H氏自身の言葉を紹介してみましょう。
「殺されたから殺す。
第三者なら大方が、この単純な因果応報の理屈に賛成するでしょう。
ところが、被害者の身内であった私たちにとっては、まさにここのところが納得がいかないんですよ。
私たち家族にとってはどう考えても、非道なことをした犯人より弟の命のほうが尊い。
その弟が殺されたから、加害者の命を奪ってハイ、おしまいというんじゃあ、なんだか、あまりに安易で、命の等価交換にかすぎないと思うんですよ。
これでは弟と加害者と同じ価値しかないことになる。
それでは我慢できないんですよ。」
加害者を許したわけではない。
いや彼の犯行を憎むからこそ、死刑執行を望まないのだ。
生きて、とことん生きて、それこそ血を吐く思いで償ってほしい。
(「されど我、処刑を望まず」福田ますみ[現代書店]より)
(続く)