決勝戦観戦の寝不足もあり、所用にかこつけ早めに退社した帰りに、昨日の『紅一点論』での、「男の子の国のチームが、『寄らば大樹の陰』的な体質」をもつという指摘でふと思い出した漫画を購入。
思い出したのはこのシーン
原作:矢作俊彦 作画:大友克洋による『気分はもう戦争』
もう20年以上も前に立ち読みしただけなので、この決め台詞のところしか覚えておらず、また、当時は大友克洋がストーリーも書いていると思ってました。
矢作俊彦は一部では非常に人気の高い作家のようですが、私はNAVIに連載していた頃の『スズキさんの休息と遍歴』くらいでしか触れることがなく、全共闘世代の人だなぁ、という印象しか持っていませんでした。
ただ、この作品は全共闘色はなく(主人公が昭和30年生まれという設定なので、あえてそうしたのでしょうか)僕がずっと大友克洋の単独作品だと思いこんでいたわけです。
この話は「正義の戦い」どころか好きで戦争に行くというアナーキーな話を、ディテールへのこだわりとスピード感のあるストーリー展開でが読ませる作品で、大友克洋の細密かつ表情豊かな絵がそれに迫力を加えています。
当時(1983年)の日本は冷戦+日米安保体制の下でかえって国際情勢が安定していて、日本も居場所がはっきりしていて、テロやテポドンの危険も現実化していなかったわけで、かなりインパクトがありました。
それが20年以上経っても刊行されつづけている(56刷!)所以でしょう。
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そんな昔の話を思い出していたら、もっと昔に遡ると、民間人が自発的に戦争を仕掛けているというハチャメチャな話があったことに気づきました。
本宮ひろ志『男一匹ガキ大将』 です。
最後のほうでは主人公が子分を集めて原油をめぐってアメリカの財閥と戦争をしてしまいます(民間機に爆弾を積んで手落としで空爆するとかw)。
何の後ろ盾もない民間人の戦争、しかも相手はアメリカ得意の「正義を実現するために武力行使をする謎の財団」とくれば、斎藤美菜子の仮説への有力な例外といえるか・・・?と思ったのですが、
Wikipediaによると
本宮自身は既にストーリーを出し切ってかなり早い段階で終わらせようとしていたのだが、当時人気絶頂だったためジャンプ編集部に終わらせることを許されず、無理矢理続きを描かされていたという(原稿の最後に「完」と書いたのに、当時の担当編集者だった西村繁男が勝手に修正液をかけてその部分を消した、といったこともあったとか)。
そのため、1995年に出た文庫版(注:上のリンク先です)では本宮の「読み返す気になれない」と言う意向で後半は収録されることはなかった。
ということは、作者が意図して書いたというよりはやけくそだったというところが実際なのかもしれません。そうなると、斎藤説への反証としてはちょっと弱いかな・・・
(カットされた部分の細かいあらすじについてはこちらを参照。なかなか壮絶です。)
ところで、本宮ひろ志は、その後『俺の空』『サラリーマン金太郎』とヒット作を飛ばします。
しかし僕は『俺の空』の最初の頃を(その当時としては)きわどいシーン目当てに読んでいたのですが、それでも段々ストーリーがワンパターン(いつも、主人公は勝手なことをするものの、主人公自身が大財閥の一族だったり、「お前の男気にほれた」と有力なスポンサーが現れたりして、結局やりたい放題、結果オーライのハッピーエンドになる)に飽きてしまいました。
(『サラリーマン金太郎』も似たような展開なんでしょうか)
しかしこのような男の成功パターンは、今度は逆に、斎藤美菜子の言う「現代のシンデレラ文化の国=女の子の国」」(=王子様に見初められてハッピーエンド)と同じ構造なんですよね。
結局、本宮ひろ志も斎藤美奈子の網から逃れられなかったということでしょうかw
※余談ですが、少女漫画家であった現本宮夫人が本宮ひろ志のアシスタントとして参加するのがちょうどこの頃であることを考えると、彼女は「女の子の顔を書く」以上の貢献をしたのかもしれませんね。
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ただ、上の後期本宮マンガの主人公のように、スポンサー(とか権力者の寵愛)を獲得することはビジネスの世界でもひとつのノウハウなわけです(「爺殺し」なる言葉もあるくらいで)。
特に年功序列の時代(「ゴマすり」などの比較的低レベルのノウハウが通じた?)と違い、成果主義の現在のビジネスシーンにおいては、自分のすることが常に他人から評価されることは重要になってい(ると言われて)ます。
そして、雑誌やビジネス本などで書かれている「ウケるプレゼン」とは「可愛く見えるしぐさ」と同じノウハウを違う側面から表現したものにほかなりませんよね。
とすると、バブル崩壊は日本の「男の子の国=モモタロウの国」(=斎藤美奈子曰く、男の子が無邪気に敵と戦う世界)文化をも崩壊させ、「女の子の国=シンデレラの国を流布させた、といえるかもしれません。
で、そのときの「男の子」の役は、お金持ちで鬼退治の大好きな海の向こうの某国が引き受けた、ということか・・・
・・・マンガをめぐる昔話だったはずが、話がとっ散らかってしまいました。
収拾がつかなくなってしまいましたので、今日はこの辺で。
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PS 『気分は・・・』を買いに行った本屋で見かけて一緒に買ったのが吾妻ひでお『失踪日記』の続編の『うつうつひでお日記』。
これは今日は読まずにとっておきます^^
※『失踪日記』については以前のエントリで取り上げてますので興味のある方はごらんください。
吾妻ひでお『失踪日記』(前編) または宮澤賢治「眼にて云ふ」
吾妻ひでお『失踪日記』(後編)