ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ビッグ・シック

2018-02-21 23:44:17 | は行

たった5館からスタートし
全米で大ヒット!の話題作です。


「ビッグ・シック」70点★★★★


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両親の代にパキスタンから米・シカゴにやってきた
青年クメイル(クメイル・ナンジアニ)。

コメディアンを目指す彼は、今日もコメディクラブで
「パキスタンあるあるネタ」を披露している。

しかしウケはいまひとつ。
両親からは弁護士になれと言われているが
まだ諦めてはいない。

そんなある夜、クメイルは
舞台にヤジを飛ばしたエミリー(ゾーイ・カザン)と親しくなる。
波長のあった二人はすぐに付き合い始めるが

しかし、クメイルには家族のオキテがあった。

それは
「パキスタン人の花嫁しか認めない」というもの。

両親も愛しているが、エミリーも愛している……
揺れ動くクメイルのもとにある日
「エミリーが突然倒れた!」という知らせが――?!


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なんと
主人公を演じる
クメイル・ナンジアニの実話なんだそう。

なんと、というのは
「親がパキスタン人の花嫁しか認めない」までは、
まあ「ありそう」なんだけど、
その後の展開が「ええ?!」だから。

しかも相手役が
「ルビー・スパークス」のゾーイ・カザンですから。
グッドセンスの勝利!ですね。


主人公のクメイル青年は14歳でアメリカに来た、というから、
1990年ごろかなあ。

シカゴでもかなり裕福な暮らしぶりで、
毎日のように自宅にお見合いにくる女性たちも多いことから、
アメリカで暮らすパキスタン人社会が
なかなかにどっしりと、根を張っていることがわかる。

そんななか
パキスタンの風習に従って
次々とお見合いをさせられまくるクメイル青年。
しかし本人は
実際のところ、すっかりアメリカナイズされていて
白人の恋人エミリー(ゾーイ・カザン)を作ってしまう、という。


正直、
格別にうまいとも思えない脚本なんですが

親にも言い出せず、彼女にも言えず……な、主人公の宙ぶらりんさや、
今ひとつのところで噛み合わない感じをうまーく醸し出す主人公と彼女にも
なんともいえない、味がある。

エミリーがいきなり重病に?!という展開のあとの
クメイル青年の「え?え?」のオタオタ感にも共感できるし

でも、病院で思いがけず
エミリーの両親と絆が生まれるあたりから、
話がグッとおもしろくなります。

単なる“異文化ギャップ”には収まらない展開と
移民大国アメリカのリアルが
この映画のキモではないでしょうか。


★2/23(金)からTOHOシネマズ日本橋ほか全国順次公開。

「ビッグ・シック」公式サイト
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ナチュラルウーマン

2018-02-20 23:54:13 | な行
「グロリアの青春」(14年)監督の新作。
心にギュッ!とくる。


「ナチュラルウーマン」79点★★★★


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チリ、サンティアゴ。

ウェイトレスをしながらナイトクラブで歌う
トランスジェンダーのマリーナ(ダニエラ・ヴェガ)。

そんな彼女を客席から見守っているのは
年の離れた恋人オルランド(フランシス・レジェス)だ。

その夜、マリーナの誕生日をともに祝った二人は
ラブラブのまま帰宅するが
深夜、オルランドが突然、体調を崩してしまう。

そして緊急搬送された病院で
オルランドは息を引き取ってしまった。

あまりのことに呆然とするマリーナに
警官は、身分証の提示を求め、
事件性を疑う。

さらに、オルランドの元妻や息子から
連絡が入り――?!


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パートナーを突然亡くしたトランスジェンダー、
マリーナの闘いを描いた作品です。

主演は自身もトランスジェンダーである
ダニエラ・ヴェガで
彼女の存在感とその説得力が、最大のキモ。

逆風の中をゆく彼女の痛みや強さが
ビシビシ伝わってくる!


予想ではもう少しユーモラスな雰囲気だったんだけど、
けっこうきっちり痛くて、

でも
「グロリア~」を思い出させるようなシーンも多々あって
やっぱりセバスティアン・レリオ監督ってうまいと思った。

痛さや現実を容赦なく
生々しく描きながらも
ユーモアと光があるんですよね。


しかしほんとにこれ、実に今日的な問題ですよ。

LGBTに限らず
"結婚”という法的な保護のないカップルは
いろいろなことを、きちんとしておかないと!っていうよい教訓。


相手が突然亡くなった場合、
マリーナのように
相手の家族に葬儀にも出席させてもらえなかったり
家を追い出されたりしてしまうことは
日本でもよくあると聞くし、

なにより、庇護者を失ってひとりぼっちになってしまう
彼女の心細さよ!


まあ、優しい理解者もいるんですけどね。

そこにまたグッとくるんだよなあ。


冒頭シーンも、何から始まるかと思えば、
「ああ、なるほど」と、ちゃんと編まれていく。

ストーリーが、流れながら巡り合っていくような
こういう編み方、海外作品はやはりうまいなあと感じます。

ときに観客の期待を
フッとかわすあたりも絶妙で、たまりません(笑)


★2/24(土)からシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBUSU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「ナチュラルウーマン」公式サイト
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グレイテスト・ショーマン

2018-02-14 23:57:51 | か行

音楽のよさ、高揚感がピカイチ!
サントラから2曲、買いましたぜ(笑)


「グレイテスト・ショーマン」70点★★★★


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19世紀半ばのアメリカ。

貧しい出自ながら
想像力と野心を胸に育ったバーナム(ヒュー・ジャックマン)は

幼なじみの令嬢チャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)を妻にし、
なんとか成功を掴もうとしていた。

そんなあるとき、バーナムは
オンリーワンの個性を持つ人々を集めたショーを思いつき
興行師として大成功を収める。

だが、彼の型破りなショーは
多くの反感も買ってしまう――。


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「ラ・ラ・ランド」製作チームによるミュージカル。

19世紀アメリカに実在した
伝説の興行師(ヒュー・ジャックマン)の物語で

まあなんといっても
音楽のよさ、高揚感がピカイチ!


ノンストップの流れるようなダンスと歌の気持ちよさが
たまらない。



ただね、テーマはけっこう微妙なんですよね。
なにせ異形の人々を集めて“見世物小屋”を作る、という話ですから

いまの時代なら炎上モノな感じだけど

これが
“実話”だと知ると、ふむ、と思える。


世論に異様なまでに左右されることなき時代の
“開拓精神”のビビッドさというのかな、そんな想いも感じられるし

日の目を見なかった人々にスポットを当てたその行動に
また違う意味合いが生まれると思うのです。


空中ブランコのシーンなど、美しく記憶に残るシーンも多いし。

ヒュー・ジャックマンも、ザック・エフロンもめちゃくちゃ歌うまい!

それになにより
この群衆のダンス、失敗できない緊張感に溢れていて
ひゃー!(笑)
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ぼくの名前はズッキーニ

2018-02-10 20:40:00 | は行

シビアな題材を
希望をもって描く。


「ぼくの名前はズッキーニ」69点★★★★


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9歳の少年イカールは
父がいなくなってから
ビールばかり飲んでいる母と二人暮らし。

そんなある日、イカールは
不慮の事故で母親も亡くしてしまう。

ひとりぼっちになったイカールは
児童養護施設に入ることに。

さっそくリーダー格の少年シモンに
手荒い洗礼を受けるイカールだが――?!


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昨年の第89回アカデミー賞で
長編アニメーション部門にノミネートされ

あのグザヴィエ・ドラン氏が
ファンを公言しているという
話題のストップモーション・アニメ。


注目の理由は
クラフト感たっぷりの、温かみある造形に反して
ストーリーの背景が驚くほどシビアで、深いところなんだと思う。


ズッキーニをはじめ
施設に集まる子どもたちは
虐待されたり、見捨てられていたり、親が犯罪を犯していたりと
それぞれ複雑な事情を持っている。

そんなリアルとビターを内包しつつ
子どもらしい世界のきらめきや、希望をすくい取っている。


なにより注目は彼らの「目」!

ほんの少しの目の動き、その演技の細やかさがすごいので
ご注目ください。


そして、この手の作品に興味を持った方は
「メアリー&マックス」(09年)もぜひ!


★2/10(土)から新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国で公開。

「ぼくの名前はズッキーニ」公式サイト
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ロープ/戦場の生命線

2018-02-05 23:39:58 | ら行

なかなかおもしろい
鑑賞後感があります。


「ロープ/戦場の生命線」71点★★★★


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1995年、停戦直後のバルカン半島。

いまだ緊張漂う紛争地域で、
現地の人々に水を提供する
「国境なき水と衛生管理団」のベテラン職員マンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)と部下たち。

彼らは
「井戸に死体が投げ込まれた」と聞き、
それを引き揚げるために、ある村へやってくる。

だが、死体の引き揚げに使うロープが
途中で切れてしまった。

マンブルゥは仲間のビー(ティム・ロビンス)らとともに
ロープを手に入れようとあちこちを探すが
これが、まるでたちの悪いジョークのように
なかなか手に入らない。

そのうちに彼は
昔ちょっとワケありだった
国連軍のカティヤ(オルガ・キュリレンコ)と顔を合わせることになり――?!


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ボスニア・ ヘルツェゴビナなどを有し、
混乱多きバルカン半島。

1995年、そんな停戦直後のバルカン半島で
危険を顧みずに活動する
国際救助隊の面々が遭遇する出来事を描いた作品です。


あちこちに地雷が埋まっている
危険地帯のハラハラや
現地住民たちとの一触即発な空気など

シビア要素は十二分にあるのですが

これが意外なほどに
カラッと乾いたユーモアがある。

デル・トロのひょうひょうさ、
ティム・ロビンスのブラックユーモア。


しかも
男女のゴタゴタとかも入ってきて
不思議なコミカルさもあるんです。


監督は紛争地帯で何度も取材経験があるそうで
実際に現地ではこうしたユーモアやジョークが
ひんぱんに行き交うらしい。


そうでなくちゃいられない、その心情。
なるほど
これが「人道支援のリアル」なんだと思う。


国連とは別途に動く、救助隊の活動は
本当に「究極の人助け」というか
こんな危険地帯で
「人の役に立ちたい」という思いなくしては
活動できないはず。

しかし、それゆえに彼らには
現地でのままならない感、虚無感も大いにあると思う。

そんな現場を知る人ならではの
リアリズムが、じわじわと効いてきて、

さまざまを考えさせつつ、
「いまも現場に、こういう人々がいるのだ」ということに
せめて想いをはせることが
いま自分にできる、精一杯のことでありました。


★2/10(土)から新宿武蔵野館、渋谷シネパトスほか全国で公開。

「ロープ/戦場の生命線」公式サイト
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