一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

時間差攻撃

2009-07-09 | 法律・裁判・弁護士

JR西社長を在宅起訴 宝塚線事故「安全対策怠る」
(2009年7月8日23時47分 朝日新聞)  

107人が死亡、562人が負傷した05年4月のJR宝塚線(福知山線)脱線事故で、神戸地検は8日、96年の現場カーブ付け替え時に自動列車停止装置(ATS)の設置を怠り、事故を発生させたとして、JR西日本の山崎正夫社長(66)を業務上過失致死傷の罪で在宅起訴した。山崎社長は付け替え当時の常務取締役鉄道本部長で、地検は同社の安全対策を統括する最高責任者としての義務を果たさなかった過失があると判断した。山崎社長は起訴後に会見し、社長の辞任を表明した。  

起訴状によると、山崎社長は鉄道本部長だった96年12月、現場カーブを半径600メートルから同304メートルの急カーブに付け替える例のない工事を実施した際、十分な安全対策を講じなければ大事故が起きることを予測できたのに、ATS設置を指示せずに05年4月25日に脱線事故を発生させたとされる。  

山崎氏は鉄道本部長のときの責任を問われているのですが、「現社長」というところがJR西の広報的には厳しい(ニュース的にはおいしい)です。

業務上過失致死罪の要件や取締役に対しての適用についてはtoshiさんがエントリを立てられているのでそちらをご参照いただくとして、2005年の事故について起訴まで4年もかかっているというところがJRにとっては予想外だったと思います。
記事によると書類送検されたのが昨年9月なのですが、そこまでかかったというのは警察としては事故調査委員会の報告などを受け事件性なしと判断したあとに刑事告訴を受けたのでしょうか。

業務上過失致死傷罪の法定刑は「5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」なので公訴時効は5年ですが、特に社会的にインパクトのあるような事件の現場=重要な業務の責任者は社内的には優秀な人なのでしょうから、5年もすればけっこう昇格している可能性もあります。
会社としては「重要な役職に昇格した後に起訴されるリスク」をあまり考慮すると人材起用に保守的になってしまいますし、そもそも起訴されない・起訴されても無罪になる可能性もあるので、それも合理的な行動とは言えません。
起訴(されたくはないでしょうがどうせ)するなら早めにしてくれよ、というのが本音ではないでしょうか。


今回のような大事件でなくとも、事故・事件からしばらく経った後に類似の事件が他社で起き、その頃には安全性の世間的な要求レベルが上がっていて「じゃああの事故もいけなかったんじゃないか」というケースや、もっと意図的に、当時の責任者が昇格した後にマスコミなどを動員して話題を盛り上げてから告訴・告発をするという「太らせてから食う作戦」を取られるということまで考えると、企業側にとっては業務上過失致死傷罪の公訴時効はけっこう厄介な問題だと思います。


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違和感のある事件(報道)

2009-07-09 | よしなしごと

昨日はいやな事件がおおかったのですが、取り上げられ方に違和感があったのがこれ。

切り付け直後に登校か=「変わった様子なかった」-補導の中2次男・出雲市教委 (2009年7月8日(水)06:05 時事通信)

島根県出雲市の市営住宅で、会社員男性(43)が殺害された事件で、補導された中学2年の次男(13)が、切り付けた直後に登校していたとみられることが8日、分かった。同市教委は「(事件発生の)7日午前は授業を受けており、特に変わった様子はなかった」としている。

朝のテレビで教育委員会の人が記者会見をしていたのですが、こういうことにも教育委員会はコメントする必要があるのでしょうか。
確かに保護者のうち父親は被害者だし母親は取材に応じられる状態ではないでしょうが、そういう場合に「誰かがコメントをしなければいけない」ということでもないと思います。 (教育委員会が自発的に記者会見をするとも思えないのですが記者クラブあたりから教育委員会に「強い要請」をしたのでしょうか。)  

そもそも家庭内のトラブルについては教育委員会の責任ではないし、厳密にいえば日頃の素行についてはプライバシーの部分もあるんじゃないでしょうか(興信所の調査に対して教育委員会が生徒の日頃の素行を話したりしたらマスコミに袋叩きにされそうです。)。 
14歳未満の犯罪は刑事責任を問わず児童相談所(経由で家庭裁判所)の判断になるので(参考)、必要であればそこからの事情聴取に応じればよいだけではないかと思うのですが。


それから、「格差」とか「セーフティネット」の議論もありますが、貧しかろうがなんだろうがやっちゃいけないこと、という社会常識が薄れつつあるように思うのが二件ありました。

事件時、失業保険切れ=経済的な行き詰まり原因か-パチンコ店放火殺人・大阪府警
(2009年7月8日(水)20:03 時事通信) 

大阪市此花区のパチンコ店が放火され、4人が死亡、19人が重軽傷を負った事件で、殺人や現住建造物等放火容疑などで逮捕された無職高見素直容疑者(41)が事件の約1カ月前、「失業保険が切れた。仕事もまだ見つからない」などと話していたことが8日、関係者への取材で分かった。  

大阪府警此花署捜査本部は、高見容疑者が200万~300万円の借金を抱えていた上、再就職のめども立たないなど経済的に追い詰められ、事件を起こした可能性があるとみて調べている。   


千葉の路上、ガソリンかけ火つける ハローワーク女性重傷 女を現行犯逮捕
(2009年7月8日(水)15:45 産経新聞)

8日午前8時すぎ、千葉県野田市山崎の東武野田線梅郷駅付近の路上で「女性が火を付けられ、火だるまになっている」と通行人から110番があった。  

野田署によると、同県柏市に住む国家公務員の女性(40)が女に火を付けられた。野田市消防本部によると、女性は茨城県内の病院に搬送された。上半身にやけどを負っており、重傷という。  

野田署は現場近くにいた自称中国生まれで、柏市内に住む無職、樊玉萍容疑者(45)を殺人未遂容疑で現行犯逮捕した。現在の国籍は不明。  

県警によると、被害者の女性はハローワークに勤務。樊容疑者は「仕事を探していたが見つからず、自暴自棄になって脅かそうとした。自分も死のうと思った」と供述している。

下については、こういうときは「110番」でなく「119番」じゃないか、というつっこみはさておき、こういう動機をことさらに報道すると、経済的に追い詰められたら赤の他人を殺すこともありうる、というのが「通り相場」になってしまいそうです。 



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位討たれ?

2009-07-09 | まつりごと

東国原知事の衆議院出馬問題については一昨日のエントリの自民党による「位討」ではなく、単に「勘違い」(言うなれば「位討たれ」?)なのではという意見がこちら

大前研一の「産業突然死」時代の人生論 知事連合で地方から国政を変えられる(2009年7月7日)

中央集権の国において地方自治体の首長が持っている権限は小さい。一県の知事として「できること」はきわめて小さなものなのだ。その小さな実績をもとに自分の能力を過信し、国政に身を転ずる政治家が出てくる土壌が地方政治にある。いわば「勘違い」を育ててしまうのだ。  

わかりやすい例をあげておこう。全国の人気知事・有名知事の中で、県民所得を平均より高めて経済的な復興を果たした人物はいないのである(埼玉県や神奈川県は近年県民所得が上がっているが、それは東京都の経済があふれ出して流入してきたための経済成長であるのでここでは考えない)。大した実績がなくても人気を集めてしまうのが知事職(あるいいは政令指定都市の市長職)なのだ。  

では、なぜ人気が出るか。中央に逆らうポーズのためだ。国に抵抗する姿勢を見せると「お、この人勇気がある。期待が持てるかも…」となってしまうわけである。   

で、勘違いしないためにはどうするかといえば、 昨日のエントリのチェ・ゲバラではないですが、自分が「頭をとる」ことでなく「数をまとめる」ことが大事で、それは知事のままでもできるではないかということを、大前氏の持論の道州制実現をモデルに語っています。

知事連合という仕掛けをうまく使えば、地方の政治にかかわりながら国政にもかかわることができる。県知事と国務大臣との二足のわらじを無理やり履く必要もなければ、県民を袖にして政権政党の総裁になる必要もない。本当に道州制をめざすのであれば地方自治体のほうで十分できるし、道州制移行を実現するための議員を地方から中央に送り込むことからまず始められるだろう。何も知事自ら中央に乗り込んでいくことはないのである。同じ考えで仲間となる首長の数を増やすだけで自動的に国会の多数が握れるからである。

結局、位が上になることより視座を高く・視野を広くすることのほうが大事(上の位を求めるとしても必要なことですが)だということですね。

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