心子は、燃える民家へ走って向かう途中、次に何をすべきか素早く頭を回転させていたといいます。
火の中に飛び込んで、自分の上着を家の人にかぶせて外に出し、人工呼吸や火傷の処置など、可能なことを組み立てていました。
自分は焼け死んでも、目の前の人を助け出す心子なのです。
僕たちも向こう岸へ渡って間もなく、消防車が到着しました。
我々も消防隊員に事情を聞かれました。
「私がこの人の携帯を借りて連絡したんです。最初にかけたのは私なんです!」
心子は何度も強調しました。
携帯電話の持ち主は笑いをこらえていました。
いかにも心子が第一通報者だと自慢しているように見えたのです。
でも心子は、通報者が後日消防署に呼ばれることもあるのを知っていたので、
携帯の持ち主に迷惑がかからないように気を遣っていたのでした。
大事に至らず幸いでしたが、どういうわけだか心子は不思議と色々なでき事に出くわすのです。
僕の部屋に戻ってきて、僕はその人が笑っていたことを心子に告げました。
彼女は気落ちしてぐったりと突っぷしました。
「何であたしってこうなるの……?」
一生懸命にやっていることが、何だかいつも滑稽になってしまうのです。
無理して走った心子は、一夜明けて体中が痛いと訴えましたが、やるべきことをできたと言って満足していたものでした。