中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

ストレスチェック制度の効果検証①

2022年07月19日 | 情報

厚労省が委託事業として行った、ストレスチェック制度の効果検証に係る調査データです。
ストレスチェック、及びその結果による職場環境改善は、有用であると結論付けてはいますが、
一次予防効果はあったのか、また、費用対効果はどうだったのか、という肝心なところは不明です。
以下、概要です。

ストレスチェック制度の効果検証に係る調査等事業報告書(2022年3月)
令和3年度厚労省委託事業

https://www.mhlw.go.jp/content/000951471.pdf

1) ストレスチェック制度の実施状況
(1)ストレスチェックの実施率
○ 事業場を対象として国内の各地域で実施された研究では、いずれも、労働者数 50 人以上の事業場では、ストレスチェックの実施率が8~9割程度であったのに対し、労働者数 49 人以下の事業場におけるストレスチェックの実施率は1~6割程度と、低い傾向にあった。【文献6、18、29】
○ 小規模事業場の中でも特に、単独企業の方が、複数事業場をもつ企業の支所と比較して、ストレスチェックの実施率が低い傾向にあった。また、ストレスチェック制度に関連した公的支援制度に対する認知度も低かった。【文献 26】

【ストレスチェック制度の普及にかかる課題】
➡ストレスチェックの実施については小規模事業場かつ、単独企業に対して、公的支援制度の周知を含めた働きかけをすることが重要。

(2)ストレスチェックの受検率
○ ストレスチェックの受検率は事業場規模が大きくなるほど高くなっていたが【文献6】、大規模事業場の労働者では、ストレスチェックの実施通知があった者の割合が高かった。【文献 24】
○ 年齢別・業種別等に見ると、若年層、医療・福祉の業界で受検率が有意に低かった。また巡回による定期健康診断と同時に実施したほうが受検率は有意に高かった。【文献 35】

【ストレスチェック制度の受検率向上に係る課題】
ストレスチェックの受検率の向上には実施時期への配慮や健診との同時実施をする、実施通知を行う、複数回の受検勧奨を行う等の工夫が求められる。

(3)高ストレス者のうち、医師による面接指導
○ 従業員規模別での傾向は文献により異なっているものの、総じて高ストレス者のうち、医師による面接指導を希望する者の割合は低かった。【文献6、18、28、29、34】

【医師による面接指導に係る課題】
➡多職種が連携しながら、高ストレス者と判定を受けながらも医師面接につながらない人の面接等への誘導の工夫が求められる。

(4)集団分析の実施状況
○ 集団分析の実施率は低くはないが【文献6】、分析結果が有効に活用されていない。【文献1】

【集団分析に係る課題】
➡結果の活用方法等を例示する等により、活用を促す工夫が求められる。

(5)職場環境改善の実施状況
○ ストレスチェック実施後に集団分析結果を活用し、職場環境改善まで実施している事業場は少なかった。【文献6、18、29】
○ ただし、労働者の側からは、職場環境改善を経験したという意識は低く、事業場単位では実施していても、職場環境改善を経験したことがあるものはわずかであった。【文献 28】

【職場環境改善に係る課題】
➡集団分析を受けて職場環境改善まで実施している事業場は少なく、職場環境改善につなげ、それを事業場全体に広げる取組みが必要である。

2) 職場におけるメンタルヘルス対策としてのストレスチェック制度の効果・有用性
○ ストレスチェック制度の有用性については、事業場では従業員のメンタルヘルスへの理解・意識向上等について有用である、労働者では医師面接や職場環境改善がメンタルヘルス不調への対策として有用であると捉えられていた。【文献 18、24】
○ 複数の独立した研究により、ストレスチェック制度については、それ単体ではなく、面接や職場環境改善と一緒に行うことにより、労働者のストレス反応等において有意な改善が見られる等の効果が確認できた。【文献8、9、23、28、30】
○ 一方、ストレスチェック制度の導入によって労働者の心理的負担が軽減されたとは言えないと結論づけたものや、ストレスチェック制度に関わる医師等からは、ストレスチェック制度が職場におけるメンタルヘルス対策の進展に影響はないと見解の方が多かったというものもあった。【文献 10、21】

【ストレスチェック制度の効果について】
➡ストレスチェック制度については事業場・労働者ともに有用であると一定の割合で評価されており、ストレスチェックの受検だけではなく、その後の職場環境改善まで一体で実施することによって具体的な効果が見られている。これらの点については、さらなる調査研究が求められる。

3) 文献調査結果のまとめ
○ 先行研究において、1年度単位でストレスチェックの実施状況について調査を行ったものはある一方、1つの事業場におけるストレスチェックの実施状況等を、施行後5年間通して調査・分析したものはなかった。
○ 単にストレスチェックを実施するだけでなく、職場環境改善まで行うことで、労働者のストレス反応等に有意な改善が見られている。
○ 小規模事業場においては、ストレスチェックの実施から集団分析・職場環境改善への展開が進んでいない現状が明らかになった。

さらに、大切なデータです。

② ストレスチェック受検で感じた効果(労働者票 問 12(5))
ストレスチェックの受検で感じた効果としては、「自身のストレスを意識するようになった」と回答した人が 5 割で最も多かったが、「特になし」の回答も4割弱あった。「高ストレス状態に気づくことができた」は1割で選択されていた。
 労働者の年齢別や勤続年数別ではストレスチェックの受検で感じた効果に大きな差異はなかった。仕事の種類別にみると、サービスの仕事で「自身のストレスを意識するようになった」の割合が他の仕事より低かった。また、テレワークの実施状況別にみるとテレワークを実施している人の方が、全くしない人より「自身のストレスを意識するようになった」の割合が高かった。

⑭ 高ストレス者と判定された者の割合(事業場票 問 16)
 高ストレス者と判定された者の割合は「10%以上 20%未満」の事業場が最も多く、3割であった。「5%未満」、「5%以上 10%未満」が2割を超えていた。
 事業場規模別にみると、規模が大きい事業場の方が高ストレス者と判定される者の割合が高い事業場が多かった

⑱ 面接への申し出のない高ストレス者の対応の工夫点<主な自由回答>(事業場票 問 20)
 2年連続高ストレス者で面接申し出がない人を対象に保健師から体調確認メールを配信
 高ストレス者のうち、睡眠に問題のある人(よく眠れないことがしばしばある・ほとんどいつもあると答えた人)をピックアップし、保健師面談を実施
 申し出しない理由を尋ね、申し出しやすい環境整備に努めている
 高ストレス者全員に面接指導の希望確認書を渡し対象者全員の意思を確認している
 実施規程に「産業医面接前に健康サポート室(日常的にメンタル不調者対応をしている)が補足的な面談を行う」と明記し「自主的な面接希望がない場合であっても3回まで面接勧奨をする」ことも謳われている
 健康診断の事後指導や予防接種などの機会を利用し、相談ができるようにする 等

 

 

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