ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

22.03.02 緊急投稿・ウクライナのこと。

2022-03-02 | 政治/社会/経済/軍事






 よもや『戦争と平和』の話をしている時にこのような事態が勃発するとは思わなかった。いやまあ「話をしている時」っつったって、実際にはほとんどしてないんですけども。なにしろ2022年に入って更新がまだ2回だけという。
 それはまあそれとして。
 ロシア軍がウクライナに侵攻した先月(2月)24日、NHKがBSプレミアムでたまたま『戦争と平和』……オードリー・ヘプバーンがナターシャ、ヘンリー・フォンダがピエールを演った1956年の映画……を放映して、「なんて皮肉な偶然だ」と一部で話題になったらしいんだけど、歴史ってものは何らかのかたちで繋がってるから、この手の巡り合わせってのもふつうに起こりうるんでしょうね。





 ところで、その大作『戦争と平和』はアメリカとイタリアの合作なので、ヘプバーンのナターシャも、フォンダのピエールも、メル・ファーラーのアンドレイ侯爵も、みんな英語で喋ってるわけね。そりゃハリウッドではモーゼだってクレオパトラだって古代ローマの剣闘士だってモーツァルトだって、ついでに銀河の彼方のジェダイたちだって、みんなアメリカ英語で喋ってきたわけで、べつにいいんだろうけど、東西対抗だの冷戦構造だのといっても、やはり戦後の世界ってものは圧倒的にアメリカを中心に回ってきたことは間違いない。その一端がこんなところにも伺えると思う。
 このたびのロシアによるウクライナへの侵攻は、「東西冷戦終結後の世界秩序を破壊する歴史的な暴挙」ということになっていて、また、「主権の尊重・領土の一体化・国際法順守などの原則に基づく国際秩序を揺るがす暴挙」ともいわれており、それはまったくそのとおりだと思うけれども、そういう論調を見ていると、だったらアメリカが2003(平成15)年に起こしたイラク戦争はどうなんだ、という思いがどうしても湧いてくるんだなあ……。
 この状況でそんなことを口にしたら「いま言うことか」「空気読め」といわれそうだけど、「ヨーロッパの秩序に対する強引な現状変更」がここまで非難されるのに、「中東の秩序に対する強引な現状変更」が何だかんだで罷り通って、いまだに有耶無耶になってるってのがどうもね……あれはやっぱりアメリカという国の歴史的な汚点のひとつであると思いますけどね。
 もちろん、いかにドストエフスキーとトルストイとをこよなく敬愛するとはいえ、ぼくはとうぜんロシアよりアメリカのほうがだんぜん好きだし、そもそも日本で生きる一国民として、選択の余地そのものが無いわけですが。アメリカが「イラクを攻めるから支持しろ。」と言ってきたら「畏まりました。」と言ってそれに従い、「ロシアに対する制裁に加われ。」と言ってきたら「畏まりました。」と言ってそれに従う。そんなふうにしてこの国は戦後80年近くを過ごしてきたわけで、ことさら卑屈だとも情けないとも思わない。それこそ「(太平洋)戦(争)後の世界秩序」というもので、仕方がないと思ってます。
 とはいえ、その調子でこれからも平穏無事でやっていけるかどうか、ちょっと怪しくなってきた気もしますがね……。いまひとつ議会制民主主義が機能してない覇権主義国家は、いつ暴走を始めるかわからない。そういった不安が顕在化した事例ともいえるわけだから……。














 それにしても、今この時期にウクライナへの侵攻とはなあ……。いやソ連時代の1979(昭和54)年にもアフガニスタン侵攻というのがありましたがね……。それは上で述べたアメリカによるイラク戦争にも深くかかわる話で、やはり因果がぜんぶ繋がってるんだけど、当時のアフガニスタンと比べたら、いまのウクライナはずっと安定した主権国家なんだからね……。NATOに加入されるのが嫌だったって……。なんだ、ぜんぜん冷戦構造終わってないじゃんって話ですよね。
 ただ、そんなこといっても、ぼくはこれまでウクライナのことはよく知らなくて、ここ4、5日くらいでネットを漁ってにわか勉強したクチなんで……そこは大多数のひとがそうじゃないかと思うんだけど。
 中公新書の「物語各国史」の一冊として、『ウクライナの歴史』というのが出てますね。簡潔な通史で、入門書として定評あるシリーズだけど、『ウクライナの歴史』の原本(紙媒体)の初版は2002年。副題が「ヨーロッパ最後の大国」。内容説明と目次はこうなってます。






ロシア帝国やソヴィエト連邦のもとで長く忍従を強いられながらも、独自の文化を失わず、有為の人材を輩出し続けたウクライナ。不撓不屈のアイデンティティは、どのように育まれてきたのか。スキタイの興亡、キエフ・ルーシ公国の隆盛、コサックの活躍から、1991年の新生ウクライナ誕生まで、この地をめぐる歴史を俯瞰。人口5000万を数え、ロシアに次ぐヨーロッパ第二の広い国土を持つ、知られざる「大国」の素顔に迫る。


目次
第1章 スキタイ―騎馬と黄金の民族
第2章 キエフ・ルーシ―ヨーロッパの大国
第3章 リトアニア・ポーランドの時代
第4章 コサックの栄光と挫折
第5章 ロシア・オーストリア両帝国の支配
第6章 中央ラーダ―つかの間の独立
第7章 ソ連の時代
第8章 350年間待った独立




 


 これは電子書籍化されてますね。きちんと基本を抑えるには、こういう書籍がいいんだろうけど、より手っ取り早く、背景をざっくり掴みたいというならば、こういうメディアもいいかもしれない。日本が世界に誇る(サブ)カルチャー、すなわち漫画なんですが。




コミックDAYS(講談社)
田素弘『紛争でしたら八田まで』ウクライナ編・全6話(単行本 2巻・3巻所収)
期間限定 無料公開
https://comic-days.com/episode/13933686331616212564




 イギリスに本社を置く企業に所属するリスク・コンサルタントの八田百合(この記事の冒頭に画像を掲げたメガネの女性)が世界各地に赴き、持ち前の行動力と格闘術、そして卓越した地政学の知識を生かして紛争を解決していく痛快ストーリー。その中の「ウクライナ編」が、今回の事態を受けて無料公開されてます。講談社さんの英断ですね。アクションものには違いないけれど、どぎつい描写はなく、楽しく読めて基礎がわかる。何よりも明朗で、ハッピーエンドなのがいい。ぼくもさきほど卒読しましたが、とても良かった。なにぶん期間限定なので、取り急ぎご紹介まで。