熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国立文楽劇場・・・豊竹嶋大夫引退狂言「関取千両幟」千穐楽

2016年01月27日 | 観劇・文楽・歌舞伎
   文楽の本拠地大阪から始まっている嶋大夫引退狂言「関取千両幟」の千穐楽公演を見る機会を得た。
   「関取千両幟」の幕開き前に、盆が回って登場した嶋大夫と三味線の鶴沢寛治師が正座して深々とお辞儀をすると「嶋大夫!」の掛け声と熱狂的な拍手、司会兼口上を述べたのは呂勢大夫で、立て板に水の名調子で、嶋大夫の業績などを語り、観客の惜しみなき感動の拍手に迎えられて幕が開く。
   
   
   
   

   一時体調を崩されていたようだが、嶋大夫は、何時ものように、演台に手を添えての素晴らしい熱演で、冒頭の「芝居は南、米市は北、相撲と能の常舞台・・・」と語りはじめると、水を打ったような静寂、観客の熱いまなざしを受けて浄瑠璃が熱を帯びる。
   髪梳きで、「相撲取りを男に持ち、江戸長崎国々へ、行かしやんすりりやその跡の、留守はなほ更女気の、独りくよくよ物案じ・・・」
   恩ある贔屓筋のために、勝負に負けなければならない苦衷に泣く夫猪名川に、何故、打ち明けてくれないのかと、涙ながらに夫への熱い思いをかき口説くおとわの哀切極まりない嶋大夫の浄瑠璃に、簑助の遣う人形が嗚咽を堪えて甲斐甲斐しく試合前の猪名川の髪を梳く。実に優雅で美しい。
   嶋大夫は、この、おとわのクドキが情があって、いいんですよ、と言う。

   さて、今回の舞台は、一門で臨む最後の舞台と言うことで、嶋大夫のほかに、師匠の孫・豊竹英大夫(猪名川)、以下弟子の竹本津國大夫(鉄ヶ嶽)、豊竹呂勢大夫(北野屋)、始大夫(大坂屋)、睦大夫(呼遣い)、芳穂大夫、靖大夫と一門が顔をそろえた。
    「引退にかけて、劇場が一門でやらせてあげようという親心だと思う。うれしいし、ありがたい」。嶋大夫は顔をほころばせると言うのだが、
   引退披露狂言の選定は、この日経の小国由美子さんの記事では、”嶋大夫は掛け合いで、おとわを演じる。自身の希望ではなく、文楽劇場から勧められたという。”と言うことで、このアレンジも、嶋大夫の決断ではなかったようである。

   しかし、嶋大夫が、1994年4月より切場語りとなったと言うことで、私自身、丁度、その前年にロンドンから帰って来て、その後、殆ど欠かさずに国立劇場へ通い続けて文楽を鑑賞しているので、嶋大夫の得意とする情あふれる「世話物」の語りや、それらの文楽の名場面は、十分に楽しませて貰っており、このブログにも書いている。
   一期一会であるから、この素晴らしい最後の「関取千両幟」のおとわを聴いて、聴きおさめと言うのも、凄いことだと思っている。
   尤も、もう一度、東京の国立劇場で、千穐楽を聴くことにしている。

   ところで、国立劇場の上演記録を見ると、平成25年2月では、おとわは、源大夫が休演で呂勢大夫が、平成18年2月では、おとわは、咲大夫が勤めており、嶋大夫が演じたのは、平成7年9月と平成4年11月で、この国立文楽劇場では、ほぼ、23年ぶりなのである。
   私は、平成18年の方は記憶が残っていないが、平成25年の舞台を観ており、簑助のおとわや藤蔵などの三味線の曲弾きのなどのすばらしさについて、このブログに書いているが、今回の舞台でも、寛太郎が、凄い曲弾きを披露していた。
   それに、臨場感たっぷりの相撲シーンもあって、鉄ヶ嶽が、塩の後で、琴奨菊よろしくイナバウアー・スタイルをして、観客を喜ばせていた。

   玉男が、「世話物、女形の艶のある語り、きれいな声が印象に残っております。」と語っているが、女形を遣っては最高峰の簑助のおとわの人形に血も涙も、そして、魂をも吹き込んで情に生き情に泣かせるのであるから、最高の引退披露公演であろう。

   さて、八代豊竹嶋大夫引退披露狂言「関取千両幟」終演後、幕が開くと、舞台を終えたばかりの鶴澤寛治、吉田簑助が花束を持って舞台に立っていて、呼ばれて登場した嶋大夫に、花束が贈呈された。
   簑助は、おとわの人形を優雅に遣って花束を渡し、嶋大夫と握手をさせていたが、身売りしてまで夫の義理を立てた女の鏡とも言ううべき(尤も、今から言うとナンセンスだが)理想の女神からの感謝の花束を演じていたのかも知れない。
   このシーンは、国立文楽劇場のHPの写真を借用して転写する。
   
   

   さて、嶋大夫の人間性そのものの発露なのであろう、劇場には、派手で目立った引退披露狂言と銘打ったディスプレイも飾りつけも何もなく、平静と変わらない、実に静かな佇まいである。
   唯一、嶋大夫の写真が飾られているのは、1階ロビーから2階のエントランス・客席へ上る階段ホールの壁面にかけられている「関取千両幟」のポスターだけである。
   
   
   
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