この吉備津神社にある坂東三津五郎の奉納した扁額は前に紹介しましたが、もう一度ご覧ください。この額はそこに書かれている年号から文政九年の秋だと云うことが分かります。すると、昨日、紹介した坂東三津五郎が来宮した時は文政三年のことですから、それから6年後に、再び、三津五郎は、江戸から、この宮内芝居に出演するために来たことになります。私の持っている資料には残念ですが、この文政九年の秋に付いての記述は有りません。
これ等残されている資料から推察するのですが、この宮内芝居は御朱印の芝居として大いに賑わっていたことが分かります。江戸、浪速、京以外に、全国でたった1ヶ所の幕府公認の芝居小屋が、この宮内に有ったのですから、相当の権威のある芝居小屋だったのでしょう。だから、これらの東西の名優たちが、一回だけでなく、数回にわたってはるばる西国の鄙の町、備中宮内の、それも増設小屋でなく仮小屋での歌舞伎公演を行っていたのですから、驚き以外に何ものでもありません。