ゆっこちゃんが大和にケーキ屋「atelier 結心」を開いて5回目のクリスマス。今年は23,24日が土日にあたり、肝心の25日はど平日。3日間で140台の完全予約販売、去年も台数と日程は同じだが金土日というバッチリな並びだったので完売も早かった。今年はどんな感じかな、とちょっと心配してたけど、2週間前にはきっちり完売させるゆっこちゃんはさすがだ。
それに対して臨時スタッフはゆっこちゃんが募集するまえに勝手に挙手していくスタイル。最初の年は、猫の手でも無いよりはいいんじゃないか、くらいの気持ちでお手伝いに行き、案の定、猫あるいは猫以下の動きしか出来ず自分が口惜しかったものだけど、流石に5回目ともなれば・・・あ。ごめん。ちょっとは進化したけど、それでもやっぱりスーパーアシスタントのヒロ様の前では見る影もないわ。1年ぶりにもかかわらず鮮やかな手捌きに見惚れる(働け)。「自転車に乗るようなもんですかねー。一度覚えたら忘れない。」将来年をとって他の記憶がみんな飛んだとしても、パレットナイフを握ったらパパッとショートを組んでしまうのかもね、と笑う。
そんなヒロは水引小物作家としても順調に活動していて、今年もケーキ屋のショーケースの手前、小さなテーブルに可愛くてカッコいいお年玉袋が並んでいた。半年前の夏のお食事会(ゆっこちゃんがクリスマスのスタッフを招待して美味しいものをご馳走してくれるのだ)で、「辰のフォルムってどんなものでしょう?」とサンプルを見せてくれたことを思い出す。みんなで「ツノがこんな感じかなあ」「ヒゲはこんな感じだねえ」などと好き勝手言ったのだが、こんなに素敵に作れるだなんて・・・。すでに「来年も買います」と言ってくれるファンもついているそう。なので華麗なナッペを披露しながらもヒロの頭の中には、「ヘビのフォルムって・・・」がぐるぐるしている。ゆっこちゃんは先輩起業家として、お昼や午後の休憩中にインスタ の投稿や集客の勉強、販路拡大など様々なアドバイスをしている。
ゆっこちゃんが本当にすごいのは、1年目に考案したフローがほぼそのまま5年目も継続できていることだ。多少のマイナーチェンジはあるものの、「誰が」「いつ」作業するにしても全てがわかりやすく共有されているフローは素晴らしい。クリスマス時期のパティシエールは心身ともにくたくたになってるものだし、臨時スタッフはあくまで臨時なのだけど、確立されたフローのおかげでミスを未然に防げている。注文していただいた140台を間違いなくお客様に提供できるのって、そりゃ当たり前のことなんだけど、簡単じゃないんだよなと思う。比較するのはちょっと違うかもしれないが、今年有名百貨店で購入された人気店のパティシエ監修のクリスマスケーキが、お客様が箱を開けたら無残に崩れてたという事件が起きた。パティシエは「実験した時は崩れなかった。悔しい。」と言うが、私にはどうしてもその人が本気でお客様のことを考えたとは思えない。笑顔が見たかった、って言うんなら、よその製菓工場で一気に大量に生産したものを、冷凍で宅配なんて話になんで乗るのかなと思う。そうそう、ゆっこちゃんは3日間分のジェノワーズを直近で1日分ずつ焼く。うんと前もって焼いて冷凍するってことはしない。「冷凍したジェノワーズは好きじゃない」から。ふわふわの口溶けの良さの理由はそこにある。
1日に3回のお渡し、ゆっこちゃんがお客様に対応している間、ヒロと私たちは厨房で次の回のケーキを組み立てる。スペースの限られた冷蔵庫には、スライスされたジェノワーズ、カットされたいちご、大きなボウルに入った生クリーム、絞り出し袋、ナッペされたケーキ、完成して箱詰めされたケーキが入れ替わり立ち替わり収まってゆく。この季節エアコン無しとはいえ、ケーキをなる早で冷蔵庫にしまえるよう、効率は悪いが少量ずつ組み立てる。優先度最高値が「美味しいこと」にあるんだからしょうがない。基本、厨房はヒロに任せているゆっこちゃんが私たちに「サンドのいちごはこのくらい乗せて」とスマホの写真を見せる。下地の白いクリーム見えませんけど・・・。しかもこのシーズンのいちごはとんでもなく高額である。クリスマス・・・儲からないな・・・。
「ケーキ作ってんの?!」と元気な男の子が顔を輝かせて厨房を覗きに来る。一家総出でケーキのお迎えに来てくれたようで、お父さんが「こら、そっち行くな」と言い、「サンタはボクのーー!」と弟が主張し、お姉ちゃんが控えめに笑ってる。「えー、サンタさん食べるの?ガリガリするよ」と笑うゆっこちゃん。クリスマスって幸せだ。美味しいケーキがあればなおさら。
最後の回のケーキを全て作り終えると、ヒロが端切れのジェノワーズやクリーム、フルーツを使って「賄いケーキ」を作ってくれる。私は早朝から挽いてきた珈琲を淹れる。ゆっこちゃんが売り場にテーブルと椅子を並べてくれて、みんなで休憩。私が自分のレッスン用にビスキュイを焼いたけどイマイチだったと言ったら、ゆっこちゃんが「そんなの言ってくれたらいくらでもあげるのに、なんで言わないの」って。「いやなかなかそれ言いだせないでしょ」とヒロが笑う。とてもありがたい提案を来年の私にカレンダーで申し送る。してあげられることの機会を損失したことをめちゃ悔しがってくれるという、ゆっこちゃんのそんなところも大好きだ。持ってきたチラシも店の目立つところに貼り出してくれて、応援がとても心強い。自分ももっと来年は色々頑張らないとな。
休憩が終わると臨時スタッフは帰宅。来年もよろしくお願いします、とお互いに言い合い、良いお年を〜と手を振る。年に2回しか会わない、でも大切な仲間で尊敬する人たち。次に彼らに会う時もちゃんと胸張って笑顔でいられる自分でありたいと思う。そういう繋がりをくれたゆっこちゃんには感謝しかない。
いや、もっと感謝してるのはatelier結心を愛してくださってるお客様です。今年も皆さんのおかげで短くも楽しいひと時を過ごせました。来年もお待ちしています。(臨時スタッフより)