ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

荒川出合1ルンゼ

2013年02月26日 08時47分48秒 | クライミング
週末はアルム内田くんと南アルプスの荒川出合1ルンゼへ。白山書房のガイドブックでミックスのビッグルートと書かれており、以前から気になっていた。土曜夜出で夜叉神まで行き、偵察もかねて鷲住山を下って取り付いた。

昨年正月に北岳バットレスに行った時は非常に発達していたが、鷲住山から見る限り、今年は去年ほどの結氷状態にないようだ。正面からはぶったっている壁にしか見えず、登攀は不可能かとも思えたが、とりあえず取り付いてみると、氷も思ったよりしっかりしており、しかも想像以上に傾斜の緩いルートだった。まあ、よくあることだ。

取り付きは奈良田側のトンネルの左側の旧道を進み、虎ロープの張られた尾根をひとつ越えて、再び旧道に下りて、三つ目ぐらいのルンゼ。旧道からルートが一目で分かる大きなルンゼだ。200メートルほどラビネンツーク状になった谷を登り、青氷が出てきたところから登攀開始。

最初の2ピッチはⅡ、Ⅲ級でコンテでもOK。4ピッチ目から少し傾斜のあるミックスとなる。最大でⅣ+ぐらい。岩はリスが少なく、ややランナウト気味だが、そんなに悪くないので問題ない。6ピッチ目が核心の氷柱で20メートル、Ⅴ級。下部がやや薄い。

アイス、雪壁、ミックスと変化にはとんでいるが、少しだらだらとしている。ただ、長いことは長い。ロープは60メートル。全ピッチ、ほぼフルに伸ばし7ピッチ登り、そこで傾斜が緩んだ。もういい時間になったので、右の藪に入って下降したが、抜けるにはまだ少なくても3ピッチ分の氷があった。

気になったのは、左側の奥壁に左斜めに食い込むゴルジュ状ルンゼ。手前のリッジに阻まれ、ルンゼの状態は見えなかったが、最下部でブルーアイスがもっこりと姿を見せていたので、もしかしたら奥壁の上部まで抜けられのかもしれない。そうしたらロープスケールで600メートルを越す、長大なルートになるだろう。もしかしたら面白いもの発見かも! と密かに少し盛り上がった。

ちなみに白山書房の「アイスクライミング」に載っている荒川出合の概念図は、1ルンゼの位置が間違っている。図に示されているのよりも一本奈良田側の大きなルンゼなので、行く人は(あまりいないと思うが)ご注意を。

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赦す人

2013年02月15日 14時03分20秒 | 書籍
赦す人
大崎善生
新潮社


大崎善生『赦す人』を読む。

大SM作家団鬼六の評伝ノンフィクションである。大崎さん独特の情緒的な、対象にどっぷりと肩入れした文体が好きな人にはたまらない。『聖の青春』も『将棋の子』もそうだったが、大崎さんのノンフィクションは面白すぎて他のことがまったく手につかなくなってしまうという、こまったところがある。

この本もそうだ。おかげで、昨日から極地探検における天測の例を調べようと思っていたのに、机の上に山積みになった資料が全然動かなかった。タイトルは『赦す人』のくせに、全然赦してくれないのだ。

相場、エロ、酒、小説、将棋と生涯を遊びつくし、稼いでは散財した変態作家・鬼六の奔放な人間像に引き込まれるのはもちろんだが、脇役陣もたまらない。たこ八郎に真剣師小池重明、黒沢明の敏腕プロデューサーとして活躍し、最後は自宅アパート野垂れ死にに近い形で発見された本木荘二郎など、破滅していった人間に、著者の深い愛情が注がれている。

昭和一桁世代に対する哀惜も本書の基調を成している。前半に「一期は夢よ、ただ狂え」という言葉が時折出てくるが、本当に狂うことができた昭和一桁世代に対する、それは共感の言葉である。狂うことができた人間こそ人間なのだという思いが根底にある。

こんな風に人間を書けるのは、大崎さんに人間の弱さをつつみこむ優しさがあるからだ。この本の中で書いているが、若い頃に作家を目指して将棋にのめり込み、人生を持ち崩しかけた経験が本人にあるためだろう。

赦す人というのはもちろん団鬼六のことだが、大崎善生本人が赦す人になっている。そんな本である。


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鋸岳第二高点中央稜中間ルンゼ

2013年02月12日 09時56分57秒 | クライミング
10日、11日と南アルプスへ。10日に戸台から熊穴沢出合にBCをつくり、一日目は舞姫の滝、二日目は鋸岳第二高点中間ルンゼを登って来た。メインは中間ルンゼ。以前からぜひ登ってみたかったルートのひとつで、昨年も日帰りで狙ったことがあった。それだけに期待は高かったが、滝が小さいうえに、滝と滝の間隔が広く、期待に反してつまらないルートだった。もっと大きな滝がぎゅっとつまっているイメージだったのだが。

結氷状態はあまく、核心のF4は氷が薄くて左から高巻き、途中の岩稜でロープ1ピッチ出した。あとはF6の落ち口がハングになっているので、A0で越えた。そのほかの滝はいずれも10メートル程度で、難しくない。

北極を旅している時は、北極のほうが山より面白いんじゃないかと感じて、帰国しても山なんか行きたくならなさそうだなあ、なんて思っていたが、先週も大谷不動に行き、結局、帰国後の週末は山についやしている。そのうえ、二月下旬から三月上旬にかけて、三人と三つの山行を約束してしまった。体がみっつ欲しい。

最近は山ばっかりで、帰国後に買いまくった本がぜんぜん読めない。当然仕事などの社会生活にも差し支えがある。本当に山って生命に危険が伴う点以外にも、その活動の余波にいたるまで社会と折り合いがつかないところがあり、そんなところがいいですよね。



結氷のあまかったF4。写真でみると登れそうだが。

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解説文二つ

2013年02月08日 08時58分35秒 | お知らせ
サハラに死す――上温湯隆の一生 (ヤマケイ文庫)
クリエーター情報なし
山と渓谷社



七十五度目の長崎行き (河出文庫)
クリエーター情報なし
河出書房新社


文庫本の解説を二つ書いたのでお知らせします。
上温湯隆『サハラに死す』(ヤマケイ文庫)と吉村昭『七十五度目の長崎行き』(河出文庫)です。『サハラ』のほうは上温湯青年による伝説的な冒険行で、彼の死後見つかった日記をもとに編集されたものです。『七十五度目』のほうは、吉村さんの取材旅行の様子をまとめたエッセイです。
書いたのは北極に行く前で、帰国したらすでに発売されていたので、宣伝するのを忘れていました。

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