パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

無気味な、あまりに無気味な……

2007-05-16 22:05:59 | Weblog
 ここ数日、スガ秀実の『革命的な、あまりに革命的な』を再読しているのだけれど、さっぱりはかどらず(わからないので)、悶々としているところにまたとんでもない事件が起きた。もちろん、母親の首を切って殺し(殺してから切ったのではないところがなんともおぞましい)、それをバッグに詰めて警察に出頭した17歳の事件だ。ちょっと前には、ジェットコースターで首が落ちるし(実際には、「首」で切断されたのではなく、「顔」が削られてしまったらしいのだが……)、その前には、兄による妹バラバラ殺害事件、妻による夫バラバラ事件と、同種の事件が続いているが、今回の事件は、なんとも言い様のない「無気味さ」において、群を抜いているように思え、嫌な気分に拍車がかかってしまっている。

 そんな時、30年近く前の事件だが、サレジオ高校の同級生首切断事件における公式精神鑑定書の一部(少年犯罪データベースドア」より)を読んで、変な言い方だが、「爽やか」な気分になってしまった。


〈君は犯罪をどう説明したいか〉
 僕の性格です。……軽卒さです……自制心のないことです。
〈それは前から思っていたか〉
 思っていなかった。あえていわれればそういうまでです。なぜやったのか、うまく口で言えない。
〈悪夢のようか〉
 ある意味ではそうです。
〈どういうことか〉
 ふだんの僕ならもっとよく考えてやります。
〈するはずがないか〉
 いえ、そうはいえない。もっと考えたと思う。
〈「魔がさす」という言葉があるだろう、悪魔がとりついたようにとんでもないことをした感じか〉
 百%ありえない。一般の場合でも、一切は過去の人間に関連して生じるのだから。
〈君の犯罪をこう考えることもできる。彼とけんかができていればこういうことにならないといえないか。がまんしすぎていたといえないか〉
 いえます。
〈それは親や学校のいいつけか〉
 それだけではない。自分の考えもそうだ。
〈がまんしたのはそれがよいからか〉
 よいことだから。
〈けんかできない弱虫だからか〉
 そうはいえない。腕力は弱くないから。
〈がまんしたのが悪かったといえるか〉
 ええ。
〈父のせいではないか〉
 ちがいます。
〈父は「がまんせよ」という人だろう〉
 そうです。
〈その点では父のいいつけをよく守ったといえるか〉
 まあそうです。
  ……
〈勝利の惑じは〉
 それはない。
〈事件後しばらくは?〉
 ……一般に認められれば勝利かもしれないが、そんなものではないでしょう。
〈一般が認めないのが口惜しいか〉
 みとめないのが当然でしょう。

 どうだろう。なかなか明晰な語りであり、私が、読んで「ほっとした」というのもおわかりだろうと思うのだが(結局、「殺人」は最終的に避けられなかったという印象があるにせよ)、これも殺した相手が、親友とはいえ、「他人」だからだと思う。しかし、今回は、「母親」だ。いや、もちろん、「母親殺し」は、決して珍しいことではないに違いないのだが……。

 とりあえず、上記精神鑑定書から、もう一ケ所、紹介。

〈いつ○○○君を刺す気になったの〉
 刺す直前の直前と思います。

 「直前の直前」という表現が、いかにも切羽詰まった心境を表しているようで、興味深い。

 ちなみに、有名な話だが、このサレジオ高校事件の犯人は、現在弁護士である。これは……「更正」を期待する「少年法」の主旨からいったら、もっとも望ましい事態のはずだが、やっぱりちょっと……いや、かなりおかしいのではないだろうか。「赤ちゃんポスト」の3~4歳児遺棄も「想定外」だが、これも「想定外」というか……。その履歴をひた隠しにして隠した上で「弁護士」になるのならまだしも(というのは、その場合は、事実が露呈したら弁護士を辞めざるを得ないだろうから)、この場合は、ただマスコミに名前が報道されることがないということを楯にしているとしか思えず、「鉄面皮」という印象をどうしても持ってしまう。
 人間の常識に反する法律なんて、常識で考えてあり得べきものではないだろう。