故郷へ恩返し

故郷を離れて早40年。私は、故郷に何かの恩返しをしたい。

世紀の開発

2014-07-02 06:27:57 | プロジェクトエンジニアー

 

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S 様

 本日は梅雨の一休み、晴日となりました。

約30年前のことになりますか。
東広島にいたころの話です。


私は、その頃ある機械の開発をしておりました。

S様は、もみ殻(稲籾の外側の殻です。)をご存じですか。

もみ殻は、ケイ素を多く含み、害虫から稲を守る大事な物質です。

その籾殻は硬く、腐りにくく全国で牛舎の敷き藁か燃やして、田畑の肥料にするくらいしか使い道はありませんでした。

日本国中で、約200万トンの籾殻が発生します。


その当時勤めておりました会社は、住金物産のプラスチック事業部と組み、籾殻の工業原料化を目指しておりました。

私は、一人だけのチームでその籾殻圧縮擂潰機(らいかいき)を開発しておりました。

1億円の予算がつきました。機械の開発を担当しておりました。

実験プラントの製造、機械の設計及び試作、実験担当、海外での試運転指導を担当しておりました。


主たる売り先は、ホンダ自動車、日産自動車及び日本の主な樹脂製造企業でした。

籾殻は13%のケイ素(ガラスの主成分)を含んでおります。外皮はセルロースで構成されており、強力にリグニンで守られています。

セルロースを取り出すためには、リグニンを破壊しなければなりません。リグニンを外すには200に熱しなければなりません。エクストルーダー(押出し機)で粉砕圧縮します。

10トン車で籾殻を運ぶと、籾殻は見かけ比重が0.1トン/m3と低いため、1トンしか運べません。粉砕圧縮すると約6トン運べます。

日本の高名な特殊鋼メーカー(日立金属、大同特殊鋼、住友金属、日本碍子等々)に依頼し、開発製造した耐摩耗特殊鋼を使い機械の心臓部のスクリュー(100万円/本)を製造しました。

しかし、どの特殊鋼を使って実験を重ねても、200時間で摩耗してしまいました。数々のトライアルを重ねた結果、ロストワックス法で製造される精密鋳造品の耐摩耗スクリュー(3,000/本)を使う方法を発見しました。

限定される摩耗部にその部品を使うことにしました。マツダの車に使われている(エンジンの気化器に使用される弁)耐摩耗ピース(日本碍子製)を応用して、スクリューを製造したこともあります。

耐熱、耐摩耗には優れていましたが靭性がなく実験で使ったスクリュー(30万円/本)はわずか17秒でクラッシュしました。靭性が弱いという弱点を設計力でカバーできなかったのです。


籾殻を圧縮擂潰機で粉砕したのち取れる100メッシュアンダー(小麦粉くらいの
大きさ)の工業原料で、プラスチック(40%籾殻紛含有)を作ることに成功しました。ホンダ、日産では籾殻と同色のダッシュボードに使いました。

残りの30メッシュオーバー(粉砕した鰹節位の大きさ)は、座席中に使われている従来のヤシがらに代わって使われるようになりました。コストは、従来品に比較し1/3です。

開発に2年を費やしました。滋賀県高月、秋田県大曲、韓国釜山の近くに機械を導入し、粉砕を始めました。全て私が立ち上げました。後にはフィリピンやマレーシアにも導入されました。


この機械は、エクストルーダーの周りに16KWのヒーターを入れて、もみ殻のリグニンを破壊するため熱を加えます。その余熱で機械内に残ったもみ殻残渣が燃焼(線香が燃えるがごとく)し、約600度(鉄の変態点)近くまで高温になるため、残った籾殻は燃え始めます。運転後機械内は良く掃除をしたから燃えたことは一度もありませんでした。取り出した籾殻残渣に水をかけて保管しました。その籾殻残渣を入れた容器が何度か火災を起こしました。線香の残り火が再燃焼したのでした

火災を起こしたことにより、私は3度減俸になりました。大曲では20台の消防車が来ました。


苦労の結果、やっとものになりました。33歳でした。私は誇らしかったのでした。

ある夜、かみさんに自慢の機械を見せるため、皆が退社した夜10時頃、かみさんを実験プラントに招待しました。

まだ小さい子供をおぶって大きい子の手を引いて、かみさんはやって来ました。

機械を運転しました。順調に動いています。ポコポコとドーナツ状の粉砕物をだしているではありませんか。


かみさんは、「ふん。私帰るね。」5秒もいませんでした。


確かに眠いかもしれないけど、私が苦労してやっと開発した機械です。

もっと感動するとか、せめて良くわからないけどすごいね、くらいは言って欲しかった。
絶対、2度とみせてやらないと強く誓ったのでした。

S様、説明を長々とした割には、つまらない落ちでした。良くここまでついてきていただけました。

ありがとうございました。


やはり、「ふん。」でしょうか。


今後とも、ご指導のほどよろしくおねがいいたします。
本日はこれで失礼します。お忙しいのにつまんないネタで失礼しました。

省エネ等リサイクルの話題にはことかかないこの頃です。
約30年前に挑戦した、農業から膨大に出る産業副産物の工業原料化は、面白い取組でした。当時の会社が1億円投入した意気込みが理解できます。まさに「無から有」の具現化でした。


「着眼は大きく、改良作業は小さいことから」の貴重な一例でした。

2014年7月2日

 

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