悪人を演ずるに顔を赤くしておると悪い事をしていても、それが当然に観客にはうつる。が、白き顔して善良と見る人に思わせて、かえって悪人を演ずるのは上手の者でないとなかなかその演技が真に迫り来ることはできなく、そこが大変難しいのであり、その方が”赤顔のわるきをおもてにあらわし、悪きことをするものよりはいやまされり”と歌右衛門は高尚の質問に答えています。
この歌右衛門のいらへに高尚は
[おもてやわらかに、其よそほひもおとなしく、ことばも正しくて、善人のごとく見えて、かくれたる悪をなすひと、世におほかりけり。いはゆるかん悪というものにしてひとのにくむところなり」
と評を書き加えております。