熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

イアン・ブレマーの「Top Risks for 2019」イノベーション冬の時代

2019年01月15日 | 政治・経済・社会
   昨年は、「Global tech cold war」で、第3位のリスクに上げたが、今回は、第6位で「Innovation winter」。
   グローバルベースで、イノベーションが冬の時代に入ったというのである。

   さて、イノベーションの冬の時代論については、次のような中長期的な観測もある。
   ロバート・ゴードンの論文「Is U.S. Economic Growth Over? Faltering Innovation Confronts the Six Headwinds」を読み、YouTubeでの「イノベーションの死、成長の終わり」を聴いたが、
   今後、イノベーションが推移するとしても、アメリカ経済の成長を阻害する6つの逆風(人口変動、教育、格差、グローバリゼーション、エネルギー/環境、個人と政府の債務、(demography, education, inequality,globalization, energy/environment, and the overhang of consumer and government debt.)が吹き荒れて、1991年から2007年までの平均成長率が2%であったが、ゴードンの推測では、これが、年率0.2%にまでダウンして、産業革命以前の状態に戻る、すなわち、イノベーションに期待できなきなくなるというのである。

   しかし、勿論、ブレマーの「Innovation winter」は、このような経済構造に踏み込んだイノベーション論ではなく、直近の政治経済状況を展望してのイノベーションの将来像で、ニュアンスが全く違っている。

   まず、2018年では、テクノロジー競争は、極端に政治化していたのだが、2019年には、投資家と市場が、その代価を支払わされることになろう。新しく生まれてくるテクノロジーを促進する財政的にも人材的にも投下資本が、政治的に大きく削減されるので、グローバルベースでのイノベーション冬の時代に突入する。というのである。

   このグローバル・テクノロジー危機の大混乱は政治的要因であり、列強国は、
   セキュリティに対しては、国家安全のために必須の分野において外国サプライヤーに対して買収や輸出等露出を抑え、
   プライバシーに関しては、国民のデータの使われ方をもっと厳しく管理し、
   経済面では、海外の既存の市場リーダーに対して、自国のチャンピオン的新興技術開発企業を保護するために障壁を築く
   などを、行うであろう。

   最も直近の危機的な状態は、米中関係である。
   緊張が続けば、先進的な技術開発のキイとなる米中の政策の間のシナジー効果を減殺する。
   すでに、関税が、米国企業に、中国からのサプライチェーンのシフト部門を、東南アジアやラテンアメリカや本国に移し替えることを強いており、このディカップリングが、複雑な最終アセンブリーを含めた米国製品を、政治的に安全な市場へ、差し向けるべく、政治的かつ財政的に圧力がかかっている。

   米中の貿易摩擦、テクノロジーの離婚(?)の影響は甚大で、企業や市場は、資金を引き揚げ、企業は、工場や倉庫のリロケーションなどを、長年築き上げてきた中国に匹敵する熟練労働者や適切なロジスティックのある地域へ移すとなると膨大な金が要るであろうし、米中別々に対応すると、次世代の5Gデータネットワークの構築に至っては、もっともっと、時間と金がかかるであろう。
   
   アメリカにとって、痛し痒しなのは、中国人のSTEM学生や労働者への安全対応であるが、米国ヴィザの制限や禁止を行うと、米国への創造的な才能の流入を阻害することになり、中国の方も、米国経験のエンジニアや企業家の帰還が減って成長にマイナスになるなど、キイ・テクノロジー分野での、予測不可能なさざ波効果を伴ったイノベーション・タレントのパイプラインを破壊する心配が生じる。

   以上が、ブレマーレポートの、全部ではないが、ほぼ主要な見解である。
   
   ブレマーの見解は、アメリカ政府の政策を反映しており、自国のテクノロジーなり先端技術を他国、特に、中国やロシアに漏洩ないし無防備に移転しないために、規制を強化するということが主眼であって、日欧等同盟関係にある諸国は、これに追随するであろうから、そのことが、グローバル経済の趨勢となって、テクノロジー発展のシナジー効果を減殺してその芽を摘む心配があると言うことであろう。
   イノベーション根幹のICとは、インデアンとチャイニーズ、すなわち、アメリカの高度なICTテクノロジーの開発を担っているのは、インド人と中国人と言うことであるから、外国からのアメリカへの科学者や技術者の鎖国政策は、即、アメリカのイノベーションの首を絞める。
   ここでは、米中貿易戦争、特にその影響について、アメリカ企業の中国から退却して他の地域に工場や倉庫等生産拠点をリロケーションするのに膨大な金がかかってイノベーションどころではないと言っているのだが、そんな次元の問題ではないのである。 

   米中の貿易戦争がどうなるか、うまく解決しなければ、世界経済に甚大な影響を与えることは必定で、これに、テクノロジーや先端技術の移動を極端に制限し締め付ければ、ブレマーの説くごとく、イノベーションの冬の時代到来かも知れない。
   しかし、イノベーションは、そんな単純なものでもないので、私は、正しいかどうかは分からないが、ロバート・ゴードンのイノベーションの死の方を心配している。
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