ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

今日から利尻

2010年11月29日 01時31分34秒 | 雑記
昨日、28日のスライドトークは予想以上の40数人の方々に来ていただき、大変、盛況でした。どうもありがとうございます。本も40数冊売れました。どうもありがとうございます。

今日から1週間、北海道の利尻山に取材におとずれるので、ブログのほうはお休みさせていただきます。
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いま子供たちは

2010年11月28日 10時36分12秒 | 雑記
朝日新聞の一面、社会面で「今こどもたちは」という連載が始まった。一回目の「つながる」は、子供の読者モデルと、同じく子供であるそのファンとのつながりに焦点を当てている。わたしたちには分からない、現在の子供たちの世界を垣間見られて、非常に面白かった。

不気味だったのは、ファンの子がインターネットの仮想空間で、憧れの読者モデルと対面するシーン。読者モデルの分身「アバター」が登場すると、待ちに待ったファンの分身から歓声があがり、仮想交流が始まる。こういう感覚って、今の子供たちにとっては普通なのだろうか。ヴァーチャル社会が進展し、質感の伴う人間関係や手触り感のある肉的体験には価値がおかれず、今の社会では数字に変換可能な言語で日常を語ることが当たり前になりつつある。おそらく、幼少期から携帯電話、メール、ネットが当たり前の環境で育ってきた子供たちと、わたしたちとの間には、世界の認識の仕方に断絶がある。彼らは携帯メールの件数やブログのアクセス数というデジタルデータで人間の価値を決めるらしい。

こんな人間ばかりが増えたら、将来ろくなことにならないと思うので、誰かにぜひ、アナログ革命を起こして、情報過疎社会を築いてもらいたい。とは思っているものの、こうした意見をブログなどというケシカラン媒体に書いているところが、わたしのダメなところである。昨日はブログのアクセス数が突然減り、ショックを受けた。

さてと、ぼくの本はアマゾンで何位になったかな~♪
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腰痛探検家

2010年11月26日 01時23分30秒 | 書籍
腰痛探検家 (集英社文庫)
高野 秀行
集英社


高野さんの「腰痛探検家」を読む。腰痛世界を密林やUMA探しといった辺境旅行に見立て、辺境作家である高野さんがその異次元ワールドを旅する仕立てになっている。腰痛に悩む自分を悪い男にだまされた女子に見立てたりといった比喩や、一見突拍子もないが見立てが、読んでるとなるほどと納得させられるほど的確である。

内容は腰痛に悩み、東洋医学から心療内科にいたるまで、さまざまな治療を受けるというだけの話だ。それでも面白い本に仕立て上げるところが高野さんである。しかしそう考えると、結局、高野さんはどんな話を書いても面白くなってしまうわけで、そうするとわざわざ辺境なんぞに行く必要はないようにも思える。それは辺境作家としては、はたしてどうなのだろう。ひょっとしたら、そのへんの自己矛盾を本人も抱えているのかもしれない。

今度会った時は、ぜひそのことを訊いてみようと思う。ちなみにわたしも腰痛持ちで、おまけに頸椎ヘルニアもある。いつか腰痛対談ができたら面白いだろうな。

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マルタイ棒ラーメン

2010年11月25日 02時15分59秒 | 雑記
最近、知り合いから、ブログ読んでるよ、と言われることがたまにある。一番反響が多いのが永谷園煮込みラーメンのことで、おいしかったとか、今度食べてみるとかの連絡が絶えない。わたしとしては複雑な気持ちだ。岩登りの話とか、読んだ本のこととか頑張って書いているのに、わたしがやっていることはあまり興味を惹かず、読者が気になるのは煮込みラーメンのことばかりであるらしい。

最悪だったのは探検部の後輩M上で、「かくはたさんのブログで一番影響を受けたのが煮込みラーメンですが、あまりにも期待しすぎたため、思ったほどおいしくなかったです」と言われた。彼には、まず一度、ニンニクと唐辛子を加えて豚肉を炒め、焦げ目がついたところで野菜を加え、しんなりしたら、お湯を入れて麺をゆでて、最後に酢とコショウ、七味を加えたほうがいいと忠告しておいた。M上のように、思ったほどおいしくなかった人は、上記の方法で調理してもらいたい。

というわけで、煮込みラーメンのことは、もう二度と書かない。

代わりに、マルタイ棒ラーメン(しょうゆ味)のおいしい作り方を紹介しよう。お湯を少なめにして、麺をかためにゆでる。刻んだネギとおろしニンニク、ごま油、酢を加え、コショウ、七味を少々ふりかけると、あら不思議。そのへんのラーメン屋よりも、よっぽどうまいラーメンができあがる。夜食に最適である。北極に向けて、今日から夜のランニングの距離を10キロから20キロに伸ばしたが、走行後の棒ラーメンは実にうまかった。

棒ラーメンはかさばらないので、山の食料で持っていく人が多い。家でも食べているというと、バカじゃないかという視線で見られるが、麺にはコシがあり、スープの味もしっかりしていて、インスタント麺としては秀逸だと思う。

お気づきの方もいると思うが、わたしはすべてのインスタント麺に同じ調味料を加える(いや、すべての料理と言っても、過言ではない)。その結果、自分好みの味になるが、全部似たような味になり、それが克服できずに困ってもいる。
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日曜日にスライドトーク

2010年11月23日 22時44分15秒 | お知らせ
日曜日にカワチェンでスライドトークを予定しているが、予想以上に予約者数が少ないらしい。ということで改めて告知します。

11月28日(日曜)午後3時~5時(会場午後2時40分)
場所 東京都品川区小山4-9-15 唯称寺2F  東急目黒線 目黒から2駅目 武蔵小山駅より徒歩3分
参加費 千円
定員 80人
※前日の27日までにこちら(http://cart05.lolipop.jp/LA02190902/)にて申し込み受け付け中。

ツアンポー峡谷探検の模様、現地のモンパ族の風俗、慣習、聖地ベユル・ペマコの伝説などについて、スライドを交えてお話します。詳しくはカワチェンのホームページ(http://www.kawachen.org/event.htm)まで。

わたしの本「空白の五マイル」の販売と、サインもいたします。定価より少しお安めにできると思いますので、ぜひいらっしゃってください。

   *   *

探検部後輩Aと、その友人のY子さんが本が欲しいと言って、わざわざ西武池袋線東長崎駅まで来てくれた。二冊ご購入。どうもありがとうございます! せっかくなので駅前の居酒屋で軽く飲み、売上金を消費させていただいた。


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人体冷凍

2010年11月23日 00時52分22秒 | 書籍
人体冷凍  不死販売財団の恐怖
ラリー・ジョンソン,スコット・バルディガ
講談社


たまたま神保町の本屋の台車の上にあったラリー・ジョンソン、スコット・バルディガ「人体冷凍 不死販売財団の恐怖」という本を衝動買いした。恐ろしい本を買ってしまったものである。アメリカには、死後の人体を液体窒素で冷凍保存し、後世に復活させるアルコー延命財団という非営利組織があるらしく、この本はその財団の幹部ラリー・ジョンソンによる衝撃の内部告発だ。

とにかく内容が、このブログで書くのが憚られるほどえぐい。財団の会員が死ぬと、財団はその頭部を切断し、特殊な医学装置につなぎ、液体窒素でマイナス196度に冷凍保存する。だが彼らは狂信的なカルト的人体冷凍保存至上主義者で、時には殺人も辞さないというのである。口絵には手術の模様を映した写真が掲載されていて、非常にグロテスクである。財団のメンバーは明らかに倫理観が欠如した社会不適合者ばかりで、マイケル・ペリーなる人物は……、いや書くのはやめておこう。

著者は長年、救急救命士として活躍してきたが、新たな刺激を求め、この財団に仕事を変えた。だがこの財団のずさんな手術の方法や、薬品や人体の管理の仕方を見るうちに正体を知るようになる。冷凍保存をするために会員を殺害した例すらあったことも突き止め、その証拠集めに奔走し、最後は財団から命を狙われる。

驚くのは、内容が恐ろしくグロテスクなのに、著者の文体がとてつもなくユーモラスなことだ。こんな内容の本を、こんなに面白く書けるなんて、この著者の頭はいったいどうなっているのだろう。

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馬脚

2010年11月21日 15時49分45秒 | 雑記
集英社が主催する文学賞四賞の贈賞式が19日に帝国ホテルであり、憚りながら、わたしも開高健ノンフィクション賞の受賞者として出席した。受賞作は18世紀以来の地理的課題であるチベットのツアンポー峡谷の探検記。選考委員を代表して佐野眞一さんからは「絶滅危惧種」「バカ」との、ありがたい言葉をいただいた。うれしい限りである。

実は7月に受賞が決まった時、選考委員の先生がたに呼び出されて打ち上げの場にかけつけたことがあった。その時、わたしは板橋にあった弟の坦々麺屋でメシを食べていたので、当然、破れたジーパンにTシャツという普段着姿でお邪魔した。そのみっともない姿を見て、同委員田中優子さんから「あなた、式の時はちゃんとした服を着ないとダメよ。それが一番大事なことなのよ」と諭された。

ということもあり、今回は式に臨むため、わざわざジャケットにシャツ、パンツを新調した。基本的にわたしはファッションというものにやや疎いので、店員さんに、これこれこういう事情でパーティー用の服装が必要なのであると説明し、上から下まで現在のトレンドから見ても恥ずかしくないコーディネートをしてもらった(油断していると二万円のベルトまで買わせようとするので恐ろしい)。

式の前日夜、一応、もう一度試着してみるかと思い、わたしは部屋の中で新装した洋服を着用し、鏡の前に立ってみた。はだしだと違和感があるので、靴を履いてみようと思った、その瞬間に思いだした。あ、靴買うの忘れた。家には記者時代に履いていた黒の皮靴があったが、5年以上使っているで、中学校の先生の靴みたいに擦れてぼろぼろである。昔、結婚式の引き出物でもらった皮靴用のオイルを塗って磨いてみたが、擦れたところは当然、ぼろいまま。でも靴なんか誰も見ねえか、と思い、翌日そのまま出席した。別に誰からも、角幡君、靴だけぼろいね、などとは言われなかったが、翌日家族からはやはり指摘を受けた。

こういうのを馬脚をあらわすというのだろう。



高野秀行さんとの対談が集英社のPR誌「青春と読書」12月号に掲載されています。書店などでお求めください。

もうひとつお知らせ。本日NHKスペシャルでツアンポー峡谷の運搬人をドキュメントした「天空の一本道」(午後9時~)が放映されます。ぜひご覧になってください。

http://www.nhk.or.jp/special/
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百年前の山を旅する

2010年11月17日 11時56分02秒 | 書籍
百年前の山を旅する
服部文祥
東京新聞出版局


服部文祥の新刊「百年前の山を旅する」を読む。過去二作のサバイバルシリーズとは若干異なり、昔の登山家や荷役衆の足跡をたどることで、現在の登山や文明のあり方に批判的な視点を投げかけている。ただ山に登るとはどういうことかを考えている点は同じだ

あいかわらず秀逸な山岳ルポには脱帽。資料の読み込みや古い装備のことを詳しく調べる能力にも驚いた。ただ単に詳しく情報を引き出すだけにとどまらず、調査で知り得た昔の登山行為や冒険行の意味を物語に転換させている視点が鋭い。さらにそれが面白いところに、もっと感心させられる。情熱大陸しか見てない人は、ただの危ない人という印象を受けるようだが、著書を読むと、頭のいい危ない人であることがよく分かる。

登山のルポは難しい。確固たる視点を持たずに山に行っても、そこには基本的に自然しかなく、対自然は対人間と違いやりとりがないため、文章にメリハリをつけるのが難しいのである。服部さんの山岳ルポが面白いのは、自然と対話し、そこから読者をうならせる発想を得ているからだ。

近くにこういう文章がうまい人がいると本当に困りもんだ。栗城くんの本を読んで登山のことを勘違いしてしまった人は、服部さんの本を読みましょう。

話は変わるが、本の雑誌がWEBで「空白の五マイル」の記事をアップしてくださいました。ありがとうございます。

NEWS本の雑誌
http://www.webdoku.jp/newshz/azuma/2010/11/17/100259.html

杉江由次さんの「帰ってきた炎の営業日誌」
http://www.webdoku.jp/column/sugie/2010/11/17/104057.html

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北極点初到達は虚偽?ならびに「空白の五マイル」発売

2010年11月17日 00時19分10秒 | お知らせ
NHKhiの番組「世界史発掘!時空タイムス編集部『北極点を目指せ!世紀の大冒険に秘められたミステリー』誰が北極点に一番乗りしたのか?探検家ピアリーとクックの主張を検証」を見る。北極点初到達をめぐる疑惑を論証した番組で、ドイツの製作によるドキュメンタリーをもとにしている。ゲストで荻田君が出演していた。

改めて簡単に説明すると、北極点はアメリカの探検家ロバート・ピアリーが1909年4月6日に初到達したとされているが、ピアリーが米国に帰国途中、フレデリック・クックがその前年に初到達していたと主張したものだから、大論争に発展した。政治力と陰謀にたけたピアリーがクックの到達は虚偽であったとのキャンペーンを仕掛け、クックは世紀のペテン師として歴史の闇に葬られた。

番組ではクックを貶めるためにピアリーが用いた買収や証拠隠滅などのえげつない手法も紹介され、北極点初到達をめぐる赤裸々な人間ドラマがよく伝わっていた。クックはクックで、本の中身が日記とは違っていたらしく、クック派のわたしとしては残念である。番組でコメントしていた専門家は、ほぼ全員、二人とも北極点には到達していなかったという点で意見が一致していた。

北極は大陸じゃなく、海の上に氷が漂っているだけなので、到達の証拠が残らない。歴史や自然環境も含めた、そうした茫漠性が北極の魅力といえば魅力である。

北極探検史についてもっと詳しいことを知りたい人は、今年の「岳人」10月号の第二特集「極地探検のいま」を読みましょう。わたしの記事が載っています。→アマゾンで販売中。


空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡 唯介
集英社


「空白の五マイル」は本日発売です。よろしくお願いいたします。


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カワチェンでスライドトーク

2010年11月16日 09時36分52秒 | お知らせ
ツアンポー峡谷に行く前にチベット語を学んでおりましたカワチェン主催で、スライドトークを開かせていただきます。

11月28日(日曜)午後3時~5時(会場午後2時40分)
場所 東京都品川区小山4-9-15 唯称寺2F  東急目黒線 目黒から2駅目 武蔵小山駅より徒歩3分
参加費 千円
定員 80人
※前日の27日までにこちら(http://cart05.lolipop.jp/LA02190902/)にて申し込み受け付け中。

ツアンポー峡谷探検の模様、現地のモンパ族の風俗、慣習、聖地ベユル・ペマコの伝説などについて、スライドを交えてお話します。詳しくはカワチェンのホームページ(http://www.kawachen.org/event.htm)まで。

単行本「空白の五マイル」は明日発売!!

予約まだな人はアマゾンへ→
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見本とどく

2010年11月11日 18時43分34秒 | 雑記
「空白の五マイル」の見本ができあがり、先日、家に届いた。実物が届くと、やはり違う。なんだか感慨深い。

ごりごりの冒険ものなので、読者層のすそ野が狭いのは確実である。だが、売れなければ書き手としての未来が閉ざされてしまうので、なんとか売り上げを伸ばしたいものだ。中身はさておき、鈴木成一デザイン室が装丁を担当してくださり、一見すてきな出来栄えになっているので、ジャケ買いしてくれる人が続出することを期待している。

→アマゾンで予約受付中。発売は17日!

一応、自分でも隙をみては営業活動を展開する予定にしており、とりあえず今日は、北極遠征用のテント購入のために立ち寄ったICI石井スポーツ登山本店様で営業活動を行う。今後、地平線会議、チベット語講座「カワチェン」、弟の油そば店「武蔵野アブラ学会」などで独自の販売促進活動をおこなうことにしている。


スリーピング★ブッダ
早見 和真
角川書店(角川グループパブリッシング)


早見和真「スリーピング・ブッダ」を読む。著者の早見くんとは、実はまんざら知らない関係ではないことを、最近知った。私が以前つとめていた新聞社で同期入社する予定だったのだが、大学の成績の都合だか、家庭の都合だかで卒業できず、入社を断念したのである。断念までの間に何度か飲み会で顔を合わせてことを覚えている。その後は売れっ子ライターとして活躍し、デビュー作の小説「ひゃくはち」がベストセラーとなり作家生活を送っていたらしい。

ブッダは彼の第二作で、永平寺をモデルにしたと思われる寺で修行生活に入った若き二人の僧をめぐる青春小説。テーマは、生きることとは何か、良い人生とは何か、おれたちはどう生きたらいいんだろう、という、服部文祥、コーマック・マッカーシー顔負けの直球ど真ん中小説である。読者をぐいぐい引き付ける文章なので、一気読みできる。うらやましい限りだ。ひゃくはちも面白かった。

ひゃくはち
早見 和真
集英社


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探検部後輩S結婚式当日のわたし

2010年11月07日 21時45分35秒 | 雑記
探検部の後輩Sの披露宴に招かれ、京都に行ってきた。

深夜バスで京都に行って、汗臭いまま披露宴に出るのもいやなので、出発前日Sに電話して、早朝に京都に着くのでお前の家でシャワーでも借りられないかと、無茶なお願いをした。7時半には家を出なきゃいけないので、ちょっと無理ですね、と断られた。さすがに自分でも、結婚式当日の新郎新婦の自宅に押し掛けるのはどうかとは感じていたので、当たり前かと思ったが、すぐにまたSから電話が来て、急げば大丈夫なので、家に来てくれても構わないという。

朝6時20分、京都着。Sの指示通り、地下鉄でMという駅に行くと、改札に彼がいた。いやいや申し訳ないねなどと言いつつ、車に乗り、彼の自宅マンションまで送ってもらう。中に入ると、新婦のMさんが、いらっしゃいと明るくあいさつしてくれた。
「いやー無茶言って、すみません」
「いいんです。ご自由にくつろいでください」
良い人だ。Mさんとは、Sと一緒に小川山でクライミングをしたことがあったので、知らないわけではない。お言葉に甘え、テーブル上の新聞を広げて読んでいると、Sがパンを切って、トースターの中に放り込んだ。
「それじゃあ、鍵おいてきますんで、あとはよろしく」
SとMさんは、式を挙げるため、そそくさと自宅を後にした。

残されたわたし。

トースターがチンと鳴ったので、開けると、コンセントが抜けていたらしく、冷たいままである。もう一度焼き直し、冷蔵庫の中のパイナップルジュースをコップに注ぎ、朝食をいただいた。腹が満たされると、なんだか急に眠くなってきた。前日は高田馬場スポーツ用品店勤務のSMさんに誘われクライミングをしてきた。そのため2日連続で車中泊となったため、知らない間に疲れていたらしい。椅子にかけてあったドテラを羽織り、ソファーの上のクッションを枕にして横になると、すぐに熟睡した。

目を覚ますと11時半。いけない、すっかり寝坊してしまった! そういえば、わたしが現在ここにいるのも、たしかシャワーを浴びるのが目的だったはず。そう思い、急いで服を脱ぎ、シャワー室に入る。

考えても見ると、この部屋はSとMさんが暮らしているとはいえ、もともとはMさんが住んでいるところにSが押し掛けたはずなので、もともとはMさんの家である。そんなことを思いながら、頭をごしごし洗う。今頃、この家の二人は、永遠の愛でも誓っているのだろうか……。体を洗いながら、ようやくわたしも、それにしても、と思うにいたった。

おれは一体、こんなところで何をやっているんだろう。


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「空白の五マイル」アマゾンで予約可です

2010年11月04日 13時39分26秒 | お知らせ
空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡 唯介
集英社


開高賞をいただきました「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」(集英社)が11月17日に発売されます。アマゾンではすでに予約可能。よろしくお願いします!

ラジオ出演情報です。


緒形直人さんがパーソナリティーをつとめるTOKYO FM(80.0MHz)「GIFT FROM THE WORLD with NATIONAL GEOGRAPHIC」に出演します。11月6日(土)と13日(土)の2回、時間は午後6時半から30分です。

今回のツアンポー峡谷の旅について話しました。興味のある方は聴いて下さい。

    ******

ヤフーBBのADSLモデムが故障中。交換してくれるらしいが、ここ数日はネットが使えない。不便である。現在は西武池袋線椎名町駅前のネット喫茶で情報発信中。

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