夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

すごく嫌い その2

2016-10-16 21:19:17 | 日記
その後、しばらく経ってから、放課後の教室を覗くと、まだ彼女がいたので、
「さっきはありがとな。学園祭の打ち合わせは、みんなに事情を話して、放課後にやることにするよ。ちょうど明後日、7限のS先生の授業が時間割変更で空くから、そこでやればいいし。……あと、男子・女子のことも、言われた通り、最近そればっかり言い過ぎた。」
と、学級役員が男子からなかなか出なかったので、ついそんな言い方になったことを詫び、「ありがとう。」と言って帰ってきた。


私は学生や保護者からのクレームは、基本的にラブコールだと思って接することにしているが、今回ほど直言してもらって嬉しかったことはなかった。
教員だって、常に確固たる信念を持って学生の指導をしているわけではないし、私は今の勤務校では担任を持つのが初めてで、試行錯誤しながら物事を進めているため、きっと学生に迷惑をかけていることが多々あると思う。

それでも、学生の話によく耳を傾けるように努めていれば、彼女のように私が間違ったときに直言してくれる人もいるし、なんとかなるように思っている。

すごく嫌い その1

2016-10-15 23:03:13 | 日記
先日、台風で休校になった話題をしたが、実はその日はクラスのHRで、学園祭に関する打ち合わせをすることになっていた。
今週のHRは、後日行われる球技大会の選手決めで使ってしまったし、来週は遠足の日と重なってHRがない。学園祭は来月初めに迫っているのにどうしよう、ということになった。


「……仕方が無いから、来週の私の授業時間を当てよう。ただし、学校には内緒にしておいてくれよ。」
と言って、その場は終わったのだが、解散した後で、ある女子が私のところにつかつかとやって来て、
「先生、授業をつぶすのはおかしいと思います。」
と言われた。
「学園祭の話し合いの時間がないなら、放課後にやるべきで、他のクラスはそうしてます。」
いちいちもっともで、
「……そうだよな。学生は授業料という名目で学費を納めているんだし、教員みずから授業をおろそかにしちゃいかんよな。」
と答えると、彼女は目で笑ったので、これで許してもらえるかなと思ったら、
「あと先生、最近『男子が』『女子が』って言い過ぎです。」
そう言って彼女は私の目を見据え、
「私、そういうの、すごく嫌いです。」
そのまま背を向けて行ってしまった。

末摘花

2016-10-14 22:52:06 | 日記
月に1度の源氏物語講座、先日は「末摘花」巻。
今回取り上げたのは、年の暮に末摘花が光源氏に元旦の衣装を贈り届ける場面である。

普通、元日の晴れ着を贈るのは、正妻(源氏の場合は葵の上)の役割なので、これは出過ぎた振舞いである。
その上、末摘花のあつらえた衣装も、それに添えた手紙も、詠まれていた歌も、どこからつっこんでいいのか分からない、というくらいの代物なので、解説しながら受講者のみなさんと笑ってしまった。

手紙だけで言えば、ごわごわした白い陸奥国紙(檀紙のこと。通常、恋文には薄様の色紙を用いる)に香りをぷんぷん染み込ませていて、風情のないことおびただしい。(私もこんなラブレターなら要らない。)

肝心の歌も、この有様…。

唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ
(あなたのお心が薄情なので、嘆く涙で私の着物の袖はこんなにも濡れてしまっています。)

「枕詞の「唐衣」は「君」には掛からないし、恨む気持ちをこれほど露骨に詠んではダメでしょう。普通、和歌では、自分の心情を季節の景物に託して、それとなく表現するものですよね。」
という話をした。


正直、「末摘花」は、醜女でみやびを解さない姫君に対する、作者のきつい悪意を感じる巻なので、昔からあまり好きではないのだが、講座で取り上げるとなると、やはりたくさんの発見があり、受講者の方々と話し合いつつ、楽しく読み味わうことができた。

役員を決める

2016-10-12 22:30:36 | 日記
私の担任するクラスで、先日学級役員を決める話し合いがあったのだが、なかなか決まらないのに往生した。
役員の半分は任期が通年、残りは半年で、今回は後者の改選の話し合いだったのだが、留任でも構わない者はそのまま続けてもらうことにした。
改選の数が少なければ、すぐ決まるだろうと思っていたら、とんだ見込み違いだった。
立候補が1、2人出た他は、クラスの雰囲気が硬直したまま、ウンともスンともいわないのに業を煮やし、ついに担任の強権発動となった。
「このクラスは女子の数が少ないのに、女子はほとんど役員になってて、男子の方がこれしか出ないのはどういうわけだ!? 残りの役員は全て男子から出すから、男子だけ放課後残れ。この後は役員が全部決まるまで、男子は毎日放課後に残す。」
と宣言した。


内心では、本当に毎日全員残したら、各方面から苦情が来るし、クラスの雰囲気も悪くなるからやだな、と思っていたが、持久戦も辞さず、というこちらの決意が伝わったか、その日の放課後、話し合い開始から10分もしないうちにあっさり決まった。
担任として干渉しすぎたのを後悔するやら、ここまで圧をかけないと動けないのかとあきれるやら…。
お前ら、このままだと女子に見放されるぞ、とハッパをかけたい気分になった。

心の旅

2016-10-11 22:29:22 | 日記
昨日書き忘れていたが、五島美術館で今行われているのは、「秋の優品展――心の旅――」という展覧会。
同館所蔵品の中から、「旅」をテーマに絵画や古筆・墨跡などの名品約40点が展示されていた。
重要文化財の『土佐日記』のほか、和歌に関連のあるものでも、「亀山切 伝紀貫之筆」や「堺色紙 伝藤原公任筆」「拾遺抄切 伝源俊頼筆」など、時間を忘れて見入ってしまう名品ばかりであった。
「三首懐紙 慈円筆」は、三首とも秋歌だったので、時節柄ここで紹介しておく。(表記は私意で改めた)

  月前薄雲 秋はなほ月に心を尽くせとやへだてもはてぬ薄霧の空
  荻夕風  吹きむすぶ袖の夕露消えかへりわが身にしむる荻のうは風
  虫吟蓬  虫の音(ね)も袖もひとつにしをれけり深き蓬の秋の夕霜


以前も書いたことがあるが、五島美術館は庭園の風情もすばらしい。今は紅葉には未だしであるが、これが色づいたらどんなにきれいだろうと思いながら眺めていた。