季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

オルフェオの死

2013年03月23日 | 音楽
本書は矢代秋雄先生の遺稿集である。実家の本棚を漁っていたら出てきた。そういえば昔買ったような記憶がある。読んだ記憶はないが、もしかしたら買ってすぐにドイツに渡ったのではなかったろうか。

なにしろ分厚い本で、内容は演奏家のプログラムへ寄せたもの、音楽雑誌に掲載されたもの等種々雑多で、せっかく持って帰ったもののまだ読む暇がないありさまだ。

なにしろ博識だった人だ。しかし行間から垣間見えるのは、そればかりではない。ちょっとどもりながら、決して人嫌いに見えない親密さと軽い皮肉を込めた口調で喋っていたのを懐かしく思い出す。

ブラームスは音楽史上最初のマスメディアを利用して名声を築いた人ではないだろうか、なんていう見方はいかにも矢代先生らしい。

ここでもちょっとひねった、それでいて意地が悪いわけではないこの作曲家がよく現れる。僕は個人的にも教えていただいた関係でそれを身近で知っている。

大学の売店で一度こんなことがあった。

売店のおばさんは古くからのぬし的存在で、ほとんどの学生を過去にいたるまで覚えているような人であった。

僕が矢代先生と売店で鉢合わせをすることは珍しくなかったのであるが、あるとき黛敏郎さんのことを先生とおばさんが話をしているところに居合わせた。売店といったって畳3枚分くらいのスペースである。

聞くともなしに自然に耳に入ってくる会話だから内容はすっかり忘れたが、おばさんが黛さんの曲について話を振ったところ「おや、黛君て作曲もするの」と軽い皮肉と冗談とがない交ぜになったような調子で応えた。楽譜の棚を漁りながら僕はニヤニヤした。

懐かしい思い出である。今矢代先生と話せたら彼は何というだろう?意見がたとえ違ってもこの人とは音楽語で話せたと思う。


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