なくとも過半数の六人は検察の判断にノーを示したことになる。
元大阪地検検事の亀井正貴弁護士は「起訴相当」の判断に至らなかった理由を、「検審の議決は、事実認定が甘く法的な分析ができていない点がある。背任罪を巡っては検察が集めた証拠が弱いこともあり、犯罪が成立するかどうかを立証する難しさがあるのだろう」とみる。
今後、検察が改めて起訴するのかどうかを検討するが、仮に不起訴と判断すれば捜査は終結となる。
NHK大阪放送局の記者時代から森友問題を取材し、現在は「大阪日日新聞」に転職した相沢冬樹氏も「検審は公開の法廷の場で事実関係を明らかにするよう促している。『起訴すべきだ』と言っているに等しい。私は、背任について捜査を尽くしていた検事がいたことも知っている。今度こそ特捜部が正義にかなう判断を」と訴える。
申立人の一人の阪口徳雄弁護士は議決書に「捜査を尽くすべき」という表現が複数出てくる点に着目。「そもそも検察が不起訴ありきで、十分な捜査をしていなかった」と指摘する。再考を促すボールが投げ返されたが、検察は結論を覆すか。「なぜ文書を隠蔽(いんぺい)し、改ざんしたのかが全然明らかにされていない。民事裁判などあらゆる手法で真相解明しないといけない」
木村氏は「この問題は政治家も官僚も誰も責任を取ってない。このままうやむやにされるなら、日本という国は特定の人に国有地を安売りしても、公文書を改ざんしてもOKな国ということ。民主主義の崩壊や。改元の祝福ムードの陰に隠されるような問題やない」
森友問題で明らかになった文書改ざんは、公務員が細心の注意を払うべき公文書を、都合良く書き換えた前代未聞の不祥事だ。追及にかかわってきた専門家たちも強い危機感を示す。
検審に申し立てた神戸学院大の上脇博之教授(憲法)は「これだけのことをして誰も罪に問われないなら、公務員の不正に歯止めがきかなくなる」。
「一連の改ざんは本当に官僚の論理だけで進められたのか、説明がつかない。直接にせよ間接にせよ政治家の圧力は本当になかったのか。公開の法廷で審理することで、明らかになる部分はあるはずだ」と話す。
何より、問題をうやむやにして悪影響を被るのは国民だ。「公務員がどこからか圧力を受けて公文書を書き換え、国民がそれにだまされるなら、情報公開制度は吹き飛ぶ。国民の知る権利は守られない」と語る。
もう一つの加計学園の獣医学部新設を巡っても「官僚の忖度(そんたく)」が問題になった。「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」発起人、醍醐聡・東京大名誉教授(会計学)は「一連の問題は、安倍政権のもとで公務員や国有財産などの『私物化』が進んでいることを明らかにした。元号が変わろうがこうした問題は続いている」と強調。「公文書改ざんのような情報の私物化はより深刻。統計不正や、アベノミクスの成果を疑わせるデータを出さないといった点にもみられる」
二月に安倍首相が自衛官の新規募集について、「自治体の六割以上が協力を拒否している悲しい実態がある」と発言したことも、醍醐氏には見過ごせないと映る。「自衛官募集への理解が得られていないという理屈をばねに、改憲論議を進めようという意図にみえる。政権の都合で改憲を促すような動きは憲法の私物化とすら言える」
駒沢大の山崎望教授(現代政治理論)は「新元号で新たな時代が来るという期待を人々が抱くのは、精神論としては否定しない」と断りつつ、「改元と、森友・加計学園問題などの政治課題は全く別次元の話。お祝いムードの中で、山積している問題がリセットされるかのような風潮は間違いだ」とくぎを刺す。
「政権はこれまで説明責任を果たしたとは言い難く、長期間放置してきた。これまでの選挙で多数派を取ったから国民の理解を得られたと判断するのは、おかしい。今からでも説明責任を果たす必要はある」と語る。
一方で「国民が許容してしまえば、政治の多数派による専横とも呼べる事態も起きてしまう」と警鐘を鳴らす。「国民は森友・加計学園を含めて継続している政治問題を忘れないことが大切だ。一連の問題をこれからも注視し、責任の在りかを問わなくてはならない」
(石井紀代美、中山岳)
2019/4/5 中日新聞
新しい元号が発表されたところで、安倍政権に向けられた疑惑がリセットされるものではない。森友・加計(かけ)学園問題のことだ。森友を巡る国有地売却や財務省関連文書の改ざんでは、有印公文書変造・同行使容疑などで告発され、大阪地検特捜部が不起訴とした佐川宣寿(のぶひさ)・前国税庁長官らについて、市民で構成する検察審査会が「不起訴不当」と議決した。疑惑追及の先頭に立ってきた人たちは言う。「モリカケを終わらせない」
「とにもかくにも、検察が不起訴にしたのはおかしかった、いうこと。今度こそしっかり捜査してもらわんと」
財務省近畿財務局に行った情報公開請求から、森友学園の問題に最初に気が付いた大阪府豊中市議の木村真氏は、大阪第一検察審査会が三月二十九日に公表した議決について語る。
森友問題を振り返る。財務省が二〇一六年六月、国有地を「タダ同然」の格安価格で森友学園に売却。学園側が建設中だった小学校の名誉校長には、安倍晋三首相の妻昭恵氏が就いていた。学園と財務局とのやりとりを記した公文書は廃棄され、国会に提出した公文書は昭恵氏の名前など都合の悪い部分が削られた。改ざんを苦にした職員は自殺に追い込まれた。
怒った市民が、背任や有印公文書変造・同行使容疑などで、当時、財務省幹部として関わっていた佐川前国税庁長官らを大阪地検に告発。地検特捜部は捜査したが、不起訴とした。
そこで木村氏を含む複数の市民グループが検察審査会(検審)に申し立てた。検審が計三十八人を審査し、佐川氏ら計十人を「不起訴不当」と議決した。
くじで選ばれた十一人の市民で構成する検審は、八人以上が起訴すべきだと判断すれば「起訴相当」となり、強制起訴への道が開ける。今回は制度上、一歩手前の「不起訴不当」にとどまったが、少なくとも過半数の六人は検察の判断にノーを示したことになる。
元大阪地検検事の亀井正貴弁護士は「起訴相当」の判断に至らなかった理由を、「検審の議決は、事実認定が甘く法的な分析ができていない点がある。背任罪を巡っては検察が集めた証拠が弱いこともあり、犯罪が成立するかどうかを立証する難しさがあるのだろう」とみる。
今後、検察が改めて起訴するのかどうかを検討するが、仮に不起訴と判断すれば捜査は終結となる。
NHK大阪放送局の記者時代から森友問題を取材し、現在は「大阪日日新聞」に転職した相沢冬樹氏も「検審は公開の法廷の場で事実関係を明らかにするよう促している。『起訴すべきだ』と言っているに等しい。私は、背任について捜査を尽くしていた検事がいたことも知っている。今度こそ特捜部が正義にかなう判断を」と訴える。
申立人の一人の阪口徳雄弁護士は議決書に「捜査を尽くすべき」という表現が複数出てくる点に着目。「そもそも検察が不起訴ありきで、十分な捜査をしていなかった」と指摘する。再考を促すボールが投げ返されたが、検察は結論を覆すか。「なぜ文書を隠蔽(いんぺい)し、改ざんしたのかが全然明らかにされていない。民事裁判などあらゆる手法で真相解明しないといけない」
木村氏は「この問題は政治家も官僚も誰も責任を取ってない。このままうやむやにされるなら、日本という国は特定の人に国有地を安売りしても、公文書を改ざんしてもOKな国ということ。民主主義の崩壊や。改元の祝福ムードの陰に隠されるような問題やない」
森友問題で明らかになった文書改ざんは、公務員が細心の注意を払うべき公文書を、都合良く書き換えた前代未聞の不祥事だ。追及にかかわってきた専門家たちも強い危機感を示す。
検審に申し立てた神戸学院大の上脇博之教授(憲法)は「これだけのことをして誰も罪に問われないなら、公務員の不正に歯止めがきかなくなる」。
「一連の改ざんは本当に官僚の論理だけで進められたのか、説明がつかない。直接にせよ間接にせよ政治家の圧力は本当になかったのか。公開の法廷で審理することで、明らかになる部分はあるはずだ」と話す。
何より、問題をうやむやにして悪影響を被るのは国民だ。「公務員がどこからか圧力を受けて公文書を書き換え、国民がそれにだまされるなら、情報公開制度は吹き飛ぶ。国民の知る権利は守られない」と語る。
もう一つの加計学園の獣医学部新設を巡っても「官僚の忖度(そんたく)」が問題になった。「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」発起人、醍醐聡・東京大名誉教授(会計学)は「一連の問題は、安倍政権のもとで公務員や国有財産などの『私物化』が進んでいることを明らかにした。元号が変わろうがこうした問題は続いている」と強調。「公文書改ざんのような情報の私物化はより深刻。統計不正や、アベノミクスの成果を疑わせるデータを出さないといった点にもみられる」
二月に安倍首相が自衛官の新規募集について、「自治体の六割以上が協力を拒否している悲しい実態がある」と発言したことも、醍醐氏には見過ごせないと映る。「自衛官募集への理解が得られていないという理屈をばねに、改憲論議を進めようという意図にみえる。政権の都合で改憲を促すような動きは憲法の私物化とすら言える」
駒沢大の山崎望教授(現代政治理論)は「新元号で新たな時代が来るという期待を人々が抱くのは、精神論としては否定しない」と断りつつ、「改元と、森友・加計学園問題などの政治課題は全く別次元の話。お祝いムードの中で、山積している問題がリセットされるかのような風潮は間違いだ」とくぎを刺す。
「政権はこれまで説明責任を果たしたとは言い難く、長期間放置してきた。これまでの選挙で多数派を取ったから国民の理解を得られたと判断するのは、おかしい。今からでも説明責任を果たす必要はある」と語る。
一方で「国民が許容してしまえば、政治の多数派による専横とも呼べる事態も起きてしまう」と警鐘を鳴らす。「国民は森友・加計学園を含めて継続している政治問題を忘れないことが大切だ。一連の問題をこれからも注視し、責任の在りかを問わなくてはならない」
(石井紀代美、中山岳)