一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

「自分の言葉で書きなさい」

2005-12-29 | あきなひ

もう20年以上前の話で恐縮ですが、当時中学だか高校だか(それくらい記憶が定かでない)の国語の試験問題で「(このとき主人公はなぜこう言ったのでしょうか、などという設問)の回答を、自分の言葉で(○文字以内で)書きなさい」という問題文がよくありました。

当時純粋だった僕は、一生懸命自分なりにオリジナリティのある気の利いた言葉で解答を記入してみたのですが、どうもはかばかしい点数がもらえません。
しかも模範解答を見ると、愚にもつかないありきたりの解答が並んでいて、鼻白んだものです。

それをしばらく続けるうちに、ある日、設問は「問題文から引用せずに、わかりやすい説明をしろ」ということをもっともらしく言っているだけだ、ということに気がつきました。

なんだつまんねぇ、それじゃ、試験は単なる作業じゃねぇか、と思うと同時に、なるほど大人になる(世の中に適応する)というのはこういうことか、と妙に納得した記憶があります。


前振りができの悪い「ドラゴン桜」みたいになってしまいましたが、話は試験問題の良否とか回答者の心構えについてではなく、新会社法で求められるようになった内部統制システムの構築についての話です。


新会社法では、362条5項で

大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は前項第6号に掲げる事項(=取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備)を決定しなければならない。

と定められています。

※ちなみに、法務省令案(パブリックコメント中)がこちら
 株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令案の概要
 法務省令案

実は現行の商法でも取締役には他の取締役の業務執行を監督する義務があり、最近の企業不祥事においては、悪事を働いた取締役以外の責任を問うだけでなく、他の取締役に対しても監督義務違反で株主代表訴訟を提起する、ということが実際に行われています。

しかし今回の新会社法と法務省令は、他の取締役の業務執行の監督だけでなく「使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」の構築まで求められるので、世の企業経営者にとっては

「取締役の義務が加重された、さあ大変」

という受け止め方が主流だと思います。

そして今後一番考えられる展開は以下のようなものではないかと思われます。

① さすがにこりゃ勘弁してよ、という要求が経団連などからパブコメとして出される
② 経団連とか経済産業省が「内部統制システム構築ガイドライン」を作る
③ 各企業が「右へならえ」でガイドラインに準拠した社内規則・組織を制定する

 法務省で会社法の改正作業に従事された葉玉検事のブログでは 

しかも,私が「こういうのが典型的な内部統制システムです。」なんて紹介したら,司法試験受験生の解答例丸写し答案みたいな内部統制システムが,来年次々に出てきたりして,絶望的な気分になりそうな予感もあり(笑),沈黙は金ということにしたくてたまりません。

とおっしゃってますが、葉玉検事が心配しなくても案を作らなくても、何かに「右へならえ」になんじゃないかと思います。

まあ上の①と②は悪い事じゃないですね。それが、③になだれ込んでしまうというのは、各社の組織や法務担当者が、取締役からは「何があっても責任を問われない体制を作れ」といわれるわ、かといってよって立つ判例や他社事例もないわで、途方にくれる中では、「皆でわたれば怖くない」という発想になってしまうことによるとおもいます。

それによって企業統治が半歩前進すれば社会全体としてはそれはそれで成果なのかもしれませんが、何かちょっとさびしい感じがします。

上の「概要」にも

第2 重要な項目とその内容
1 体制の整備に際しての取締役の責務
(1) 規律の概要1 株式会社の業務の適正を確保する体制に関する事項の決定の際には,次に掲げる事項に留意するよう努めるものとすることを明らかにしている(省令3条。)

①株主の利益の最大化に資するものであること
②機関相互の適切な役割分担と連携を促すものであること
③会社の個性及び特質を踏まえたものであること
④株式会社を巡る利害関係者に不当な損害を与えないようなものであること等

とあり、企業がそれぞれの経営理念や業務執行のスタイルに応じて内部統制システムを構築することが前提にされています。


でも、残念ながら企業理念から独自の体制を作るような会社は極めて少ないんだろうな、とも思います。

逆にいえば、企業の方も経営を自分の言葉で語れないからこそ、こうやっていろいろお仕着せのルールに汲々とすることになってしまうんですよね。
(「日本版SOX法」とか「日本版COSO」とか、毎度「日本版○○」のキャッチアップというのもちょいと哀しいです。)


残念ながら、それが日本企業の(「現在の」と書きたいw)実力ということでしょうか。
・・・自戒も含めて。


PS 
経団連会長に内定されたキヤノンの御手洗会長は、米国流株主利益第一の経営とは一線を画した、従業員を大切にしたりするいわゆる日本的経営(正確に言えばキヤノン的経営)で有名ですが、御手洗経団連が内部統制システムに関して「右へならえ」のモデルを出すかどうか、個人的には興味があります。
また、このような経営をするキヤノンは外国人投資家からの評価が高く、外国人持株比率が50%を超えていろんな法律で「外資系」扱いになっています。
結局しっかりした経営理念とその実践が評価されるのは洋の東西を問わない、ということでしょう。

ちなみにキヤノンは政治資金規正法でも「外資系企業」扱いで政治献金が禁止されているため、政治家からの献金の要求をいちいち断らなくても済む、という意外なメリットもあるそうです。
でも、来年の国会で政治献金が可能になるように法改正される見込みとか。こういうところは議員さんはしっかりしてますね。

コメント (2)
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