ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(ビッグコミックススペシャル 小学館)

2019-06-30 | 映画・マンガ・アニメ・ドラマ・音楽
(画像はネット上から拝借。それぞれの文章は、ネットから引用したものに、ぼくが手を加えさせて頂きました。出典元の方々、およびもちろん、元の著作権者の皆様にお礼を申し述べます。)





3年前 8月31日
突如『侵略者』の巨大な『母艦』が東京へ舞い降り
この世界は終わりを迎えるかにみえた――


しかし その後


絶望は日常へと溶け込んでゆき
大きな円盤が空に浮かぶ世界は
今日も変わらず廻り続ける……





小山門出(かどで)、中川凰蘭(おうらん)。ふたりの少女(って女子高生ですが)は、終わらなかった世界で、今日も思春期を過ごす!





2014年4月28日に発売された週刊ビッグコミックスピリッツ22・23合併号にて連載スタート




小山門出は、メガネのショートカットで、教師である渡良瀬先生に恋をしてるっぽい。「イソベやん」(ドラえもんのパロディーだが、外見は青ダヌキとは似ても似つかず、キノコのような姿形)が大好きで、部屋の中にはイソベやんの漫画が散乱しており、通学カバンもイソベやんのバックパック。空を飛びたいらしい。なんかそのうち飛びそうです。








門出の親友・「おんたん」こと中川凰蘭は、僕っ娘で、ちょっと過激派(というかキル系?)の香りがします。「豚ども」とか、「欺瞞と虚飾に溢れたこの世界を滅ぼすまでは。」とか言いだします。リア充を目指して男子に告白したりしている友人に、「一生SNSで発情ポエムの交換でもしてろ!」とか言ったりもします。ふたりとも重度のゲームマニア。はにゃにゃフワーッ。















東京上空に「侵略者」と呼ばれる謎の母艦が浮いている
母艦からは時々、「中型船」や「小型船」が出てきて
(攻撃を仕掛けてくるわけではないが)自衛隊が「応戦」している
川崎など関東地域でちょいちょい「戦闘」が起こる
関東近郊は(米軍が使用した新型爆弾のために)
「A線」とよばれるもので汚染されている





8・31に、大震災ではなく、円盤が襲来した。当初こそ多大な犠牲者が出たものの、相手はまるで強くはなく、世界は壊滅も征服もされなかった。しかし、人類の側(といっても日本限定だが)も撃退するには至らず、それ以来ずっと、空には巨大な「母艦」が浮かんでいる。そんな状況が日常となっている日本(東京)。そんな非日常の日常の中であたりまえのように暮らす人々。3・11のメタファーのようで、必ずしもそうではない、一筋縄ではいかない物語。



多くの人命が失われ、土壌が汚染され、大きな円盤が空に浮かんだままで、ときどき「戦闘」が起こりはするものの、なんとかやっていける程度には絶望と楽観がないまぜになった世界。そこで青春をもてあまし、進路や、親との確執に悩みつつも、ゲームや恋愛ごっこや他愛のないおしゃべりに日々を費やす女子高生2人(と友人たち)。
「終末」をテーマにした作品でありながら、大きなパニックも起こらず、中途半端に壊れた日常がダラダラと続いてゆくあたり、いかにも浅野いにお! といった感じなのだが、ふと現実を振り返れば、このダラダラした閉塞感こそが3.11以降の日本のリアルであり、「日常」なのだと気づかされる。



浅野いにお氏はこの作品に、氏独特のカウンターの視点から、国民的アニメのパロディーから3・11へのオマージュまで、幅広いジャンルを落とし込んでいます。サブカルっぽいポップな軽さと、日本全体が共有した陰鬱な体験、『GANTZ』的なサイエンスフィクション(ただし戦闘の悲惨さはない)と不安定な情勢の奥に垣間見える戦争の予感……そういった事どもの中心にいるのは、「浅野いにお的」としか形容のしようがない、どこか斜に構えてすべてを見透かしているような気分をもつ、カウンターカルチャーの泥沼に深く沈んだ女性たちです。





夢見る女の子。ぶっ壊れてる女の子。
四次元ポシェット。トランジスタラジオ。
放課後の寄り道。大人げないお母さん。
戦争ゲーム。ネットに耽溺するイケメンデブのお兄ちゃん。
たわいないおしゃべり。泡のような初恋。
空を覆う絶望。永遠の8月31日。




 以上、引用(および編集)ここまで。

 ……といったあたりが1・2巻の情況だけど、巻を追うにつれ、女子高生だった二人も大学に進み、話はだんだんサスペンスフルに(も)なっていきます。彼女たちが直接巻き込まれるわけではないけれど、「戦闘の悲惨さはない」といってられなくもなってきます。ぼくの印象では、同じビッグコミック系の浦沢直樹『20世紀少年』に少なからぬ影響を受けながら、あそこで描かれた世界像/終末観をさらにポップに、さらにサブカル寄りに、ポスト3・11の心性でもって再構築した作品……という感じですね。いま連載中のマンガの中で、もっとも注目している一作です。



追記 2022.04.02) 平成から令和にかけて8年にわたって描き継がれ、このたび無事に完結しました。全12巻。「鳳蘭」という変わったネーミングの由来も明らかに。しかしなんといっても、すべての真実が読者の前に晒される第9巻が圧巻でしたね。「人類滅亡もの」と「多元宇宙/タイムループもの」との見事な融合。無駄に引っ張りすぎておかしくなった浦沢直樹『20世紀少年』の簡潔なるポストモダンふうリメイク。何もかもがサブカル化した21世紀初頭のネット社会の風刺絵巻。現代表現史にその名を刻む一作だと思います。完結に合わせてアニメ化も発表されました。