秘密保護法の施行に反対し, 同法の廃止を強く求める法律家8団体共同声明
多くの国民の反対・懸念の声を無視して昨年12月6日、自民党、公明党による強行採決によ り成立した「秘密保護法」が、本年12月10日に施行されようとしている。
私たち法律家8団体は、憲法の基本原理である平和主義、基本的人権の尊重および国民主権に 反する同法の施行に断固反対し、同法の即時廃止を強く求めるものである。
1.民主主義を踏みにじる異常な制定経過
同法は、昨年9月3日に法案概要が公表され、2週間という不当に短い期間を定めて行われた パブリックコメントでは、約9万の意見のうち8割近くが法案に反対する意見であり、各種の世 論調査においても、過半数の国民が反対し、8 割の国民が慎重審議を求めていた。また、多数の 自治体が反対の決議を挙げ、日弁連をはじめとする法曹界はもとより、ジャーナリズム、ノーべ ル賞受賞者をはじめとする科学者、学者、研究者、作家などの言論界、演劇人など、あらゆる国 民の各層各分野から反対の声が上がり、国内のみならず国連人権理事会の特別報告者からの指摘 や国際ペンクブ会長声明をはじめとする国際団体等から、国際的基準(ツワネ原則)からも大き く逸脱した同法案に対する深刻な憂慮の声が寄せられた。法案が国会に提出されるや反対の声は 全国各地・各分野に広がり、法案に反対する市民が国会を包囲する行動が連日のように繰り広げ られた。
安倍政権は、これらの圧倒的な民意を無視して、同法の制定を短期間の審議により強行したの であり、同法の制定過程自体が、国民主権・民主主義の根本に反する暴挙であったといえる。
2.秘密保護法の危険性
同法の本質は、同じく昨年の臨時国会で成立した日本版NSC設置法、本年7月1日に行われ た集団的自衛権の行使容認を含む閣議決定と一体となって、集団的自衛権の行使、自衛隊による 武力行使・戦争遂行を可能とする軍事立法であり、憲法9条に対する立法改憲・解釈改憲を狙う ものにほかならず、この先の明文改憲に道を開くもので、憲法の平和主義の原則と相容れないこ とは明らかである。
同時に、同法は、政府にとって不都合な国民の言論活動を、警察権力により封じることを目的 とする治安立法の性格を併せ持ち、国民の知る権利、表現の自由、プライバシー権など基本的人 権を侵害するものである。
すなわち、行政機関の「長」の一存で「秘密」の指定や提供ができる同法は、行政による情 報の独占と情報操作を可能とし、秘密の提供は、国会、裁判所を含めて大きく制約され、国民は 何が「秘密」に指定されたかを知り得ないまま、「秘密」の漏洩行為等々が広範に刑事罰の対象と される。これにより、取材・報道の自由、国民の知る権利その他一切の表現の自由は、警察によ る取り締まりと処罰を恐れて大きく制約され、国民主権の原理を支える基盤は完全に切り崩され ることになる。
また、適性評価制度は、行政機関や警察が、秘密を取り扱わせようとする者の、活動歴、信用状態、精神疾患に関する事項等の極めて高度なプライバシー情報について調査・監視を行い、 選別を可能とする制度である。同制度は、公務員だけでなく、秘密を扱う民間企業等の労働者 も対象となり、多くの国民がプライバシー侵害、思想・信条による差別といった重大な人権侵 害の危険にさらされることになる。
3.施行令及び運用基準は、秘密保護法の危険性を何ら払拭するものではないこと
本年10月14日に閣議決定された秘密保護法施行令および運用基準は、これら秘密保護法の 持つ危険性を何ら払拭するものではなく、かえってその危険性を現実化させる内容であった。
すなわち、施行令第3条は、秘密の指定機関を何ら限定していない。施行令第12 条は、「漏え いを防止するため他に適当な手段がないと認められる場合における焼却、破砕その他の方法に よる特定秘密文書等の廃棄」が行なえることを定めており、国民の知らぬ間に「秘密」が闇られ る危険はむしろいっそう高まった。
運用基準では、適性評価の「評価対象者の思想信条並びに適法な政治活動及び労働組合の活 動について調査することは厳に慎み」などとしているが、不当な調査・監視を防ぐための具体的 な制度は、なんら盛り込まれず、また、内閣保全監視委員会および内閣府独立公文書管理監は、 内閣からの独立性はなく、国民の批判をかわすためだけに設置された「第三者的機関」の粗末 な実態が端的に表れている。
加えて、運用基準には、国民の大きな懸念である漏えい罪、取得罪等の罰則規定の謙抑的な 運用について、具体的な言及が全くなく、人権侵害や悪用の危険性は何ら払拭されていない。
4.結語
以上のとおり、民意を無視して制定が強行された秘密保護法は、憲法の基本原理である平和主 義に反し、基本的人権を踏みにじり、そして民主主義・国民主権を有名無実化させる危険性を有 したまま、今、施行されようとしている。
法律家7団体は、これまでも3回にわたり、秘密保護法の廃案・廃止を求める共同声明を公表 してきたが、法律の施行期限が目前に迫った今、新たに秘密保護法対策弁護団も加わり法律家8 団体として、同法の施行に断固として反対するとともに、同法の即時廃止を強く求めるものであ る。
以上 2014年12月8日
社会文化法律センター 代表理事宮里邦雄
自由法曹団 団長荒井新二
青年法律家協会弁護士学者合同部会
日本国際法律家協会
日本反核法律家協会
日本民主法律家協会
日本労働弁護団
秘密保護法対策弁護団議長 原 会長 大熊 会長 佐々木 理事長 森 会長 鵜飼 共同代表 海 渡雄一
和 良 政 一 猛 也 英 樹 良 昭ほか
多くの国民の反対・懸念の声を無視して昨年12月6日、自民党、公明党による強行採決によ り成立した「秘密保護法」が、本年12月10日に施行されようとしている。
私たち法律家8団体は、憲法の基本原理である平和主義、基本的人権の尊重および国民主権に 反する同法の施行に断固反対し、同法の即時廃止を強く求めるものである。
1.民主主義を踏みにじる異常な制定経過
同法は、昨年9月3日に法案概要が公表され、2週間という不当に短い期間を定めて行われた パブリックコメントでは、約9万の意見のうち8割近くが法案に反対する意見であり、各種の世 論調査においても、過半数の国民が反対し、8 割の国民が慎重審議を求めていた。また、多数の 自治体が反対の決議を挙げ、日弁連をはじめとする法曹界はもとより、ジャーナリズム、ノーべ ル賞受賞者をはじめとする科学者、学者、研究者、作家などの言論界、演劇人など、あらゆる国 民の各層各分野から反対の声が上がり、国内のみならず国連人権理事会の特別報告者からの指摘 や国際ペンクブ会長声明をはじめとする国際団体等から、国際的基準(ツワネ原則)からも大き く逸脱した同法案に対する深刻な憂慮の声が寄せられた。法案が国会に提出されるや反対の声は 全国各地・各分野に広がり、法案に反対する市民が国会を包囲する行動が連日のように繰り広げ られた。
安倍政権は、これらの圧倒的な民意を無視して、同法の制定を短期間の審議により強行したの であり、同法の制定過程自体が、国民主権・民主主義の根本に反する暴挙であったといえる。
2.秘密保護法の危険性
同法の本質は、同じく昨年の臨時国会で成立した日本版NSC設置法、本年7月1日に行われ た集団的自衛権の行使容認を含む閣議決定と一体となって、集団的自衛権の行使、自衛隊による 武力行使・戦争遂行を可能とする軍事立法であり、憲法9条に対する立法改憲・解釈改憲を狙う ものにほかならず、この先の明文改憲に道を開くもので、憲法の平和主義の原則と相容れないこ とは明らかである。
同時に、同法は、政府にとって不都合な国民の言論活動を、警察権力により封じることを目的 とする治安立法の性格を併せ持ち、国民の知る権利、表現の自由、プライバシー権など基本的人 権を侵害するものである。
すなわち、行政機関の「長」の一存で「秘密」の指定や提供ができる同法は、行政による情 報の独占と情報操作を可能とし、秘密の提供は、国会、裁判所を含めて大きく制約され、国民は 何が「秘密」に指定されたかを知り得ないまま、「秘密」の漏洩行為等々が広範に刑事罰の対象と される。これにより、取材・報道の自由、国民の知る権利その他一切の表現の自由は、警察によ る取り締まりと処罰を恐れて大きく制約され、国民主権の原理を支える基盤は完全に切り崩され ることになる。
また、適性評価制度は、行政機関や警察が、秘密を取り扱わせようとする者の、活動歴、信用状態、精神疾患に関する事項等の極めて高度なプライバシー情報について調査・監視を行い、 選別を可能とする制度である。同制度は、公務員だけでなく、秘密を扱う民間企業等の労働者 も対象となり、多くの国民がプライバシー侵害、思想・信条による差別といった重大な人権侵 害の危険にさらされることになる。
3.施行令及び運用基準は、秘密保護法の危険性を何ら払拭するものではないこと
本年10月14日に閣議決定された秘密保護法施行令および運用基準は、これら秘密保護法の 持つ危険性を何ら払拭するものではなく、かえってその危険性を現実化させる内容であった。
すなわち、施行令第3条は、秘密の指定機関を何ら限定していない。施行令第12 条は、「漏え いを防止するため他に適当な手段がないと認められる場合における焼却、破砕その他の方法に よる特定秘密文書等の廃棄」が行なえることを定めており、国民の知らぬ間に「秘密」が闇られ る危険はむしろいっそう高まった。
運用基準では、適性評価の「評価対象者の思想信条並びに適法な政治活動及び労働組合の活 動について調査することは厳に慎み」などとしているが、不当な調査・監視を防ぐための具体的 な制度は、なんら盛り込まれず、また、内閣保全監視委員会および内閣府独立公文書管理監は、 内閣からの独立性はなく、国民の批判をかわすためだけに設置された「第三者的機関」の粗末 な実態が端的に表れている。
加えて、運用基準には、国民の大きな懸念である漏えい罪、取得罪等の罰則規定の謙抑的な 運用について、具体的な言及が全くなく、人権侵害や悪用の危険性は何ら払拭されていない。
4.結語
以上のとおり、民意を無視して制定が強行された秘密保護法は、憲法の基本原理である平和主 義に反し、基本的人権を踏みにじり、そして民主主義・国民主権を有名無実化させる危険性を有 したまま、今、施行されようとしている。
法律家7団体は、これまでも3回にわたり、秘密保護法の廃案・廃止を求める共同声明を公表 してきたが、法律の施行期限が目前に迫った今、新たに秘密保護法対策弁護団も加わり法律家8 団体として、同法の施行に断固として反対するとともに、同法の即時廃止を強く求めるものであ る。
以上 2014年12月8日
社会文化法律センター 代表理事宮里邦雄
自由法曹団 団長荒井新二
青年法律家協会弁護士学者合同部会
日本国際法律家協会
日本反核法律家協会
日本民主法律家協会
日本労働弁護団
秘密保護法対策弁護団議長 原 会長 大熊 会長 佐々木 理事長 森 会長 鵜飼 共同代表 海 渡雄一
和 良 政 一 猛 也 英 樹 良 昭ほか