季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

バッハの懐の深さ

2017年09月26日 | 音楽
芸のないタイトルになっているが。

テンポひとつとってみたまえ。ずいぶん色々なテンポが可能なはずだ。そしてそれにつれてアーティキュレーションをはじめ、表現は変わってゆく。

ヘ短調インヴェンションを例にしようか。

今日もっとも多く聴かれるのは恐らくmoderatoでレガートを主体とする演奏だろう。

ところがこの曲はallegro giusto で演奏することもできる。こちらが多数派だった時代もあるのではないだろうか。この場合はノンレガート主体の演奏になる。

どちらが正しいのかという詮索はする必要がない。どちらも充分に音楽的である。僕自身あれこれの表情を楽しむ。

人の演奏を聴く場合はなおさらだ。ノンレガートで弾かれた演奏に対してレガートが出来ていないと論評するのは、うどんを注文してそば粉が入っていないとクレームをつけるようなものだ。

インヴェンションにせよ、平均律にせよ、すべての曲がこの様な多様性を持つわけではない。しかし半数くらいは様々な表現が可能だろう。

かつてある人と試験後にした会話を思い出す。バッハの曲について、あんなテンポあると思います〜〜?と言うのだ。ところが有るんだな、これが。

似たことはオーディションやコンクールの評でしばしば出くわす。それはいかにも残念なのである。

上記の曲でもよし、平均律vol.1変イ長調などでもよし。

後者なぞ驚くほど違った表情を見せてくれる。それを楽しんでみることを勧める。






バナナ

2017年09月19日 | Weblog
バナナが超高級品だったなど、今の若い人には想像もつくまい。

小学校の遠足などに持ってくる生徒が出たら大騒動になった。それくらい高価だった。そう、出たら、そう書きたいほどの事件性を持っていたのである。

従って遠足などに持ってくるのは禁止であり、違反したら簡易裁判所行きは免れなかった。嘘だけどね。

それがいつしかひと山いくらで店頭に放置されるようになった。私の昭和史で書きたいほどの変化だ。

バナナで印象深かったのは我が師ハンゼンである。

ハンゼンはハンブルグに住み、鉄道を利用してリューベックの学校へ通っていた。僕もハンブルグに住み、レッスンの日には先生と同じ列車で行くことが多かった。

ボックス席に向かい合って腰掛けると、カバンを開きおもむろにバナナを取り出し、ゆっくり皮を剥くのだった。

そして大家然とした微笑みを浮かべては僕に「見たまえ、世界一清潔で安全な果物だよ」と語りかけるのを常とした。

僕ばかりではない、全ての生徒がこのセリフを聞いたはずである。ある種の生徒はハンゼンの教えは忘れ果ててもバナナ清潔説は決して忘れないだろう。

思うにハンゼンは農薬問題などは全く関心も知識もなかったに違いない。バナナから高濃度の農薬が検出されたニュースも知らぬままだっただろう。

今や懐かし思い出である。

お人好し

2017年09月13日 | 音楽
ピアノのテクニックは二十歳までが勝負だ。よく言われることだ。

そして言われた方は二十歳から遠ざかれば遠ざかるほど失意が増大する。

二十歳以降は上達しないって?そんなことはあるまいと僕は思っている。いや、思っているではないな、知っていると言っておく。

皆んな人が良いのだろうか。テクニックは二十歳までが勝負という人がいたならば、素直に「この人は二十歳から後は上達しなかったのだ」と見れば良いだけの話さ。

言われたことを鵜呑みにするくらい馬鹿らしいことはない。あらゆることに通じるではないか。


講座の案内

2017年09月12日 | 音楽
9/17(日)14:30 KMアートホール(京王新線・幡ヶ谷)

リスト・バラード(ロ短調)を教材に音楽とテクニックについて(音楽とテクニックの関係について)講座を進めます。

音楽はあるのだがテクニックが不足している。これは程度の差こそあれ沢山の人に当てはまります。

反面、テクニックはあるが音楽はないということはあり得ないのだということを僕は事あるごとに言ってきました。

今回も出来るだけそこから外れないように話を進めるように努めたい。

ただ、質問はテーマと無関係なものでも構いません。会場ででも、ブログのコメント欄ででも、大いに歓迎します。

動作

2017年09月05日 | 音楽
動作は裏切らない、と一応は言える。日常のあれこれを思えば良い。感情以上の動作はオーバーアクションと呼ばれる。

日常の中では誰しもが何の難しさも感じずに行なっていることだ。

動作を伴うテクニック(ピアノなどに代表される)とは如何にしてこの日常と近づけるか、ということだと言っても良い。

一例を挙げる。ほんの軽い物を持って自分で眺めてみよう。トランプ一枚でも良い。

その時に二の腕をもう片方の手で動かしてみる。一体どれほどしっかりしているかを知るだろう。

肩から先を完全に脱力、などがどれほど馬鹿げているか。