会社でこの秋子どもらに一押しの本を買って読んでみた。「なぜ僕らは働くのか。」池上彰さん監修。中学生から高校生向きということになっている。構成の半分は漫画。中高生には漫画がとっつきやすいのかな。普段このサイズの本の漫画って買わないからどうもコスパ悪いような気がしちゃうんだけどそれってわたしが年寄りだからなんだろう。
主人公の男の子は中2、将来が心配でふと夜中に目が醒めて眠れないという描写から始まるので、世の中にそんなに繊細な中2男子が存在するのかと驚く。いや中2差別じゃないけどさ。でもすぐにその理由がわかる。人生で挫折することはまあ割とあるけど(あるよね?)、ずいぶん早いタイミングだったんだね。
彼を直接励ますのが父母じゃなく叔母さんっていうのがいい。20代無茶苦茶に仕事して、今は独立してマイペースを保ってる彼女がいたいけな甥っ子に順々に渡す、経済社会の成り立ちの記事。新たな視点でいつもの生活を眺めてるうちに、だんだん元気になっていく中2男子。
中でもなるほどと思ったのが、「お金を払うのはありがとうの気持ちの表れ」というくだり。自分が必要なものを提供してくれる人に感謝する、それが代金を支払うということ。でも、例えば火事になった時に助けてくれた消防士には?都度は支払わないけど、彼らの給料を支払うために税金という仕組みがある。なので、「税金もありがとうの気持ちの表れ」なのね。こんなに頑張って働いたのに、こんなもんしか給料出なくて、しかもこんなに税金取られるのか、なんて思っちゃダメなんだった。もちろん、「提供されるものに対して、妥当だと思うこと」が前提になるってこともちゃんと書いてある。税金の妥当性。いや一回そこから離れよう。
QOLって言葉も出てきた。クオリティ オブ ライフ。自分にとってしあわせな人生とは、そのための仕事とは。わたしはこのことを意識し始めたのって40代見えてきたくらいだと思う。中高生のうちにこういう価値観を見せてもらえるのっていいね。あるいは、そんなに若いうちから意識しないとならないほど、殺伐とした世の中になってしまったってことかも知れないが。
本に書いてあることは特別突飛なことでもなく、当然なんだけど改めてそういうふうに書かれるとなるほどそうだよね、と再認識する、または、忘れてたけど思い出す、そんなこと。社会の荒波をざっぱんざっぱん被ったおとなはもしかしたら「そうは言うけどさ。綺麗事だよな。」って反論したくなるかも知れない。でも一旦はここをニュートラルなラインとして、子どもたちには持って欲しいな。すべからく人はしあわせになるために生まれたんだからさ。そのためには関わる人のしあわせも考えないと。
これを中高生が実際読んだら、どんな感想を持つのだろうか。ちょうどいい置き場所があるから、持って行ってみようかな。そういえばわたし子どもの頃、母と同じ本読んで交換感想文とかやってて面白かった、というか、母が何言ってるのかその時はよくわからなかったんだけど。しかしかなりウザい親だ、わたしが子どもで良かったようなものの。
これまでやってきたいくつかの仕事は、外見かなり異なるけれど、基本はなんかのサービスを提供するもので、お客さんがそれで仕事の処理速度が上がったり、人事評価が上がったり(なにそれ)、不便が解消されたりして、直接感謝を言葉でいただくことも多かった。期待を外してしまって苦情を言われることもあった。間違いなく言えることは、「社会に繋がってる実感」が明確にあるということ。だから出産育児で3年弱、専業主婦していた間は自分がドロップアウトしたようで本当に辛かった。あの時これ読んでたらな。
様々な方面の人が「働き方改革」なんて唱えるけど、みんなが、自分はこれが大事っていうもの一本持ってればいいだけの事なんじゃないかと思う。無理やり年休取らせるのが改革じゃないからね。
そうそう、こないだ書ききれなかった「ミサリングのOG自慢」もう一つ書く。集まった5人中4人が食の仕事につこうとしてて、残りの1人のこと。彼女は難関大学の3年生で、シューカツが始まっている。今時はオンラインだって。一般企業の説明会を何十と聞いて、どうにもピンと来るものがなく、公務員一択にしようと考えている。地域社会の活性化に携わる仕事をしたいんだって。会社の先輩のご子息のことを思い出した。公務員2年目、岩手に派遣されてまさにそういう仕事を担当した。地元の団体と協力して働くんだけど、彼らの熱意溢れる仕事振りに魅了され、多忙ながらも充実した日々を過ごしたそうだ。高校時代、大人顔負けの見事な仕切りでお菓子教室の周年祭を成功させた彼女にはとても向いてると思う。心から応援する。やりたい仕事、なりたい自分がちゃんと持てるうちの娘達(うちの?)本当に素晴らしい。
だけど、そういうのちゃんと持てない子達もいて当然。前にも書いたけど、中学で「将来なりたいものを書きなさい」って言われて白紙で出して親が呼び出されたのはうちのムスメで、形は謝罪しながらも「そんなもん書けるか、あんたは中学の時にすでにこんなしょうもない教師になるって書けたんだろうね」って腹の中で思ってた親がわたしだ。あの先生にあの時この本読ませてやれたらな。
「たらな」って何度言っても仕方のないことなので、読めるチャンスのある人は、チャンスのある時に読んだらいいと思う。コスパが、なんて言って申し訳なかった。価値ある1,500円。