「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

心子との花見(2)

2006年04月04日 18時55分28秒 | 心子、もろもろ
 
 心子は、燃える民家へ走って向かう途中、次に何をすべきか素早く頭を回転させていたといいます。

 火の中に飛び込んで、自分の上着を家の人にかぶせて外に出し、人工呼吸や火傷の処置など、可能なことを組み立てていました。

 自分は焼け死んでも、目の前の人を助け出す心子なのです。
 

 僕たちも向こう岸へ渡って間もなく、消防車が到着しました。

 我々も消防隊員に事情を聞かれました。

「私がこの人の携帯を借りて連絡したんです。最初にかけたのは私なんです!」

 心子は何度も強調しました。

 携帯電話の持ち主は笑いをこらえていました。

 いかにも心子が第一通報者だと自慢しているように見えたのです。

 でも心子は、通報者が後日消防署に呼ばれることもあるのを知っていたので、

 携帯の持ち主に迷惑がかからないように気を遣っていたのでした。

 大事に至らず幸いでしたが、どういうわけだか心子は不思議と色々なでき事に出くわすのです。
 

 僕の部屋に戻ってきて、僕はその人が笑っていたことを心子に告げました。

 彼女は気落ちしてぐったりと突っぷしました。

「何であたしってこうなるの……?」

 一生懸命にやっていることが、何だかいつも滑稽になってしまうのです。

 無理して走った心子は、一夜明けて体中が痛いと訴えましたが、やるべきことをできたと言って満足していたものでした。
 
コメント
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