「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「宮廷画家ゴヤは見た」

2008年10月21日 21時42分29秒 | 映画
 
 タイトルは 「家政婦は見た」 みたいですが、 さにあらず。

 「アマデウス」 のミロス・フォアマン監督が、

 18~19世紀のスペインの 波瀾を描いた秀作です。

 ゴヤは宮廷画家として 王たちの肖像画を描く一方、貧しい庶民の姿を 描き続け、

 権力の腐敗を鋭く風刺する 版画などを創っていました。

 ゴヤにとって絵画は、 社会や人間の真実を伝える 武器でもありました。

 この映画では、 きのうの記事にも書いた ナタリー・ポートマンが、

 過酷な汚れ役を 力演しています。

 裕福な商人の娘として 天使のような輝きを放ち、

 画家としての ゴヤの目を射止めた イネスの役ですが、

 教会の異端尋問にかけられ、 無実の罪で 囚われの身になってしまうのです。

 全裸で拷問を受け、15年の牢獄生活で 精神も病んでしまいます。

 全身皮膚病のようになって、 顎もゆがみ、 老婆のような風貌で、

 「スターウォーズ」 アミダラ姫の 面影はありません。

 イネスは獄中で 身ごもらされます。

 しかし 産まれた娘は すぐ孤児院に移され、

 その後 逃げ出して 娼婦になりますが、

 ポートマンは一人二役で この娘も演じています。

 天晴れな女優魂を 見せられた思いです。

 イネスを妊娠させた ロレンソ神父は、

 「ノーカントリー」 で 不気味な殺人鬼役で アカデミー賞を獲得した

 ハビエル・バルデム。

 威厳の下に 邪心を隠し持つ 宗教者を好演しています。

 スペインは フランス革命の影響や ナポレオンの侵攻を受けて、

 権力者が二転三転します。

 そのたびに 裁く人間と 裁かれる人間が 一挙に逆転する構造は、

 実に残酷なものです。

 自由と平和の名の下に、 庶民を強奪し犯す 軍隊や権力者たち。

 ゴヤは それらを克明に 書き留めていきます。

 デフォルメによって 物事の本質を表現する ゴヤの絵画は、

 美術史の革命である 印象派の先駆けであったのでしょう。

 フォアマンは ゴヤの目を借りて、現代にも通じる 社会問題を写し取りました。