官僚、近ごろやらかし放題 増える、官邸のイエスマン(2019年4月4日中日新聞)

2019-04-04 08:05:23 | 桜ヶ丘9条の会
官僚、近ごろやらかし放題 増える、官邸のイエスマン 

2019/4/4 中日新聞

 新元号の発表で「新時代」を演出する安倍政権の足元で、国政を支える官僚たちの横暴なふるまいが目に余る。統計不正で揺れる厚生労働省の課長は韓国・金浦(キンポ)空港で「韓国人は嫌い」と暴言を吐き、職員を蹴るなど大暴れ。日本年金機構世田谷年金事務所の所長は匿名でツイッターに「韓国人ひきょう」などと差別的投稿を繰り返した。暴走はなぜやまないのか。

 まず三月十九日に金浦空港で起きた事件が記憶に新しい。私用で渡航していた厚労省の武田康祐賃金課長(当時)が空港職員に暴行したとして、警察に現行犯で逮捕された。

 現地メディアなどによると、搭乗口近くで職員が、武田氏から酒の臭いがしたとして搭乗を待つよう要請。すると武田氏は英語で「韓国人は嫌いだ」とわめき、物を投げたり制止しようとした職員を蹴ったりするなどしたとされる。

 前代未聞の醜態だ。だがもっと驚かされるのは、逮捕された十九日、自身のフェイスブックに「なぜか警察に拘束されています。殴られてけがをしました。手錠をかけられ五人に抱えられ。変な国です」などと投稿したことだ。

 さらに二十日は「酔ってない。暴れたが相手には当たってない。韓国人が嫌いだと言ったのは政治的意図ではなく職員への憤り」と更新。釈放されて帰国した。厚労省は同日付の人事異動で官房付とし事実上、更迭した。

 武田氏は渡航前にも物議を醸していた。七日に最低賃金の全国一律化を目指す自民党議連の会合で、四月から外国人労働者受け入れ拡大の対象となる十四業種で一律化を目指す意向を突然表明。直後に菅義偉官房長官が全面否定し、厚労省幹部が「労使で決めること」と釈明する事態になった。

 一体どんな人物か。賃金課長の前は、二〇一五年から二年間、内閣官房一億総活躍推進室などにいた。そこで安倍晋三首相が旗を振る「一億総活躍プラン」や「働き方改革実行計画」を策定。一八年の厚労省の「総合職入省案内」にも登場し、「安倍総理の強い想(おも)いを実現するため、厚労行政に深い経験・知識を持った厚労省の出身者と、新たな発想を持った他省庁の出身者が十分に議論し、実現可能かを厚労省の同僚と議論した」と語っていた。

 厚労相から委託を受けて年金行政をしている日本年金機構で三月下旬、発覚した「人種差別」も見過ごせない。世田谷年金事務所の葛西幸久所長(当時)が、匿名でツイッターに韓国人について、「属国根性のひきょうな民族」「在日一掃、新規入国拒否」などのつぶやきを繰り返していた。野党議員については「いるだけで金もらえるタカリ集団」と投稿。発覚後に更迭された。

 官僚の暴走は今に始まったことではない。少しさかのぼっても、森友・加計学園問題、財務省の公文書改ざん、財務次官のセクハラなど枚挙にいとまがない。

 政治評論家の森田実氏は、三月六日にあった参院予算委員会での内閣法制局・横畠裕介長官の発言が「官僚たちの堕落を示す事例でも特にひどい」とみる。

 委員会では、立憲民主党会派の小西洋之氏が「国会議員の質問は内閣に対する監督機能の表れ」という政府答弁があるのかと確認したのに対し、横畠氏が、「声を荒らげて発言することまで含むとは考えていない」と答えた。小西氏の質問姿勢を批判したことに野党側が猛反発。横畠氏はその後「おわびして撤回する」と陳謝した。

 「憲法の番人」である内閣法制局の長官とは思えない。「政権の番人ではないか」と批判も出た。森田氏は「国会議員を真っ向から侮辱し、注意されれば保身のため撤回する。モラル喪失と言うのも上品過ぎるくらいの堕落だ。政権の番人ですらなく、ただのゴマすり、虎の威を借るキツネのようだ」と手厳しい。

 どうして官僚たちの「高慢と偏見」はここまで強まり、表面化するようになったのか。

 明治大の西川伸一教授(官僚分析)は「そもそも重要閣僚が絶対あり得ないヘイト発言をする安倍政権であり、それが倒れない。『なんだ大丈夫なのか』という空気が官僚に伝播(でんぱ)するのは当たり前で、厚労省課長らのような意識の官僚や公務員は多いのかもしれない」と指摘する。

 一九九〇年代から二〇〇〇年代に続いた官僚バッシングを経験したことで、官僚の中には鬱々(うつうつ)とした意識が滞留していった。だが、官僚主導から政治主導への政治改革をうたった民主党政権が失敗し、官僚バッシングが弱まる一方、安倍政権は長期政権化して行政全体が『お上化』した。西川氏は「官僚も公僕意識がなくなり、以前の反動から、高慢なお上意識が表面化しているのだろう」と話す。

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏も「官僚には怖いものがなくなった」と指摘する。「良くも悪くも、昔は自民党内に怖い族議員がいた。その威光が強い時代には官僚たちは首相案件の政策であっても、首相だけに忖度(そんたく)することはできなかった。今は族議員が弱くなり、自民党内も安倍一強体制なので『官邸の意向』を持ち出せば、センセイたちも黙ると官僚は高をくくっている。当然、世論の後押しが弱い野党議員など論外。国会を軽視し、その背後にいる国民も軽視する。だからこそ平気でデータや記録を捏造(ねつぞう)する」と語る。

 二月に「官僚たちの冬~霞が関復活の処方箋」(小学館新書)を出した元財務官僚で明治大教授の田中秀明氏(政治学)は「日本の官僚制度は、法律・制度上は政治的中立性が厳しく求められている英国型の公務員制度だが、実態は『政治化』が進んでいる」と指摘する。

 官僚の政治化とは、文字通り政治家との距離が近く、その政治的影響を直接受けることはもちろん、官僚や省庁が自身の利害を持ち、その追求を図っていることも含む。田中氏は、安倍政権下で一四年に設置された内閣人事局に代表される新たな幹部公務員の任免制度によって、政権への忖度がさらに進んだとみる。

 「国家公務員法が規定する通り、本来は公務員は政治的中立性を持ち、いい情報も悪い情報もすべて政治家に提供し、政治家が決断するという姿にすべきだが、首相官邸に異を唱えるような官僚は更迭されたりして、イエスマン化せざるを得ない。首相の側近官僚が分を超えた政策決定に関与しているのも問題だ」と話す。

 (中山岳、大村歩)