パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

逃亡中の犯罪者によく会う人

2007-05-03 22:16:05 | Weblog
 TBSラジオの「警察が懸賞金制度を導入した事についての是非」を問う視聴者参加番組を聞いていたら、面白い人が出て来た。

 それは中年の男性で、この制度を「是」とする人だったが、その「是」とする理由がユニークだったのだ。
 その男性は、何故か自分の周辺に犯罪者が集まってしまうという人で、たとえばグリコ森永事件の犯人も知っているというのだ。司会は宮崎哲哉だったが、宮崎は、「えっ?」とか言っていた。
 もちろん、真犯人を知っている、と言う人ははいて捨てるほどいるし、むしろ、こういう人がもたらす情報に現場は混乱させられることのほうが多いのだろうが、それはともかくとして、この人物が言うには、グリコ森永以外にもいろいろ知っているのだが、警察に知らせた事はないというのだ。なぜかというと、自分としては絶対に犯人に違いないと思っていても警察が信じてくれるとは限らないし、むしろ邪慳に扱われるにちがいない、などと思うと、つい言わずにすませてしまっていたが、賞金が出るとなると、決して金が欲しいわけではないのだが、警察に言う際の大義名分ができるから、もし、これからまた誰か犯罪者と知り合って、それに懸賞金がかかっていたら、以前のように迷う事もなく、警察に届けるだろうというのである。

 宮崎哲哉は、「そういう心理もあるのだな」と感心していたが、私も「なるほどな」と思う。しかし、懸賞金制度の対象になる事件がたったの5件で、しかもそんなことがあったことも、一般の人はほとんど知らないような事件では効果も少ないように思われる。(例の、英語女教師殺人事件の犯人には賞金かけないの? 世田谷の一家4人殺害事件は? 群馬県で女の子を縛って刺し殺した犯人は? 昼寝していた女子高生を家の中に上がり込んで殺した犯人は?)というか、何も「5件」に限定する必要はなく、犯人逮捕に役立った情報提供者にはお礼を出すということでいいのではないか。
 番組によると、今回の制度で最高賞金額は1000万円だそうだが、これは警察が出す賞金としては国際的に飛び抜けて高いのだそうだ。しかし、件の男性の話では、「金額の問題ではない」ということだから、数十万円の「お礼」でいいのではないだろうか。迷っている人の背中を、ちょっと押すだけでいいのだ。「賞金」などと言うと、西部劇の賞金稼ぎみたいで、おだやかでない気持ちになる人も多いだろうし。

 それはともかく、特に私が面白いと思ったのは、「妙に逃亡中の犯罪者に縁がある」という発言のほうだ。

 実際、そういうことはあるに違いない。
 といっても、別に、「世の中には理屈で説明できない奇妙なことが起きる事がある」といったようなことを言いたいのではない。むしろ全然逆で、「○○に縁のある人」「ない人」が存在するのは、論理的に当たり前のことだと言いたいのだ。

 前にも少し書いた事があるのだけれど、たとえば、赤と白の同数のキャンディーをガラス瓶につめて充分に振る。その「振り方」が充分であれば、そのガラス瓶の中のキャンディーは赤と白の市松模様になるはずだと思われるが、実際には、たとえば赤が10個固まったりする。10個赤が固まれば、その「しわ寄せ」で、白のキャンディーは、たとえばあっちに6つ、こっちに4つ固まることになるだろう。
 この現象を発見した某数学者は、自分の発見が信じられず、赤は赤同士、白は白同士で固まる性質があるのだろうかとまで考えたのだが、実際に確率計算をしてみたら、「完全な市松模様」に赤の玉と白の玉が組み合わさる事は、文字どおり、天文学的な極小の確率でいかないことがわかった。

 実際、同数の赤いキャンディと白いキャンディーを瓶の中に詰めて、それをよくかき混ぜた結果、赤の隣に必ず白、白の隣に必ず赤が来るなんてことは、ちょっとありそうにない。だとしたら、どこか偏りが生じなければならない理屈だ。
 卑近な例で言えば、電話番号だ。南原企画の電話番号は、ちょうど10桁で、03-3863-6557だが、0、3、5、6、7、8と、10桁中、6個しか使っていない。10桁を全部きっちり使い切っている電話番号はそんなに多くないはずだ。

 あんまり適切な例ではなかったかも知れないが、要するに、世の中には、なんであれ「偏り」が存在しているのであって、したがって「逃亡中の犯罪者の近辺に特化して(偏って)居住する人」がいる事は不思議でもなんでもないということだ。

 要するに、こういうことだ。

 私は、幸か不幸か(いや、「幸」にちがいないのだが)、犯罪者、それも逃亡中の犯罪者に出会うなんてことはこれまで皆無、かつ今後もありそうにない人間であり、したがって、その私が、「あ、あいつ怪しいな」と思ってもそれは全然あてにならない想像であり、もし、私がそう警察に届け出たとしても警察はそれを受理しないのが賢明だが、TBSラジオに出て来た人のように、そうではない人もいるのであって、だとしたら警察は、そういう人が存在することを認め、効率良く犯罪捜査を進める事を期待したいのだが、昨今、入って来る情報をすべて平均化することをもって「科学的」と称しているようでは、「効率の良い犯罪捜査」も望み薄だという残念な結論になる。

 ところで、悪い事をすれば何も考えなくて済むと思ったと言って、郵便局だかに強盗に入った税務署員がいたが、カフカの小説みたいだと、ちょっと思った。