熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ポール・クルーグマン・・・Ending Greece’s Nightmare

2015年01月27日 | 政治・経済・社会
   ポール・クルーグマンが、昨日のNYTのコラムで、「Ending Greece’s Nightmare」を書いて、ギリシャのチプラス新首相は勝利したとその登場を祝福した。
   Mr. Tsipras has won, and won big, European officials would be well advised to skip the lectures calling on him to act responsibly and to go along with their program. The fact is they have no credibility; the program they imposed on Greece never made sense. It had no chance of working.
   EUがギリシャに押し付けて来た経済再建策は、何の信憑性もなく、道理に叶ってはいなかったし、作動する筈さえなかった。
   EUは、チプラス首相に、最早、EUとの約束を履行せよとは、言うなと言うのである。  

    He will be the first European leader elected on an explicit promise to challenge the austerity policies that have prevailed since 2010. And there will, of course, be many people warning him to abandon that promise, to behave “responsibly.”
   実現不可能なギリシャ型の緊縮財政を旨とした経済復興プログラムに挑戦すると公約して選ばれた初めてのヨーロッパのリーダーだと持ち上げている。

   さて、まず、このコラムのクルーグマンの見解を整理してみると、ほぼ、次のようになる。

   ギリシャの政治的激震を理解するためには、IMF,ECB,EU委員会のトロイカがギリシャに課した Greece’s May 2010 “standby arrangement”(ギリシャ向け300億ユーロのスタンド・バイ取決)、すなわち、緊縮財政と改革を条件とした借款を注視しなければならない。
   トロイカは、冷静かつ現実的だと装っているが、最悪のドキュメントであり、絵空事(Fantasy)であって、ギリシャ人たちは、エリートの妄想に代価を払い続けてきた。

   この取り決めで、ギリシャは、経済成長も雇用増にも殆ど効果のない厳しい緊縮財政を強いられた。
   取り決めがなされた時には、ギリシャは、既に、不況下にあったにも拘らず、翌年には少し経済は悪化するが、2011年には回復する。と見込まれていたのだが、実際には、予測が外れて、失業率は、2009年には9.4%であったのが、2012年には15%となり、どんどん悪化して行った。

   実際に露見したのは、経済的かつ人的な悪夢(nightmare)であった。
   2011年から不況が加速度を増して高進して、完全な不況となり、やっと、2014年に底が見えたが、失業率は28%に、若年層の失業は60%に達しており、回復半ばとは言え、不況前の生活水準に達するかどうか、近未来の見通しは全く立たない。

   では、何が悪かったのか。
   ギリシャは、取り決めを守らず、支出削減をしなかったのではないかと言われることがあるが、決してそんなことはなく、必死に努力し、
   蛮刀を振るって公共サービスを切り詰め、公務員の供与をカットし、社会福祉支出を削減し、何度にも亘る緊縮財政と公共支出を、当初の予定を上回って削減を行って、2010年より実際にには、20%減少した。

   しかし、ギリシャの債務問題は、計画当初よりも悪化して行った。
   ギリシャ政府は、GDPシェアで前よりも高く税金を取り、2012年には、より好条件の債務削減を受けたにも拘らず、経済成長を実現できなかったが故に、GDPがどんどん下落して行き、債務増加率は減少して行ったものの、債務のGDP比率は、上昇を辿って行った。

   当初の予測が、甘すぎたのだが、これは、石頭の官僚が、ファンタジー経済学に溺れた所為で、EU委員会とECBは、支出削減による直接雇用破壊効果は、民間セクターの楽観主義の高まりによって凌駕されると信じ、多少懐疑的であったIMFも、緊縮財政のダメッジを過小評価していたのである。
   トロイカが、真に現実的であったれば、不可能を要求しなかった筈である。
   ギリシャ再建策開始2年後に、IMFが、緊縮財政を強いたギリシャ・タイプの再建策が、主要債務免除なりインフレーションなしに、成功した例が、これまで、歴史上にあったかと調べてみたら、一例もなかったのである。

   
   さて、クルーグマンは、今回のチプラスの登場によって、債務免除や緊縮財政政策が緩和されたとしても、ギリシャ経済が、しっかりとした回復に向かうかどうかは疑問だと言う。
   そして、ギリシャが、ユーロ圏を離脱する準備が整っておらず、そして、ギリシャ人の心構えが出来ていなければ、上手く行けるかどうかは、クリアではないとも言っている。
   それ程、ギリシャ経済の悪化は深刻であり、この救済もそうだが、ピケティが警鐘を鳴らした経済格差拡大の深刻さをも考えれば、現代資本主義の病み具合は、かなり、進んでいると言うことであろう。

   最後のコメントが面白い。
   モラルが改善させるまでは、懲罰しつづけようとするEUの官僚たちよりも、チプラスは、もっとリアリスティックである。
   他のヨーロッパは、チプラスを助けて、ギリシャの悪夢を終わらせよう。と言うのである。

   これまでにも、何度も書いたので蛇足は避けるが、政治的統合を後回しにして、全く、政治経済社会体制も違えば、歴史も文化も違う異質な国々を包含して、経済的統合を、進めたことに無理があり、今回のギリシャ問題も、経済的に、最後まで、ギリシャを救い切ろうと言う意識が、EUの参加国、特に、ドイツにないところに問題がある。
   確かに、経済崩壊前のギリシャの放漫経済の酷さは言語道断だが、元々、ドイツとギリシャの統合など不可能だった筈で、これが、同じ国家なら、当然、徹頭徹尾、ギリシャを救済せざるを得ない筈である。
   EU統合で、一番メリットを得ているのは、ドイツだと思うが、クルーグマンが言っているのも、要するに、ギリシャ問題は、ギリシャ独自の問題としてではなく、一つの世界として、問題を考えよと言うことである。
   瀕死状態の経済に、ドラスチックな公共支出や雇用の削減を強いて需要サイドを徹底的に切り詰めて、経済成長の芽を一切摘んだところには、経済成長なく、不況からの脱出策は有り得ないと言うことで、最早、モラルの問題ではなかったと言うことである。

   スペイン、イタリア、ポルトガルも、ギリシャと同じ問題を抱えており、今や、EUそのものも、デフレ不況と言う日本病に蔓延しつつあり、経済的危機に直面している。
   今年の台風の目は、ヨーロッパであろう。
   ロシアも、どうなるか、予断を許さない。

   世界は一つ、日本だけが安閑と出来る筈等など、全くない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 国立能楽堂・・・大蔵流狂言... | トップ | 上野東照宮の冬ぼたん »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治・経済・社会」カテゴリの最新記事