まくとぅーぷ

作ったお菓子のこと、読んだ本のこと、寄り道したカフェのこと。

信じてる。30days blog♪day 2

2020-10-10 21:16:34 | 日記
あの枝なんだけど、もっと短くできる?
すでにほぼ完成している巨大な活け込みを指し、カメラマン兼グラフィックデザイナーがしれっと言う。
傍で聞いてるわたしはぎょっとする。
あのさ、わたしなんかほんの数年、なんちゃって生け花習ってただけのことだけどさ、あれは全体のバランスを決めるいわば大黒柱だよ。あれの長さを変えるってのはつまり、チャブダイひっくり返すみたいなもんだよ。いいの?
ところが、フラワーデザイナーはじゃっかん頬強ばらせつつ、わかりました、と答えて粛々と活けなおしをはじめた。その背中にプロの凄みが滲んでた。
 
それは数年前、国産のアンスリウムのプロモのために行われた公開撮影会での出来事だった。カメラマンもフラワーデザイナーも親しくさせていただいてる方なので、この二人の作る世界でどんな化学反応が起きるのか、わくわくしながら参加した。請け負った仕事に対して最大最強のパフォーマンスを目指す二人、協力しあい、相談しあい、ちょっと衝突したりも。それはお互いを認めているし、信頼しているからこそ出来ることで、そんな仕事をする二人がとても羨ましかった。
 
フラワーデザイナーは才能とセンス溢れる逸材なのだが、なにより思いやりとホスピタリティが素晴らしく、わたしのさしてたいしたことない人生のなかでたまに出現するハレの日に、フラワーアレンジをお願いしている。彼女の花があると、特別な日が何倍にも光り輝く。そんな彼女が来月、三渓園で展示をする。去年に続いてのオファーで、わたしは去年のチャンスを逃して残念だったので、今年こそ行こうと楽しみにしている。
 
そしてフラワーデザイナーは、去年同様、件のカメラマン兼グラフィックデザイナーにその展示会のフライヤーをオーダーした。しかしオーダーされた側は仰天し、いったんは断った。なぜなら彼は今、病の床にいるからだ。意識はしっかりしてはいるが半身が動かず、懸命のリハビリの毎日。もちろん彼女はそれを知ってる。知っていながら、わたしのチラシを失敗してもいいからリハビリのつもりで作ってほしいという気持ちで依頼したのだった。
 
それを思い付いて実行するのに、どれほどの胆力が必要だったろう。現場復帰を信じてる、待ってる、少しでも早く実現するように応援してるんだという強烈なメッセージ。それが彼の気持ちを突き動かした。思うように動かない利き手はパソコンを押さえるために無理矢理乗せ、反対の手でじりじりと操作する。去年撮った素材を使い、足の痺れも忘れるほど長時間没頭して作り上げたフライヤーを彼のSNSで拝見した。シンプルな構図でアレンジメントの力強さが伝わる、とても素敵なものだった。
 
自分はデザインすることが好きなんだと、改めて気づいた。そんなコメントを読んでなんだか泣けてきた。そしてやっぱり羨ましかった。ひとは、ひとで生かされる。でもそのひとは誰にでも在るとは限らないのだから。