小説家、精神科医、空手家、浅野浩二のブログ

小説家、精神科医、空手家の浅野浩二が小説、医療、病気、文学論、日常の雑感について書きます。

閾値

2010-02-25 21:36:15 | 医学・病気
閾値。整形外科に行ったら、閾値、って何だか知ってるか、と聞かれた。私は知ってる、と答え、英語でthresholdと言った。そしたら、医者が生意気だと怒り出した。しかし私の感覚では、閾値なんてのは、全ての科で大切な基礎知識だと思うのだが。私の感覚では閾値なんて、医者なら知ってて当然だと思っているのだが。他の医者は、どうか知らないが、臨床医を長くやってると基礎医学は、かなり忘れてしまうらしい。医学生なら誰でも知ってると思うが、閾値は、神経生理学の基本である。どんな神経生理学の本にも、閾値の事は、始めの方に書いてある。さて、閾値とは何かといったら、神経や感覚の敏感さ、や、鈍感さ、の事といっていいだろう。老人は、若者には入れないような熱い風呂に入る人もいるが、これは温度感覚が鈍くなっていて、(つまり閾値が高くなって)温度の刺激を高くしないと熱さを感じなくなっているのである。だから、こういう老人で、若者はこらえ性が無いなどと言っているのは、実は、我慢強いのではなく、老化によって自分の感覚が鈍くなっている、ということなのである。あるいは、甘いチョコレートを食べた後は、甘さの感覚が鈍くなっているから、その直後に、甘いお汁粉を飲んでも、甘いとは感じられないのである。閾値では、絶対不応期、相対不応期、全か無かの法則、などが印象が強かった。これは、医学や生物学の刺激に関する事で、どこでも見られる事である。私が神経生理学の閾値で、そっくりだと思ったのは、マスターベーションの生理である。まず、マスターベーションは、まさに、「全か無かの法則」である。そして射精した後、しばらくの時間は、どんな強い刺激(女の裸の写真)を与えても、射精できない。この期間を、絶対不応期、という。そして、絶対不応期が過ぎると、強い刺激(非常にエロティックな女のヌード写真)を加えると、射精を起こす事が出来る。この期間を相対不応期という。一見、ふざけた喩えのようだが、これは紛れもない人間の生理学の現象である。そして、こういう風に、面白い喩えで、その原理を覚えると、一生、忘れない。医学生は、国家試験を通るとパーと忘れてしまう、とよく言われる。しかし、人間は、忘れていいと思った時から忘れるのである。忘れてはならない、という自覚を持っていれば、忘れないのである。私は、理屈っぽい性格なので、薬にしても、その作用機序が分からないと納得できない。臨床医は薬理学もかなり忘れている人がいるようだ。最先端の文献を求める事も大切だが、温故知新も大切だと思うのである。

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