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海辺のブレイデナ




ああ、わたしはとうとうこんなところへ流れ着いてしまったのか...



ダイビングの講習を受けている娘を、数回だけ別の施設へ連れて行かなければならなかった時のことだ。

ブルージュから北海へ向けて車で20分ほど、オステンドの近くの寂れた小さな海辺の街、ブレイデナ。


フランダース地方には「ブラウン・カフェ」という種類のバアがある。
その名の通り、内装は壁も床も家具も伝統的な茶色で統一されている。決しておしゃれな酒場ではなく、例えば...午前中から飲んでいる人々(前夜から飲み続けている人々と言った方が適切だろうか)がたむろするような店もブラウン・カフェの一種である。

たいていのスポーツ施設にはバアがついており、これがまたブラウン・カフェであることも多い。これは「痩せたい、でも食べたい」という欲望なのか?それともスポーツ施設もバアと同じ単なる社交場?


ダイビングの講習があったブレイデナ市のプール施設にも、ブラウン・カフェがあった(スポーツを終えた人が利用するだけでなく、一般用の街のバアとしても機能している)。

カウンターの中に立っているのは、極端な金髪、たるんだ肌にどぎつい化粧、安物と一目で分かるぱつぱつのタンクトップ、肥大臀部をジーンズに包んだバーテンダー。
くだらない番組を垂れ流しにする壁掛けテレビ、大音量のクラブミュージック、死んだ魚のような目をした酒飲みがカウンターにぶら下がって一番安いビールを飲んでいて、たとえエマージェンシーであってもトイレは使いたくない、そんな...平凡なバアだ。
そういった世界中どこでもあるだろう平凡さが、同時に暴力性を帯びているといういたたまれなさ。崩壊しかけの「家庭」と同じ。

ブコウスキーの筆が冴えたら、このバアも、彼の小説の中の凄惨なバアとして描かれる可能性大である。


わたしは娘が講習を受けている間、そこで時間を潰すしかなかった。車の中はサウナのようだし、周りは田舎の住宅街で何もない。人通りさえない。

思えば遠くへ来たものだよ。
物理的な距離の遠さもだが、バウムガルテンの美学的な意味で。


出張中の夫に電話して「わたしの人生、こんなところでエンドアップするとは夢にも思わなかった」と、言ったら笑っていた。



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