2013年5月22日(水) 富士山を巡ってー忍野八海 で寄り道
世界文化遺産への登録が、ほぼ確実となった富士山を巡って、当ブログでも、
富士山を巡ってーUTMF (2013/5/10)
富士山を巡ってー世界自然遺産として (2013/5/15)
富士山を巡ってー世界文化遺産への登録へ その1 (2013/5/20)
を投稿してきた。ここで、忍野八海で、少しく、寄り道をしたい。
前稿で触れたように、山梨県忍野村の忍野八海は、富士の伏流水の湧水池として、八つの池それぞれが、世界文化遺産の構成資産に含まれているのだが、いささか、気になることがある。
○先ず、気になる1件は、忍野八海の案内図の事である。地域内の随所に出ている案内図は、下図の様なものだ。(ネット画像より)
忍野八海 案内図
これは、大変わかりやすい案内図なのだが、道路地図などと比べると、変なのである。要は、道路地図は、通常、北が上になるのだが、この看板は、北が下(南が上)になっているのだ。
以前、山中湖の方面から、道路地図を見ながら、ここを訪れた時も、頭が混乱したのだが、今回、ネットで調べた限りでは、現在も同じように、北が下の案内図になっているようだ。
原図を180度回転して、北を上にすると、下図左のようになる。何故、このような図にしないのだろうか? ネットには、北が上の図も、何とか見つかったがーー。(下図右)
原図を180度回転 北が上の案内図
忍野八海の案内図が、南が上になっている理由には、富士山の位置との関係があるように思える。あの辺りから富士を見ると、方角的には、南西方向になるのだが、富士が真上に来るような図にしているのではないか?
地図は、北が上とは決まった事ではないようだが、習慣的にその様にしている。 地下街などでは、90度回転して、北が横になった地図は、時に見掛けるのだが、南が上の地図は、殆ど目にしたことは無い。地球の南半球の人達は、南が上の地図を望んでいるとも聞く。
最近では常識になっているが、カーナビで表示される道路地図は、北が上ではなく、進行方向が上になるように表示する場合が多い。両者には、一長一短がある訳だが、運転者から見ると、進行方向が上の方が、やはり、分りやすい。
似たようなことだが、電車の出入り口のドアの上にある、各駅の表示図は、最近は、車両の左右で、以下の様に変えている。
進行方向左側ドアの上にある表示図:図の右が進行方向
進行方向右側ドアの上にある表示図:図の左が進行方向
この表示は、見る人に優しく大変分りやすいのだが、時々、進行方向に関係なく、同じ表示図の時があると、頭の中が、やや混乱してしまう。
元々、上下や左右などは、人間が勝手に決めた習慣的な約束事だろうが、時々、それとは異なる状況に出会うと、混乱することとなるようだ。 富士山の偉大さが、その約束事を変え、富士山が上にくる案内図にさせている、のだろうか?
○2件目は、八つの池には入っていない、「中池」のことである。 この中池、場所も中心部の一等地にあり、水量も多く、湧水もきれいで魚も泳いでいて、素晴らしい池だ。以前、グループで忍野八海を訪れた時は、その見事さに、忍野八海は凄いや、と思ったことだ。
所が、今回分ったのだが、この中池は、地元の企業池本荘が、ボーリングして作った人工の井戸(池)と言われ、そこが管理しているようだ。 土産物を扱う売店や、食堂を利用しないと、池の真ん中にある島には行けない様になっていて、自分の記憶でもそうなっている。
ウィキペディアには、
「中池」は池本荘により人工的に掘削された穴である。「水車小屋」の水は「湧池」内部より汲み上げられている。その為、「湧池」の湧水量は激減し、2003年に池の縁が一部崩落した。また、水が「濁池」の中より「中池」へ流出したため、「濁池」の状態が著しく変化している。
忍野八海には、その名の通り「8ヶ所」に池があるのだが、周辺にはそれ以上の数の池が存在する。ただし「出口池」「御釜池」「底抜池」「銚子池」「湧池」「濁池」「鏡池」「菖蒲池」の8つ以外の池は「忍野八海」とは何ら関係の無い人工池である。特に池本荘の正面にある「中池」は、比較的規模が大きく目立つ上に忍野八海の中心に位置する事などから、多くの観光客はこれが忍野八海の1つと勘違いしてしまうが、「中池」は前述の通り人工物であり、忍野八海ではない。 同様に、「はんのき資料館」内部の大きな池も人工池であり、忍野八海には含まれない。
と出ており、少なくとも好意的な記述ではない(忍野八海 - Wikipedia)
以前、信州の安曇野に行った時に、アルプスの伏流水が、滾々と湧き出る様子を見たことがあるが、中池は、それに近い。
湧水量の多い湧池は、地域の飲料水や、農業用水にも利用されている、重要な水源でもあると言う。忍野八海の他の池は、往時はいざ知らず、現時点では、小さかったり、浅かったり、水が澱んでいたり、水面に雑草が生えていたりなど、この中池に比べると、かなり見劣りがするのである(逆に言えば、遺産らしいがーー)。
でも、国の天然記念物に指定されている八つの池は、前述の案内図にはちゃんと出て来るのだが、中池は、全く出てこないのだ。(上述の、北が上の案内図には、人工池の名で出ている)
この、中池周辺の施設や管理形態は、観光客を相手にした金儲けの、商業主義が幅を利かしているようにも見え、ここが出している以下の地図は、当然だが、憂さを晴らすかの様に、中池が、中心に大きく描かれている!(忍野八海池本)
富士山と中池を中心にした案内図
図では、良く見ると、本来の忍野八海も、小さく表示されている。
ほぼ南の方角に位置する富士山が、この図では、真上に描かれているが、この図を見るに及んで、先述の、忍野八海の案内図が、南が上になっている理由は富士山である、という確信に変わったのである。
地元には、地下水を巡って、土地の所有権や、水の管理運営権など、歴史が絡む複雑な話から、争いや対立があるのかも知れないが、何ともすっきりしない話だ。
池本グループに言わせれば、自分たちが頑張っているからこそ、忍野村にも観光客が来てくれるのだ、と胸を張ることだろう。まさにその通りで、中池が無かったら、寂れた遺跡となって、果たして観光客は来てくれるだろうか。ライブカメラも設置されていると言う、中池あたりからの富士山の風景は、忍野富士としても、素晴らしいものだ。
中池からの忍野富士(ネット画像)
環境保護と観光との両立は、大きな課題だが、自然の姿を壊すことなく、地下水を生かしながら、八つの池を、もう少しきれいに、活性化出来ないものか、全体として、公と私とをバランスさせた運営の工夫は出来ないものだろうか、と思う。
遺産として守りながらも、一方で、地域としての維持・振興を図ることも、極めて重要なことで、今回の世界遺産登録を機に、今後どのように展開されるのか、注目していきたい。
○もう1件は、遺跡に関することだ。元々、忍野八海は、富士山の火山活動に絡む自然の造形としては貴重なものだが、歴史的に、富士山信仰に関わる巡拝地でもあり、富士登拝を行う道者たちはこの水で穢れを祓った、などとあり、文化遺産としては何があるのか、茅葺屋根の民家も、それに当たるのか等、良く分からず、腑に落ちなかったのである。
でも、少しく調べたところでは、各池には、霊場として、以下のように、水の守り神とされる、竜王が祀られていると言う。ただ、遺跡の所在は未確認だがーーー。
1 出口池 難陀竜王
2 御釜池 跋難竜王
3 底抜池 釈迦羅竜王
4 銚子池 和修吉竜王
5 湧池 徳叉迦竜王
6 濁池 阿那婆達多竜王
7 鏡池 麻那斯竜王
8 菖蒲池 優鉢羅竜王
また、それぞれに、歌が詠まれていて、歌も記した碑(一部、無くなって更新)も残っているようだ。以下の画像は、第6霊場の濁池の、新たに作られた表示碑だが、歌は
「ひれならす 竜の都のありさまを くみてしれとや にごる池水」
と書かれているようだ。
これらは、ソフト・ハード双方で、立派な文化遺産であろう。(忍野八海 - Wikipedia)
第6霊場 濁池の碑(ネット画像より)