ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

メロドラマ。その①

2019-11-01 | 物語(ロマン)の愉楽
 「神話」には確かに物語のパターンがぜんぶ詰まっているけれど、時代区分でいえばそもそもは「古代」に属するものだ。また、「説話」はおよそ中世に属するものだろう。
 だから「神話」「説話」からぽーんと今に飛んじまうのは乱暴だ。ところが、ブログの過去記事を読み返してみると、ぼくはなんだかいつもそんな調子で論を立ててる。「神話」なる用語(概念)を濫用しすぎてる。いけません。
 17・18、そして19世紀の前半、ニホンでいえば江戸時代、つまり近世ですね、その時期にもとうぜん「物語」はいっぱい作られたのに、その辺についての認識が浅い。まあ、よう知らんからですが。
 よう知らんなりに、もう少し、腰を落としていきましょう。
 「神話」や「説話」はもっぱら「詠み人知らず」だけれど、近世ともなれば、物語の作り手が固有名をもって立ち上がってくる。早い話が「作者」ですね。
 といって、皆がみな名前を留めてるわけでもなく、いっちゃ悪いが有象無象も少なくない。というか、有象無象が累々と折り重なってつくった土壌の上に、選ばれた僅少の才能が花開く感じか。
 それと、この頃になると、物語は筆で書かれるものだけとは限らない。西洋でいえばオペラ(初期の)とか、日本でいえば歌舞伎とか、浄瑠璃とか、ビジュアルや音響が加わってくる。むろん、中世からつづくロマンスやら騎士道物語のバリエーション、日本だったら戯作やら黄表紙、そういったコトバの芸術だって、質量ともに膨れ上がっていく。
 古代が「神話」で中世が「説話」。……では、近世にうまれたそれらの「物語」を一括できる総称はないものか。
 そう考えて、「メロドラマ」という用語(概念)に思い至った。メロドラマ。いいね。もちろん外れる部分も多いんだけど、とりあえず今回は、これを掘り下げてみましょう。




 ピーター・ブルックスさんの『メロドラマ的想像力』によれば、メロドラマの作劇術とは以下のようであるらしい。「らしい」というのは手元に当の本がなく、ネットの記事を頼りに書いているからだ。




 新しい「メロドラマ」と現代文学の可能性――ピーター・ブルックス『メロドラマ的想像力』読解
http://borges.blog118.fc2.com/blog-entry-1539.html

 元の記事をそのまま引き写すのではなく、適宜、編集させていただきますが……。


「メロドラマの登場人物のパターン」

◎ヒロイン
◎その父親
◎ヒロインを苦しめる者(迫害者)
◎ヒロインを助ける者(正義漢)
◎ヒロインを補佐する者たち(侍女、子供、許嫁、農夫など)




「メロドラマのストーリー上の骨格」

(1)喜怒哀楽の「激情」に「ヒロイン」が耽溺する(主人公は女性でなければならない)。
(2)すべての人物が、つねに劇的な、誇張した大げさな身ぶりをする。
(3)どんな読者/観客にとってもわかりやすい。けして高尚にならない。
(4)善と悪とを明快な「二元論」に集約する。つまり「中庸」を排し、登場人物は「味方」か「敵」かに峻別する。
(5)日常生活のなかで起きるドラマを美学化する(悲劇にも喜劇にも偏らずに)。たとえ陳腐な出来事でも、誇張法などを惜しまずに駆使して「崇高」なものに仕立てる。
(6)物語のラストでは必ず「美徳」(味方=善)が勝利する(それまでは、悪役による迫害をこれでもかと描く)。

 (1)の補足……ヒロインの「心理」なんてのは、およそ「メロドラマの登場人物の定型」からシンプルに導かれるから、「メロドラマにはヒロインの《心》なんてものは存在しない。ヒロインはつねに「喜怒哀楽」のそれぞれの極から極へとジャンプし、「中間(平穏)」はない。


 元の記事ではこのあと、バルザック、ヘンリー・ジェイムズ、スタンダール、ユゴー、ディケンズらに加え、ロレンス、ドストエフスキー、プルーストなんてビッグネームまで出てくるので、文学史に興味をお持ちの方はぜひご参照ください。

 どうでしょうか。さすがに時代が近くなってきてるだけあって、より直截に、現代サブカルにつながる条項になってる……と思いませんか。いや面白いなこれ。
 「主人公は女性でなければならない」なんてね。
 この時代、女性は「庇護されるべき存在」だから、あえて主人公に擬されるんだよね。いまは真逆で、社会進出が常態になったからこそ主人公になる。しかも、これまで「男の主人公」ができなかった偉業を成しうる可能性をもった存在として。
 「まんまディズニーじゃん」という感じもしますが。しかし、すこしアレンジを施せば、宮崎アニメにも、プリキュアシリーズにも当て嵌まりますよね。ってことはつまり、「まどか☆マギカ」にも当て嵌まるわけだ。

つづく