S 様
いつもお世話になっております。
皆さまに好かれてなおいっそうご活躍のお姿を拝見するにつけ、お見事の賛辞を送る次第です。
子供たちは、皆遊びの天才でした。
春夏秋冬、年齢に応じ、晴れか雨かによって、遊びのアレンジをさまざまに変えて遊んでいました。共通して言えることは、親から用事を言いつけられない程度に距離をとって遊ぶこと。ここにいるよと知らせながら遊ぶことでした。
だから、遊んでいる子たちを上から見ると、見えたり隠れたり、声がしたり、しなかったりでした。
まず、春。野山に当然出かけます。鳥や昆虫が巣作りを始める頃です。遊んでいる 途中で小便をしたくなります。男の子は便利なものでホースを取り出せば何処でも可能です。男の子は、あし長蜂の巣にめがけて発射しました。終わりの頃、チクッと痛みが走りました。蜂の反撃があったのです。みるみるうちに、男の子のホースは肥大化し、コーラ瓶のごとく腫れあがりました。もう歩くことも、おしっこをすることも出来なくなりました。
当然、涙が大勢流れて来ます。親にも言えず、ヨモギの汁でも直せないつらい1週間でした。
夏は海、野山と何処でも遊びの山です。遊び呆けたつけは、夏休みの終わりにいつ もやって来ました。来年こそは、早めにやろうと反省するのでした。その翌年も同じ反省を繰り返すのです。夏休みになると、朝から晩まで、遊びのスケジュールで男の子の頭はいっぱいに なりました。
海も干潮と満潮では、遊びが変わります。満潮が朝からだと、ガキどもは、堤防から飛び込みをします。小さい子は、海までの階段の途中から飛び込みます。歓声と達成感は同じくらい大きいのです。干潮。持ってきた塩をマテ貝の穴に落とします。潮が満ちてきたと間違えたマテ貝 がにょきにょきと出て来ます。男の子は待ち切れず掴んでしまいます。ああマテ貝の力が勝り逃げました。次の穴で挑戦。男の子の息使いは、激しくなります。今度は充分出きりました。手ごたえ充分で引き抜きます。
あわてて引き抜いたため、「ちんぼ」が逃げてしまいました。
そうして男の子は三度目にしてやっとまともなマテ貝を捕まえるのでした。泳ぎを覚えたての男の子は、渕の存在を知らなかったのです。大きい子について行きました。突然海底が消えました。あがけども誰も笑ってとりあってくれません。たんと海水を飲んだ頃やっと大きな子が渡してくれた竹につかまって命拾いするのでした。泳ぎを少し覚えた男の子は、いつものように渕で遊んで
いました。いつも と様子が違います。岸側に近寄れないのです。誰も回りにいません。引き潮だったのです。 どんどん岸から離れて行きます。必死で足をばたつかせました。さらに離れて行きました。悪戦苦闘の末、男の子は岸に向かって斜めに泳ぐことを始めました。500m離れた場所で岸に 戻れました。
ひとつ賢くなりました。命がけの習得でした。
はい蝉をとり、蚊帳の中に放し、夜中まで眠い目をこすりながら、待ちました。やっと出て きた青白い羽がきれいでした。男の子はつい触ってしまいました。朝には、羽の縮れた蝉が いました。
煙草蔵が煙をはき始めました。煙草の葉の乾燥が始まりました。芋を置き火の中に入れ、待ちました。昼間遊んで疲れがでたのか、男の子は、おとうさんの膝の中に子犬のように寝てしまいました。夜中に目を覚ました男の子は、どす黒い顔をした赤鬼の夢を見ました。お父さんの顔が近くにありました。
秋。男の子は、大きな子にくっついて遊んでいました。のどが渇いてきました。近くに絶好の甘柿の木があります。子供たちは、手と足を使って昇り始めました。男の子も昇りました。柿の枝はもろいのでした。知らなった男の子は、手を放した瞬間、枝が折れました。お尻から7m落ちました。息ができませんでした。
こうして、いろんなことを男の子は、覚えていくのでした
冬、大きな子が、素敵な弓矢を作りました。両方に分かれて戦争が始まりました。実際に打ちあっていました。男の子も逃げ回っていました。それは興奮しました。あれーえ、男の子に矢が命中しました。矢は先がとがっていました。頭に突き刺さりました。血が出て来ました。大きな男の子は、ヨモギをとって来て 揉み始めました。ヨモギの絞り汁を男の子の傷口に塗り始めました。万能薬のヨモギです。男の子の痛みはとまりません。我慢しても涙がつぎから次と出て来ます。大きな声は 出せません。大きな子が、「泣き止まなかったら、もう遊んでやらんぞ。」と言いました。男の子の涙は止まりました。
歯を食いしばっていました。
こうして、男の子は成長して行きました。どんなことがあっても対処できる悪がきになって行ったのです。子どもの頃は無尽蔵にエネルギーが湧いて来たように覚えています。
寝てしまえば、痛かったことも叱られたこともすべて忘れて、夢中になってまた悪さをするのでした。懲りない面々とは、子供達のことをさすのではないでしょうか。時には、一人で空想の世界に浸り、ある時は大勢で悪乗りしてとんでもないことをやらかすのでした。そしていつもきっちりとげんこつを食らうのでした。痛みは寝ればいつも回復しました。心の痛みさえも。
そんな幼少年時代が誰にもありました。遠い昔のことでしょうか。
2014年7月4日