中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

安全衛生体制(続々編)

2014年01月20日 | 情報
次に、衛生委員会の開催です。
この問題も、企業間に大きなレベル差がありますね。
・法令で定められている衛生委員会を設置していない。
・設置しているが、事実上休眠状態にある。
・毎月開催しているが、定例メンバーの欠席が目立ち、審議内容がマンネリ化している。
・毎月定例メンバーが出席し、審議する議題も事前に周知され、事業所内の労働安全衛生環境が改善されている。

工場などの現業部門をもつ事業所は、安全衛生委員会を毎月、または月2回等で開催し、
熱心に安全衛生問題に取り組んでいますが、事務系の事業所では、なかなか衛生委員会がうまく運営できていないのが現実です。

そこで、'13.1.14の当ブログ記事を、一部加筆修正して再掲します。

以前紹介した調査データでは、
未だに、半数近い企業で衛生委員会が開催されていません。ゆゆしき問題です。
今日のようにMH問題がクローズアップされていなかった時代には、理解できる理由もありましたが、
今や、MH対策において、「衛生委員会の開催」は対策の「入り口」です。

確かに中小企業の現場では、毎日のルーチン業務に追われてしまいますし、間接部門の人員も限られていますので、
会議をしている暇があるくらないら、営業しろ!なんてことになります。

そうはいっても、月に1回くらいはミーティングと称して、社長訓示なんて言うものがありますよね。
その機会を利用して、衛生委員会を開催しましょう。
しかし、衛生委員会を単独で開催するのは、上述したようになかなか難しい問題です。
ですから、幾つかの会議体を連続して開催することをお勧めします。
例えば、労使の会議としての「労使協議会」、業務の見直し・効率化を検討する「業務改善委員会」、
それと「衛生委員会」を、一日に連続して開催すると、出席するメンバーはかなりの割合で重複しますから、
会議体運営の効率化が促進できることでしょう。
さすがに、経営会議、営業・販売会議や生産計画会議等などは一緒にならないでしょうが、出席するメンバーの多くが
重複するのであれば、一緒にしてしまうことも検討する価値があるでしょう。
そして、朝から開催すれば午前中に終了しますので、その後は全員で昼食懇談会などはどうでしょうか。
従業員の本音を聞き出すことが、最も重要なことですから。

このようにして、衛生委員会をぜひとも定例開催してください。
しかし、法令で開催を定めているから、というような動機づけではやがてマンネリ化することは必須でしょう。
衛生委員会で審議するする事項は、法令で定められていますが、これを審議してはいけない、と
決められているわけではないのですから、頭を柔らかくして取り組みましょう。

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安全衛生体制(続編)

2014年01月17日 | 情報
労働安全衛生体制の中でも、特に重要な産業医についてです。

まず、法令を確認しましょう。
1.産業医を法令通りに選任している(法13条、則13条) 
2.委嘱している産業医は産業医の資格を満たしている(則14条2項)
3.産業医の選任を労基署に報告している(法100条)  
4.産業医に労働者の健康管理他法令で定める事項を行わせている(則14条) 
5.産業医の勧告を尊重している(法13条)

確かに、産業医の委嘱料は高額です。50人クラスの事業所でも委嘱料は、年間で100万円くらいです。
ですから、名ばかり産業医というのが横行するのですが、
企業の産業保健スタッフや態勢で、主治医と対等で話ができるのは、「産業医」しかいないのです。
IT技術がいくら進化しようが、医者同士でしか会話は成立しません。
企業・組織の人事労務担当や、産業医以外の産業保健スタッフが主治医にアプローチしても、門前払いです。
医師には、厳重な個人情報管理が求められているのです。
いざという事態になったら、困るのは経営者自身ですよ。
100万円をケチったために、数千万円の損失を負うことにもなりますし、
最悪、事業そのものが立ち行かなくなる可能性もあります。事業の危機管理を真剣に考えてください。

さらに、産業医と契約していれば、OKとはいきません。
優秀な産業医と契約しなければなりません。同じ委嘱料を支払うのであれば、当然ですよね。

加えて大事なのは、契約内容も、詳細に決めておかなければなりません。
詳細に契約内容を取り決めておかないと、何をすればよいのかと産業医の先生自身も困ってしまいます。
折角、高額な委嘱料を支払うのですから、企業としても委嘱料に見合う働きを産業医に求めるのは当然なことです。
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安全衛生体制

2014年01月16日 | 情報
前日の続きです。
企業の活力は、社長のパワーも重要ですが、何といっても従業員のやる気、モラールが基礎になっています。
一段と競争が激しくなっている、わが国の産業構造です。
よく使うたとえですが、戦争に置き換えて考えてください。
兵隊の士気の高い、低いが結局は雌雄を決する要因になるのです。
従業員の心身にわたる健康を維持管理する体制が必要です。
経営者や経営層に求められる、最も重要な資質、または思考です。

以下は、新聞記事の再掲ですが、産業医の選任義務があるのに、選任していない事業所が、
対象事業所の12%にも上っています。
さらに、名前だけの産業医もいるでしょうし、圧倒的に多い50人未満の事業所もあります。

産業医、11%の事業所が置かず
大阪労働局は書類送検にあたって、健康被害を防ぐうえで産業医の果たす役割の大きさを強調する。
労働安全衛生法の規則では、産業医は「少なくとも月1回作業場を巡視し、
衛生状態などに有害のおそれがあるときは直ちに必要な措置を講じなければならない」と規定。
事業主への勧告権限も与えられている。
しかし、労働局が今回の問題を受けて大阪府内で昨年末に調査したところ、
産業医未選任の事業所は約1200(未選任率11・6%)に上った。
同局幹部は「形式的な違反と軽く捉える傾向があるが、労働者の生命、健康を守るうえでとても大きな問題」とし、
これらの事業所に衛生管理体制の自主点検票を配布。現在、回収作業を進めている。
垰田たおだ和史・滋賀医科大准教授(労働衛生学)は「特に今回のような化学物質が蔓延まんえんした環境では、
従業員には日常的で気にならない異常に産業医が気付く可能性がある。
名目だけの選任にとどまる事業所も多いが、産業医の重要性を再認識する必要がある」と指摘する。
(2013年9月27日 読売新聞)

労働安全衛生法
(衛生管理者)
第十二条  事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、
都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、
厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、
その者に第十条第一項各号の業務のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。
(産業医等)
第十三条  事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、
医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

(安全委員会)
第十七条  事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、
事業者に対し意見を述べさせるため、安全委員会を設けなければならない。
一  労働者の危険を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二  労働災害の原因及び再発防止対策で、安全に係るものに関すること。
三  前二号に掲げるもののほか、労働者の危険の防止に関する重要事項
(衛生委員会)
第十八条  事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、
事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
一  労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二  労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
三  労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
四  前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
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衛生委員会、衛生管理者、産業医

2014年01月15日 | 情報
「安全スタッフ」誌’13.11.1号より転載です。

衛生管理者の選任を怠る

大阪労働局は、常時50人以上の労働者を使用していたにもかかわらず、平成13年以降、衛生管理者、産業医を選任せず、
さらに衛生委員会を設けていなかったとして、印刷会社と同社社長を安衛法違反の疑いで大阪地検に書類送検した。
同社では労働者17人に1,2-ジクロロプロパンを含む洗浄剤が原因とみられる胆管がんが発症し、
うち9人が死亡している。(平成25・9・26)

事件の概要
安衛法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に、産業医と衛生管理者の選任、衛生委員会の設置を義務付けている。
被疑会社では、平成13年8月からこれらの義務が発生していたが、平成24年4月15日までの間、専任と設置することを怠っていたもの。
同社では平成24年3月以降、労働者からの胆管がん発症が相次いで発覚。
厚労省や大阪労働局が原因究明のための捜査に着手した結果、校正印刷と呼ばれる作業で、
印刷機のローラーに着いたインクを落とすために使われていた洗浄剤に含まれる1,2-ジクロロプロパンと
胆管がん発症との関連性が極めて高いという見解が出された。
大阪労働局では、未選任だった期間のうち、時効内であった平成23年から24年4月15日までの期間について、
安衛法違反の疑いで書類送検。1,2-ジクロロプロパンは危険有害性情報を文書で交付すべき物質に指定されており、
「衛生管理者や産業医を置いたうえで、マスクの着用などの措置が講じられていれば被害を食い止められたかもしれない」としている。

被疑者および法条文
被疑者
◎株式会社サンヨー・シーワィピーおよび同社代表取締役社長
違反条文
◎安衛法第12条1項
◎安衛法第13条1項
◎安衛法第18条1項
※罰条関係は略
《参考》
◎安衛法第12条項
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、
都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、
厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、
その者に第10条1項各号の業務のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。

筆者追記
安衛法第12条1項、安衛法第13条1項、安衛法第18条1項違反は、それぞれ50万円以下の罰金に処せられます(法120条)。
確定したわけではありませんが、産業医と衛生管理者の選任、衛生委員会の設置を行わなかったことにより、
罰金に処せられる例は過去、寡聞にして耳にしたことがありません。

現状では、安衛法は、他の法令に比べて軽視しがち、軽視されがちです。
労働安全衛生分野のなかで、安全面での事例ですが、衛生面においても全く同様です。
今回の事案を他山の石として、御社事業所内の態勢を再確認してください。






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安衛法の改正・具体的には

2014年01月14日 | 情報
以下は、労働安全衛生法改正案のなかで、メンタルヘルスチェックの具体的な内容です。

・まず、改正案におけるメンタルヘルス対策強化のポイントを確認しましょう。
1.医師又は保健師による精神的健康状況把握のための検査を行う( 労働者に受診義務あり)
2.労働者が希望した場合、医師による面接指導の実施を行い、結果を保存する

・最も重要な、労働者のストレスに関連する症状・不調を確認する項目については、
「職業性ストレス簡易調査票」の項目から抜粋した以下の9項目について、
労働者に質問し、4段階評価をしてもらいます。
①ひどく疲れた
②へとへとだ
③だるい
④気がはりつめている
⑤不安だ
⑥落ち着かない
⑦ゆううつだ
⑧何をするのも面倒だ
⑨気分が晴れない
について、最近1ヶ月間の状態で、
「ほとんどなかった」「ときどきあった」「しばしばあった」「ほとんどいつもあった」の4段階で評価します。

・そして、各項目の合計点等により評価を行います。
なお、9項目で実施する理由としては、
事業場ごとにストレス反応を確認することの必要性やそのために投入できる資金・マンパワー等が異なること、
特に小規模事業場に勤務する労働者が多い我が国において、健康診断等におけるストレス反応の確認を普及・定着させていくためには、
一定程度の精度が確保できる最低限の項目として、当分の間、(中略)計9問を標準的な確認項目(質問)として
設定することが適当であると考えられる、としているためです。

・一般健康診断では、健康診断結果は事業者に通知されますが、プライバシー保護の観点より、
検査結果は医師または保健師から労働者に直接通知され、
労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできません。
なお、労働者が同意すれば、事業者に通知することができます。
労働者が申し出をした以降については、各事業者が対応することになります。

・さらに、医師又は保健師による労働者の精神的健康の状況を把握するための検査を行うことを事業者に義務づけます。
・検査の結果は、検査を行った医師又は保健師から労働者に直接通知されます。
医師又は保健師は労働者の同意を得ずに検査結果を事業者に提供することはできません。
・検査結果を通知された労働者が面接指導を申し出たときは、事業者は医師による面接指導を実施しなければなりません。
なお、面接指導の申出をしたことを理由に労働者に不利益な取扱をすることはできません。
・事業者は、面接指導の結果、医師の意見を聴き、必要な場合には、作業の転換、労働時間の短縮など、
適切な就業上の措置をしなければなりません。

※更に詳しく調べたい場合は、厚生労働省
「『労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱』の労働政策審議会に対する諮問及び同審議会からの答申について」より
ストレスに関する症状・不調として確認する事が適当な項目等に関する調査研究報告書
(平成22年10月座長 下光輝一(東京医科大学教授))を参照してください。

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