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一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『デフレの正体』

2011-03-09 | 乱読日記
いわずと知れた昨年のベストセラーですが、本が出る前に著者の講演を聞いた人から面白かったと資料を見せてもらっていたので、内容的には似たような話だろうと思って読まないでいたのですが、遅ればせながら読んでみると、さすがにベストセラーになるだけはあるわい、という内容でした。

講演ではある程度テーマを絞ることが多いのでしょうが、本書は数多くの講演を基にしながら、さまざまな論点にわたり目からウロコのわかりやすい解説をしています。


今思うと不思議なのは、本書がこれだけ売れたにもかかわらず、相変わらず本書で指摘されているような見当違いの現状分析や問題意識をもった論説がまかり通っていること。
たとえば出生率や有効求人倍率のような「率」をみるだけで絶対数を見ないと市場の変化を見落としてしまうというこの本の重要な指摘などは無視されたかのように、今までどおりの報道が続いています。

季節ごとに発表される統計数字の推移を十年一日のように報道・論評することに安住し続けていて、それを見直そうという動きがないこと自体が、現在の日本を象徴しているのかも知れません。









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外国人からの政治献金の禁止:政治資金規正法のおさらい

2011-03-08 | まつりごと

前原外務大臣が外国人からの政治献金を受けていたことで辞任しました。
国会の紛糾のとばっちりだとか、誰かの画策だとか、沈みゆく船からいち早く脱出するとか、いろいろな見方があるようですが、とりあえず政治資金規正法についておさらいしてみます。

外国人からの献金禁止のくだりはここ  

第二十二条の五  
何人も、外国人、外国法人又はその主たる構成員が外国人若しくは外国法人である団体その他の組織(・・・上場されている株式を発行している株式会社・・・にあつては、当該定時株主総会基準日において外国人又は外国法人が発行済株式の総数の過半数に当たる株式を保有していたもの)から、政治活動に関する寄附を受けてはならない。ただし、日本法人であつて、その発行する株式が金融商品取引所において五年以上継続して上場されているもの・・・がする寄附については、この限りでない。  
2  前項本文に規定する者であつて同項ただし書に規定するものは、政治活動に関する寄附をするときは、同項本文に規定する者であつて同項ただし書に規定するものである旨を、文書で、当該寄附を受ける者に通知しなければならない。

確か1項但書は、外国の投資信託などの外国人株主比率が過半数を超える企業が増加した中で最近(確かキヤノンの御手洗会長が経団連会長に就任する前あたりのタイミング(それが原因だったかどうかはわかりませんが))で導入されたものです。  

一方で、献金する側にも禁止規定があります。

第二十二条の六  
何人も、本人の名義以外の名義又は匿名で、政治活動に関する寄附をしてはならない。  
2  前項及び第四項の規定(匿名寄附の禁止に係る部分に限る。)は、街頭又は一般に公開される演説会若しくは集会の会場において政党又は政治資金団体に対してする寄附でその金額が千円以下のものについては、適用しない。  
3  何人も、第一項の規定に違反してされる寄附を受けてはならない。

ちなみにこれらへの罰則は、

第二十六条の二  
次の各号の一に該当する者は、三年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

三  第二十二条の三第六項、第二十二条の五第一項又は第二十二条の六第三項の規定に違反して寄附を受けた者(団体にあつては、その役職員又は構成員として当該違反行為をした者)
四  第二十二条の六第一項の規定に違反して寄附をした者(団体にあつては、その役職員又は構成員として当該違反行為をした者)  

となっています。

そもそも政治団体は政治資金報告書の提出義務があり(これも政治資金規正法で決められています)、寄付した人や団体の住所氏名代表者等の属性を確認するはずで、適法な寄付かどうかの一定のスクリーニングは出来ているはずというたてつけなのでしょう。  

ただ、実際上は寄付を受ける際に個人なら住民票を出せ、法人なら登記簿謄本と株主名簿と株主の住民票を出せ、とまで言っていては寄付も集まらないと思います。
なのでこの規定は実質的には実際上は寄付は身元の確かな支持者から受けろ、ということなのかもしれません。
さらに、悪意のある人が巧妙に偽装した罠を仕掛けた場合については22条の6で取り締まるということなのでしょう。

今回の前原大臣も、騙された、引っ掛けられたというのなら刑事告発を先にするのが筋でしょうが、やはり脇の甘さはあったのかもしれません。
また、小沢氏が政治資金規正法違反で強制起訴されていることとのバランスを考えたのでしょうか。

政治資金規正法は、政治資金の流れの透明化に関する報告のところは詳細なのですが、行為規範のところはけっこうザルだったりするのですが(注)、そのかわりに過失の場合でも罰則にかかるようなたてつけになっているのでいざとなるとけっこう効いてきますね。
今回笠にかかって攻めている自民党議員は大丈夫なのでしょうか?

形式犯のリスクを考えると、そのうち政治団体も淘汰され、最終的には政党が献金の窓口になるほうが効率的になるように思いますし、個人的にはそのほうが望ましいと思います。
そうなれば比例区で当選したのに所属政党を移る議員とか、政治団体を世襲する形で実質相続税を逃れるような議員もなくなるし。


(注)
法文上は外国人または外国人が過半の議決権を持つ(上場5年未満の)法人からの寄付が禁止されているのですが、形式的には外国会社の日本子会社が出資する孫会社の寄付は禁止されていません。
買収防衛策における「アルティメット・ペアレント」のような概念はないので、その動機が究極的には本国の親会社の利益になるものであったとしても、孫会社の独自の資金であれば、26条の2で禁止されている「本人の名義以外の名義」にはならないと思います。

また、政治資金報告書のところも抜け道はあるのかもしれませんが、そのへんはよく知りません。

コメント (2)
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昨日の補足

2011-03-04 | よしなしごと

不動産仲介業者が売主・買主双方から手数料を収受していることが利益相反になるのではないか、という問題提起について、参考までにアメリカの事情をご紹介。

ユーザーとしての実体験からのまとめとして参考になるのが
アメリカの不動産エージェント
アメリカ不動産購入記(エージェント選び)

仕組みとしては、売主・買主それぞれに"seller's agent"と"buyer's agent"がつくのですが、手数料は売主が支払うものを分け合うので、構造的には"buyer's agent"が買い手の利益のために働くのは契約上の義務ということになる。
したがって、結局利益相反・双方代理的なものを排除するのはどのような行為規範をどこまで法律等で強制するかの問題になります。

「売主が手数料を払う」というのは一つのアイデアとしては参考になる部分はあるとは思いますが、双方代理・利益相反の弊害の解消は結局行為規範の問題になるように思います。そのなかで仲介手数料の自由化というのは、ちょっと筋が違うと思います。
中小の不動産業者の反対を沈静化するための取引材料として導入するのは却って妙な結果になってしまいそうな感じです。

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Tweetの補足

2011-03-03 | よしなしごと

民主党中村てつじ参議院議員の不動産仲介手数料の規制緩和と「両手取引」の原則禁止でとりあげられている民主党の成長戦略PTへの提案書の趣旨がわかりにくい件。Twitterで言いっぱなし

わかりにくい。政策議論ってこんなレベルなのかな。引用元のの方が格段に問題意識が明確 RT @: 不動産仲介手数料の規制緩和と「両手取引」の原則禁止

だったので補足。

前提として、住宅市場は新築中心から中古物件の流通に移っていく、一方で流通形態の複雑化から現状の宅建業法の仲介報酬の規制が合わなくなってきていることにふれています。
そして

また流通形態としてはリフォームと売買を組み合わせるようなケースも出てきており、別途コンサルタント手数料を加算する必要が出てくる等、単純な仲介手数料の上限規制が以上のような変化に対応できなくなってきている。

ここがそもそもわからない。
中古物件を業者がリフォームして売主として売る(物件取得とリフォームの内容がセット)のなら仲介の世界ではないです。
一方で中古物件を買ってリフォームを請け負うなら仲介(宅建業)+請負(建設業)に整理できます。「この物件を仲介してやるから俺にリフォームを任せろ」という仕事を認めるのでは諸費者保護にはならないと思います。
また、請負でなく中古物件を買う人にリフォームのアドバイスをする場合も、アドバイスの報酬と仲介は別のものです。
また、リフォーム業者を紹介して業者からキックバックを受け取るとすると、仲介と一体取引としてしまった場合にはかえって利益相反の問題が出てしまいます。

なので、仲介報酬の上限が時代に合わない、という例としては適切ではないように思います。

それに続いて

一方で、流通形態は現実に複雑化してきているので、建前は「仲介」の形態であっても実質的には代理・代行の性質を帯びてきており、単純な現状での引き渡しを前提とする仲介とは異なり、一つの業者が売り手と買い手を取り持つ形態では双方代理のような弊害が生まれている。

上の設例が理解できないので、この段落もわかりません。
「建前は「仲介」の形態であっても実質的には代理・代行の性質を帯びてきており」というのが具体的にどういうことを言うのでしょうか。そもそも宅建業者は取引態様の明示を義務付けられているので「媒介(=仲介)」か「代理」かは明示義務があります。その区分自体を改めるべきという主張でしょうか。
あと「代行」というのが具体的にどのような法律行為を意味するのかもわかりません。
また「一つの業者が売り手と買い手を取り持つ形態では双方代理のような弊害」は「単純な現状での引き渡しを前提とする仲介」であったとしても生じうるし、複雑な形態であれば双方代理のリスクが増加するとすれば、それはリフォーム工事など仲介とは違う部分の問題ではないでしょうか。
そもそも売買当事者双方から手数料をもらう「仲介」という形態がおかしい、とストレートにいえないのは、後ろにある「地方の業者からの反発」への政治的配慮なのでしょうか。

また、大手仲介業者による物件の囲い込みも行われていると指摘されている。

これについては、末尾にも紹介されている不動産業界にもあった“八百長問題”がわかりやすいです。
これ自体は問題だと思うのですが、物件の囲い込みを厳密に禁止して、買い手側の仲介業者は宅建業者のデータベースにアクセスして情報を得るとなると、業者は価格交渉力・物件調査力・契約から引渡しまでを円滑に行なう実務能力で差別化を図ることになりますが、これは一般消費者にアピールするのは難しく、また消費者も不動産取引など一生に何回もするわけではないので業者の選択に悩む結果、結局大手の寡占が進んだりディスカウント業者が増えたりしてしまうおそれもあるのではないかと思います。

提案書に戻ります。

両手取引について「原則」禁止と断っているのは、双方代理的弊害や囲い込みなどの問題が起こらない場合があり得るため。例えば、工務店が不動産業を兼ねているようなケース。品質を担保する供給業者が売主に代わって販売をすることで、品質を保証して売却することができる。

このケースはどのような取引を意図しているのかがよくわかりません。
「工務店が不動産業を兼ねている」会社=「供給業者」と読むのでしょうが、とすると

売主(A)-販売代理+品質保証業者(B)-買主(C)

という取引で
・Aは売主としてCとの契約上の瑕疵担保責任を負う
・BはAの瑕疵担保責任をAに代わって負う/または瑕疵担保責任とは別にCに対し物件の性能保証をする
・BはAからは販売代理を受託する
ということなのでしょうか。
販売代理だとすれば現行でもBから6%とればいいので、別に双方代理の問題はありません。
また「品質保証サービス」は保険や保証業のようなもので、仲介(代理)報酬とは別の契約にすれば現状でも宅建業法には抵触しないように思います。


残念ながらこの提案が成長戦略につながるとは理解できませんでした。

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漏洩問題つづき

2011-03-01 | よしなしごと

入試問題漏洩の件、相変わらず妙な方向で続くようなのでこちらもおつきあい。

早稲田は答案全件を確認したり、被害にあった大学間で受験者データを照合(ちなみに個人情報保護法の第三者提供の例外は厳しく限定されていて、また国立大学法人は行政機関でないので警察の捜査協力でないとダメということのようです)したりするようですが、そんなことを急いでやる前に、同種の手口を防止するための方策を優先すべきだと思います。

当然犯人に対しては応分の処分は必要ですが、別に入学を許しても事後的に退学処分にすればいいだけです。
その方が当の本人も入学手続きをするのにリスクがあるので一定の抑止効果になるし。


さらに、昨日テレビを見ていたら、立教大学の人が記者会見で「入試制度の根幹を揺るがす暴挙だ」と言っていました。  
そもそもカンニング一つで揺らいでしまう入試制度の根幹というのも情けないような。

なら、学部の試験で学生のカンニングをみつけたら「単位制度の根幹を揺るがす」とかいって退学処分にしているのでしょうか。せいぜい停学処分くらいでは? 
マスコミに乗せられて「被害者の怒り」を言い過ぎると、いずれ自分のところに戻ってくるので、ほどほどにしておいたほうがいいと思います。  


試験問題の漏洩で思い出すのが司法試験委員で慶応大学法科大学院だった植村栄治教授が司法試験問題を漏洩した件。

こちらによると 事実関係は植村氏は

・ 慶応大法科大学院の学生らを対象に、考査委員が禁じられている答案練習会を7回開き、試験問題に関連する判例の要旨などを学生に一斉メールで送った
・ 試験直前の先月6日、試験で書いた論文を再現したものがあれば個人的に採点するとした一斉メールも学生に送った

ということのようです。

これに対して植村氏は 

「立場を考えれば公正さを疑われても仕方がない。今となってみれば軽率な行為だった」と話した。  
実際の試験で、練習会で取り上げた「都市計画法」や「外国人の退去強制処分」などに関する問題が出たことについては「ことさらに試験に出そうな論点を外す配慮はしなかったが、問題を漏洩(ろうえい)するようなことはしていない」と説明した。

といっています。  

結果的に、植村氏は司法試験委員を解任され、慶応大学教授を辞任しました。 

ただ、同時に弁護士から刑事告発されていた後の顛末ははっきりしません。
報道されなかったということは立件されなかったのでしょう。  

こっちの方こそ出題者の不正であり司法試験制度の根幹を揺るがす不祥事だったように思いますけど(今回、慶応大学は対象になっていなくてホッとしているのではないでしょうか)、それでも刑事事件にはなっていません。 

今回犯人が摘発されたとしても、
①入試会場にいるAが会場外のBに問題を送信
②BはYahoo知恵袋に投稿した
のは事実だとしても、
Aは「Bに『こんな難しい問題が出て困った』とメールしただけ」、Bは「自分も正解に興味があったのでYahoo知恵袋に投稿しただけ。Aがそれを見たかどうかは知らない」などと白を切ったときに立件できるのでしょうか。 

警察としても、事件の重大性の判断で植村氏の件との比較を持ち出されたときに困るのではないでしょうか。

犯人探しや謎解きはひとまず置いて、公正な試験会場の環境整備に力を入れて欲しいです。


PS
ちなみにwikipediaによると植村氏は現在、大東文化大学の教授をやっているようです。

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