私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

小雪物語―眠る舞姫

2012-08-09 19:23:50 | Weblog

 大阪屋の離れ座敷に運ばれた小雪は、それから二日間、小息を立てながら深く深く眠り続けました。
  その傍に須賀はつきっきりで介抱しております。
 それまで、お須香は、まして、色街に巣くう女等を見て、いとおしむどころか、何時も、汚物か何かのけがらわしい物で、虫酸でも走るかのように、人でなしの、口にするだけでもいやな者のように蔑んでいたのです。決して、そんな女たちを人並には認めていなかったのです。総て、ずうずうしく欲張りで、自分のことしか考えない、お金次第でどうにでもなるような「転び芸者」と陰口される様な薄っぺらなぐうたらな特別の賤しい女だ、と、決め付けていたのです。
 お須賀は、これまで、一途に誰かを思い入れると言う経験もありませんでした。だから、よけいに、何事にも控えめで、我慢ばっかりするような虔ましやかな小雪のような若い娘がいることさえ知りませんでした。まして、この花町宮内の、しかも遊女の中にいようなどといったことは考えても見なかったのです。でも、そんな女の一人であることにちがいない小雪に対しては、今では、それこそ自分の真の娘にでもするかのように一心に付きっ切りで見守っています。
 何時か、雨の中、濡れながら無心にすげ替えてくれた鼻緒のことによほど心を動かされたのか、それともあの堀家の座敷で見た天女の舞に心を奪われたのかは分りませんが、とにかく、甥坊主の新之介と関わりが一時あったというだけで、今は、小雪、小雪と、恰も、自分の真の娘でもあるかような関わり様です。此の娘無くしてはとうてい生きてはいけそうもないくらいの思い入れようです。
 そんな小雪を、一心に付きっ切りで見守っています。