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ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

ヒル地獄

2014年08月17日 23時07分10秒 | 雑記
『ヒルズ黙示録』『メルトダウン』などの著書がある朝日新聞記者の大鹿靖明さん編著の『ジャーナリズムの現場から』が講談社現代新書より発売された。

大鹿さんが、現代日本のジャーリズム界からが骨がある人物として選定した十人のジャーナリストと対談し、斯界の現況、問題点、見通しなどを腹蔵なく語り合った本である。どういうわけか私もその中の一人、しかも先頭バッターに起用されており、今回も懲りずに末席を汚してしまった。その意味では正確にいうと本書は十人のジャーナリストではなく九人のジャーナリスト+一人の探検家とのインタビュー集ということになろうか。

ジャーナリズムの現場から (講談社現代新書)
大鹿靖明
講談社


この本を今回、南アルプスの釣り登りにいくときの電車のおともに持って行った。自分の話はほかの方々と比べると格段に薄っぺらくて、車内で読んでいて恥ずかしいこと、また大鹿さんに申し訳ないことこのうえなかったが、ほかの方々の内容は非常に勉強になり、また刺激にもなった。私のなかにもまだジャーナリストの魂のかけらが残っていたのか、これらの人々に負けないように鋭意、取材に邁進しなければと、読んでいて思わず手に力が入り、気がつくと降車駅を乗り過ごしてしまっていた。つまりそれぐらい充実の内容ということである。

ちなみに南アルプスのほうは散々だった。今回は逆河内という学生時代から登りたかった沢にいくつもりだったのだが、その手前の寸又川の段階ですでにかなり増水。学生のときに買った二万五千図によると逆河内の手前に寸又川を渡る橋があるらしいのだが、行ってみると橋はすでにワイヤーしか残っておらず、やむなくそれより手前の橋を渡って、それからは生コンを流し込んだみたいな黒灰色に濁った寸又川本流の側壁の高巻トラバースを延々と強いられた。ザイルをつかって細い灌木と泥をひっつかみ、懸垂下降で激した流れの淵に降り立ち、また登ってきわどいトラバースを繰り返しということをつづけているうちに、どこかでこういうことをやったような気がしてきた。

そうだ、ツアンポーのときとまったく同じことをやっている……。私はただ夏のせせらぎの中で水と戯れながら魚を釣りたかっただけなのに。

考えてみると、あのときと同じように橋はなくなっており、足はヒルまみれである。ずぼんの裾をめくるたびにヒルがおいしそうに吸血しており、うんざりさせられた。


こんなかんじ


ときには三匹

結局、一日では逆河内の入り口にすら到達できず、二日目の今日、午前中にたどりついたが、逆河内も猛烈に増水しており、潔く敗退して帰京した。帰りの新幹線の中ではヒルにかまれた痕からドロドロと半分凝固した血液が止まらず、顔も顔だけにエボラ出血熱患者と間違われないか、すこし心配だった。




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帰国しました

2014年08月14日 11時45分25秒 | 雑記


予定よりだいぶはやく、10日にフィリピンから帰国した。帰国が早まったのは、漁が予想以上に好調で船の魚槽がマグロでいっぱいになってしまったからである。

今回、お世話になったのは沖縄の三高物産のいろは丸という19トン船で、グアム基地をベースに操業している。通常はグアムを出発して一か月ほどでグアムに戻ってくるのだが、今回は船の定期検査があるため、フィリピンのダバオ港に入港した。大漁(といえるほどなのかどうかはわからないが)だったため予定よりも四日ほど早く操業を切り上げ、二十日少々で一航海が終わったことになる。

それにしても生で見るマグロ漁は迫力があった。いずれ作品化しなければいけないので、ここで詳細を書くわけにはいかないが、目がうつろで顔に表情のない魚族とはいえ、マグロもやはり生き物(しかもかなり大型の)。はえ縄で釣って漁船の上で処理されていく現場は、内臓が砕け、血が飛び散って、まさにという言葉がぴったりだった。

しかし、三週間も漁船に乗って波に揺られていると、正直言って海はしばらくこりごりになる。マグロの赤身の刺身も金輪際見たくもない、といった心境だ。トロは食べたいけど。出発前は海に対するあこがれがあり、将来はヨットを買って南太平洋の島々を五年ぐらいかけて巡るのもいいなあ、と夢想していたが、今は海はもういいから山に行きたい気持ちでいっぱいである。

そういえば昔、ヨットでニューギニアまで行った時も同じ気持ちになった。私は海が嫌いなのだろうか。

ということで、明日から5、6日、南アルプスのほうに釣り登りにでも出かけることにしやす。

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