津波・・この歌は唄えない

「誰もいない海」トワ・エ・モワ


今はもう秋　　誰もいない海
知らん顔して　人がゆき過ぎても
私は忘れない　海に約束したから
つらくてもつらくても　死にはしないと

今はもう秋　　誰もいない海
たったひとつの　夢がやぶれても
私は忘れない　砂に約束したから
淋しくても淋しくても　死にはしないと

今はもう秋　　誰もいない海
いとしい面影　帰らなくても
私は忘れない　空に約束したから
ひとりでもひとりでも　死にはしないと


私達が歌声喫茶でも、よく唄う歌ですね。
でも、まさかこの歌が、
東北の津波被災地の人には「唄えない歌」だったとは・・
知らなかった。
実は、仙台の方から、
「沢山の方が亡くなった津波の後に、この歌は唄えなくなってしまった」と言われたのです。



私の人生で最も衝撃を受け、忘れられないのが、
この日和山公園から見た、太平洋側の石巻の光景でした。
ただただ呆然として息を呑み、立ちすくむばかりでした。
この眼下にあった市街地が、まるで根こそぎ無くなってしまったなんて・・
阿鼻叫喚の絶望の下で一体どれだけの人達が逝ってしまったのでしょう？



気仙沼の漁港岸壁は、凄まじい地盤沈下により、
陸と海との境目が一緒になってしまいました。
この落差を、どうやって立て直すのでしょうか？





気仙沼の鹿折唐桑駅の曲がったレールと、
陸地から６００メートルにまで乗り上げてしまった大型漁船の悲しい姿。
この漁船を記念碑として残すか、撤去するかの議論が起こりましたが、
結局、地元の意思を尊重して、撤去になりましたね。
先日、陸前高田に行くＢＲＴバスで、そこを通りかかったら、
漁船の姿はおろか、町の姿もかさ上げにより、すっかり変貌していました。



石巻に建つ、津波到達点、６，９メートルの碑が悲しいですね。
こんな高さまで襲って来る津波を見たら、
足がすくんで逃げようにも、きっと逃げられず、
死を覚悟し、もう神に祈るしかなかったのでしょうね。
本当に恐ろしさと悲しさを感じました。



南三陸町の防災庁舎で、最後まで市民に避難を叫び続けたが為に、
これからの結婚を直前に控えながら命を落としてしまった、
遠藤未希さんや、職員達の慰霊碑。
涙・涙・泣きました。



多くの大切な命を奪った海は、
いつもと変わらずにやっぱり美しい海なんですね。
私達夫婦の大切な友人である、仙台の柏京子さんは、
九死に一生の恐ろしい体験をしたので、
今でも、まともに海を見る事が出来ません。
悲しい事ですが、海に責任はなく、
やっぱり、ただ美しく、永遠に永遠に美しいだけなんです。


私達が歌声喫茶でよく唄う歌は、
復興支援ソング「花は咲く」ですね。
「♪　花は花は花は咲く、いつか生まれる君に・・」
エリカさんは、石巻の現場を見た、その後で行った、歌声喫茶・仙台バラライカで、
この「花は咲く」を涙で唄う事が出来ませんでした。
石巻で見たあの悲しい光景が思い出されて、
唄えなくなってしまったのです。


私達、被災者ではない人間は、
「花は咲く」を唄って被災者たちと、心を一体にしたいと願い、
少しでも彼等の慰めになればと心を込めて唄います。

でも、被災地の人には、
私達が判らない心の痛みを抱え、唄えない歌があったのですね。

やっぱり、誰も居なくなってしまった海なんて、
悲しく切なく、やりきれなく、まともに見られないんですね。
何だか被災地の方々に「ごめんね」と言いたくなりました。