熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

鉄の開く未来・・・日本鉄鋼連盟シンポジウム

2008年05月23日 | 政治・経済・社会
   日本には、古くから「たたら製鉄」と言う手法で鉄が生産されていたが、大砲鋳造には、亀裂が入りやすいという欠点があって、丁度、江戸末期、外国船が日本近海に出没していた時期なので、国防上の要請により、砲身に亀裂が入りにくい品質の高い鉄が求められた。
   このために、盛岡藩士の大島高任が、1858年に、良質な鉄を求めて、釜石に「洋式高炉」を築造して操業を始めた。
   これが、日本における「近代製鉄」の原点だと言うことで、今年が、近代製鉄発祥150年に当たるので、日本鉄鋼連盟が、記念シンポジウム「鉄の開く未来」を日経ホールで開催した。

   山根一眞氏の基調講演「鉄は文明の秘宝」と、木場弘子キャスターの司会で、住友金属工業の友野宏社長と北野大明治大教授によるパネルディスカッションが行われたが、これまで、沢山のセミナーやシンポジウムに出ているが、一番、興味深くて大変楽しいシンポジウムであった。

   ビッグバンから説き起こして、地球が、3分の1鉄で出来ている「鉄の惑星」であり、海から生まれ出でた我々人類の身体にもヘモグロビンと言う形で鉄が体中を駆け巡っているなど卑近な話から、鉄の文化や地球温暖化対策まで、非常に幅の広い分野に亘って、話題が弾んだ。
   鉄に限りなく入れ込んでいる山根さんが、この日を期して「メタルカラー列伝 鉄」を出版し、その薀蓄を傾けた新鮮なトピックスを、貴重なスライドなど映像を駆使して展開し、
   シンポジウムでは、友野さんの社長と思えないようなタレントぶりに、「たけしの兄」の北野先生が絡んでの非常に博識な話題を、木場さんが実に上手く引き出していて、正に、これこそテレビで放映すべき貴重な「鉄の教室」であると思った。

   山根さんの話で、ブラジルの鉄鉱山が話題になっていたが、私が、サンパウロに赴任したのが、1974年で、丁度、ブラジルブーム真っ盛りの頃で、確か、リオドセ鉱山の開発、ウジミナス製鉄所建設や積み出し港等の整備への日本企業の参画が進出目的の一つであったような記憶がある。
   今や、リオドセがヴァーレとなり、世界最大の鉄鉱石を所有する鉱山会社となり、世界の鉄の運命を一手に引き受けている感じだが、今昔の感である。
   民営化の時に、4兆円で売り出されたのを、日本が買っておれば良かったと、山根さんは言っていたが、前にも書いたとおり、ブラジルには、日系移民と言う素晴らしい日本にとっては宝のような人的資源とコネクションがあるにも拘らず、軽視ないし無視して財界も政界も殆どブラジルには注意を払わなかったのだが、BRIC’sと騒がれてからでは、もう遅い。

   興味深かったのは、友野社長が、
   日本の鉄鋼生産のエネルギー原単位の生産性が最も高いのでこの技術を世界的に普及させ、鉄鋼の質を益々高度化し、また、コークス炉ガス改質水素による鉄鉱石の還元技術によるCO2抜本的削減開発プログラムを推進すれば、まだまだ、地球温暖化対策のためのCO2削減は可能である。
   この日本の技術を持ってセクター別アプローチを進めたい。と言う発言であった。
   鉄鋼の質については、同じ高さのエッフェル塔と東京タワーでは使用鉄鋼量は半減しており、質の向上によって、どんどん鉄鋼量の使用が減っており、今日では、1200㍍の高さのタワーの建設まで可能だと言う。
   しかし、産業別に最先端の技術を如何に世界中に普及させて、その技術に平準化して行くのか、これは、現状のグローバリズム経済なり、資本主義経済を理解しないユートピア的な議論だと思う。
   セクター的な技術的アプローチは極めて有益だが、あくまで補完的な手段で、市場原理がエンジンである資本主義システムでは、問題が多くて次善の策であっても、排出枠を設定して、炭素に価格をつけて取引させ、市場メカニズムを活用するのが一番ワーカブルなのである。
   問題が起これば、その都度アジャストすればよい。為替管理と同じである。
   
   ステンレスが、失敗作として、偶然、生まれた。セレンディピティだと、北野先生が言ったのに対して、友野社長が、元素記号の隣のクロムやニッケルの合金比率を変えながら試行錯誤の上で生まれたものだとの説明があった。
   イノベーションが生まれる時に、セレンディピティが話題を呼ぶが、しかし、現実には、大変な科学的・技術的な試みの積み重ねの結果に生まれ出でることが多く、問題は、その偶然の結果の値打ちに気付くことで、これを如何に実用化してイノベーションに結びつけるかであろう。

   北野先生は、技術は、モノとエネルギーと情報との結合から生まれるのだと説明していたが、もう、その技術もイノベーションも、革命的なものでなければ地球が持たなくなってしまった。
   私は、地球温暖化の問題も深刻だが、山根さんが指摘していたように、その一因でもある人口の増加そのものが、問題だと思っている。
   私の子供の頃は、人口30億人だと言っていたが、人口100億人は目前だと言う。
   マルサスでなくても、この驚異的な速さで増え続ける人口を、有限で小さな地球のエコシステムガ支えきれる筈がなく、破綻への道へ一直線に突っ走っているような気がして仕方がない。

(追記)たたら製鉄の記述について、アンフェアだとのコメントだが、鉄鋼連盟の見解だと言うことで書いたので、他意はない。(2009.1.12)
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4 コメント

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あらかね (和田)
2008-10-13 15:31:26
いま、薮田絃一郎著「ヤマト王権の誕生」が密かなブームになっていますが、それによると大和にヤマト王権が出来た当初は鉄器をもった出雲族により興されたとの説になっています。
 そうすると、がぜんあの有名な出雲の青銅器時代がおわり四隅突出墳丘墓が作られ鉄器の製造が行われたあたりに感心が行きます。当時は、西谷と安来の2大勢力が形成され、そのどちらかがヤマト王権となったと考えられるのですがどちらなんだろうと思ったりもします。


アンフェアーな記事 (東田)
2009-01-12 00:34:49
 たたら製鉄には優秀な鋼をつくる直接製鋼法(ケラ押し法)と、銑鉄をつくるズク押し法がある。前者は不純物の少ない鋼をつくるため今でも高強度な日本刀には重要な素材である。一方、たたらの銑鉄は純度が高いゆえに白銑化しやすいため、大砲の鋳造のようなダモノには向かなかった。
 それをあたかも、たたら製鉄の材料が脆いと言いがかりをつけるのはアンフェアーだとおもう。
深化し続ける鉄鋼材料 (技術志向の投資家)
2014-01-31 22:51:20
 それは微妙なニュアンスの話で、インパクトはない。しかしH金属さんのSmagicとかいう工具鋼のすべり性はすごくいい。業界が変わると、カジリとかスカッフィングとかセイジャーとか言う現象に強く、生産速度を上げるとその効果は覿面らしい。
見つけました。 (トライボシステム展望)
2017-05-05 00:20:26
 現在の機械構造材料の最大のネックは摺動面。
いくら機械的特性(材料強度・硬さ)が高くても、材料というものは摩擦に弱い。
そのため潤滑油が存在する。しかしながら、それでも弱いので
コーティングをする。
しかし、日立金属が開発した自己潤滑性冷間ダイス鋼SLD-MAGICは
コーティングレスで摩擦に強いことが特徴。そのメカニズムは
潤滑油と特殊鋼が相互作用を起こし、グラファイト層間化合物
(GIC)という高性能な潤滑物質を作るためであることが、日立金属技報
2017で公表された(炭素結晶の競合モデル;CCSCモデル)。
 これにより機械設計は小型化され、摩擦損失と軽量化の同時
解決が見込まれ、自動車の燃費向上に大いに寄与することが期待
されている。

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