ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

ボンボン発売

2015年02月11日 23時37分33秒 | お知らせ


『探検家の日々本本』の店頭販売がすでに一部書店で始まっているようです。アマゾンなどの通販サイトでも注文できます。

読書エッセイということもあり、この本はこれまでの著作のなかでは一番読みやすいかと思います。ユーモアと面白さを重視して書きました。「はじめに」のなかから本書の紹介の部分を抜粋すると、内容は次のようなものになります。

「本書は私のこれまでの人生や探検と、読書との相互作用を述べたものである。どのような本と出会い、そしてその本の影響でどのような行動をしたか。あるいはどのような行動をした結果、どのような読み方をしたか。そのような本にまつわる個人的な雑多な履歴をまとめたものである。従って、いわゆる通常の読書エッセイとは異なり、読んだ本の内容についての論評や解釈をまとめたものではなく、それぞれの本が私に与えた影響のようなものについて書いているので、取り上げた本の内容についてはほとんど触れていない文章もある。」

要するに本を題材に、本を利用させてもらって自分自身のことを書いたエッセイで、かなりくだらない内容のものも含まれています。

ちなみに本書で利用させてもらったのは、以下の本たちです。

・金原ひとみ「マザーズ」
・伊藤計劃「ハーモニー」
・サマセット・モーム「月と六ペンス」
・中島京子「小さいおうち」
・ジョン・ガイガー「奇跡の生還へ導く人」
・ジョン・クラカワー「空へ」
・ジョーゼフ・キャンベル、ビル・モイヤーズ「神話の力」
・ショーン・エリス、ペニー・ジューニョ「狼の群れと暮らした男」
・高野秀行「西南シルクロードは密林に消える」
・金子民雄「東ヒマラヤ探検史」
・増田俊也「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」
・井田真木子「同性愛者たち」
・町田康「告白」
・辻邦生「西行花伝」
・コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」

しかし、今振り返ると、他にも取り上げたい本があったなあという気がします。例えば松本清張の著作とか。考えてみると、私が新聞記者になったのは、松本清張の本から誤った新聞記者の印象を受けたからでした。あと、最近だと中村文則の本なんかも論じたいところだし、「オートメーション・バカ」「テクニクム」で読んだ、テクノロジーと人間の能力の関係についても非常に考えさせれるものがあります。

またそのうち趣向を変えて、ボンボン、やろうかな。

あと、どうでもいいけど、こうやって著者名を並べると、「ジョ」で始まる人が三人もいますね。「ショ」を入れると四人になる。小さい「ョ」が四つも並んでいる。

それにしても、五年前に「空白の五マイル」を書いでデビューしたとき、探検部の先輩である西木正明大先生から、「なんでもいいから(つまらなくていいからという意味だと思います)、一年に一作は絶対に新刊を出せ。じゃないと読者に忘れられる」という非常に深いお言葉をいただきました。しかし、その言いつけを守れたのは、その後、二年間だけ。「アグルーカの行方」を書いた後は、2013年、14年と鳴かず飛ばずでした(一応、昨年、高野さんとの対談本は出したけど、単著じゃないしなあ)。繰り返しになりますが、この本はわたしの二年半ぶりの著作なのです。

恐ろしいことに、西木大先生の言葉は現実のものとなり、グーグルで自分の名前を検索すると、「空白」を書いた頃よりヒット件数がずいぶんと少なくなりました。いやあ、本を書かない作家って、本当に世の中から忘れ去られんですね。これは、寂しいなあ。これから頑張ろう。

おっと、忘れていました。単行本発売を記念し、連載媒体だった幻冬舎プラスで鈴木涼美さんとの対談が掲載されています。テーマは男と女の世界認識の違い、といった感じでしょうか。かみ合っているようで、かみ合っていないような内容になっています。ぜひ、ご一読ください。

http://www.gentosha.jp/



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現代ビジネスの記事と、翼賛体制構築に反抗する声明

2015年02月10日 11時37分33秒 | 雑記
ウェブ現代ビジネスで、先日のイスラム国問題にみられる自己責任論と安倍政権の過失について論じました。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42018

これまで政治的な問題に関しては、自分の専門でもないし領分でもないと思っていたので、家で文句をいうぐらいで、あまり表立っては発言してきませんでしたが、最近の安倍政権の横暴にはさすがに我慢ならなくなり、たまたま執筆依頼があったので個人的な不満を公表しました。

安倍政権にも腹が立ちますが、非常に危惧されるのは、メディアの政権批判の力が近年急速に弱まっていることです。

現代ビジネスの原稿で詳しく触れていますが、「イスラム国」の問題に関連すると、安倍首相がイスラエルで二億ドルの支援金を拠出するとした発表のタイミングは結果的にはかなり問題があったと思われます。にもかかわらず、このことに関して、少なくとも私が購読している朝日新聞はほとんど追及の矛先を向けていませんし、ほかのメディアも似たり寄ったりな状況だと思います。また「イスラム国」問題がらみでいうと、参院予算委員会で安倍首相や岸田外相が、特定秘密保護法をたてに情報集活動で公表できないこともあると思われるとの旨の答弁しました。早速、昨年問題になった特定秘密保護法をたてに、事実の隠蔽と責任逃れをはかろうとしているわけですが、どういうことかメディアはこの発言も大きく問題にしませんでした。

直近では外務省がシリアへ渡航を計画したフリージャーナリストにたいし、警察を同行して逮捕をちらつかせて、ほとんど恫喝まがいの手法で旅券の返納を命じました。これも大変な人権侵害であり、本来ならメディアがキャンペーンを組んで追求すべき大問題であるにもかかわらず、ストレートニュースでさらっと流してしまいました。また憲法改正問題についても、安倍首相は緊急時に個人の権利や自由を束縛する条項を設けることを公然と口にしていますが、こんな治安維持法まがいのあぶない提案をメディアはまったく問題視しないのです。

あきらかに安倍政権は「イスラム国」の問題に便乗し、戦前回帰的な強権的かつ独裁的な政治体制を構築しようと策動しているようですが、メディアは全体の空気をおもんぱかり、勝手に批判の矛先を鈍らせて報道を自粛しています。まったく一体、七十年前の戦争の反省は何だったのか思わざるを得ません。新聞をはじめとしたメディアは大本営発表ばかり報道して翼賛体制の一翼をになった結果、戦争を推進する機関に堕し、そのことの反省から戦後ジャーナリズムは始まったはずです。そして新聞はことあるごとに当時の反省を持ち出し、二度と同じ過ちを繰り返さないと宣言してきたにもかかわらず、彼らは今、同じ過ちを繰り返そうとしているのです。昨今の報道姿勢をみていると、結局、新聞が言ってきたのは口先だけだったのだなと判断せざるを得ないものがあり、はっきりいって脱力感すらあります。

そんな思いでいたところに、今日の新聞でジャーナリストや表現者が署名し、翼賛体制構築に反抗するという「声明」を発表したとの記事を読みました。声明を読み、私もさっそく署名しました。もし賛同される方がいたら、署名をお願いいたします。以下のサイトになります。

http://ref-info.com/hanyokusan/


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探検家の日々本本

2015年02月03日 13時46分55秒 | お知らせ



ついに、二年半ぶりとなる単著『探検家の日々本本』の見本ができたとの連絡が、版元の幻冬舎より届いた。

この本は一応、ジャンル的には読書エッセイということになるのだろうが、正確には「読書にかこつけて自分のことを語ったエッセイ」と呼んだほうが適切である。私の場合は結構、本に触発されて探検のネタを考えたり、探検した結果、この本はこんなふうに読めましたという経験が多いので、そういった本が作ってくれたきっかけや発見について書いたものになっている。

ゲラを呼んだ限り、はっきり言って、かなり面白いと思います。自分でいうのも何だけど。斬新で異色なエッセイですね。内容と角度が。

カバーは朝日新聞誌上で四コマ漫画『地球防衛家のヒトビト』を連載されている、しりあがり寿さんが描いてくださいました。北極で橇を引きながら本を読んでいる絵ですが、なぜかサンタクロース風になっています。あと、橇の上に乗っている犬はウヤミリックだろうか。橇を引かずにサボっているあたりは、結構正確ですね。

発売は2月12日。定価1400円です。

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錫杖岳1ルンゼ

2015年02月03日 01時29分12秒 | クライミング


忙しい、忙しいとぼやいているわりには、この週末は若手クライマーのオオブ君と錫杖岳1ルンゼへ。日本で一番かっこいいとの呼び声も高いアルパインルートである。

事前の候補は三つあって、南アのヤニクボルンゼと唐沢岳幕岩S字状ルンゼと錫杖で迷ったが、たまたま山行の数日前に高田馬場のカモシカスポーツに行ったときに、錫杖に行ってきたばかりだという店員さんから「1ルンゼ、ばっちり凍ってましたよ」との報告を受けたので、そんなこんなで錫杖にした。

天気は雪で寒かった。積雪も多く、クリヤ谷出合まではラッセルで二時間半ほどかかる。最近では錫杖というとアルパインクライマーのゲレンデ的な雰囲気もある山なので、天候にかかわらず他パーティーもいるだろうと予想していたが、誰もおらず貸切状態である。土曜はキャンプから取り付きまでラッセルし、ロープを1ピッチ30メートルほどフィックスして終了した。

氷結状態はどうだったのだろう、ちょっと微妙な気がした。もう少し時期が遅いほうが状態はよくなると思う。1ピッチ目は溝にスカ氷の張りついただけのミックスで、傾斜はきつく支点もあまり取れない。ただ、アックスが決まる程度の固さはあって、リードしたオオブ君はランナウトしてまま登っていった。2ピッチ目は10mほど滝を登って、そのあとは緩傾斜帯に入る。このルートで唯一気が抜けるピッチで、次の滝に入ったところでピッチを区切る。3ピッチ目から中間部の傾斜のきつい氷柱に入る。下部はスカ氷が続き、リードのオオブ君は傾斜がきつくなって、核心のバーティカル部分に入ったところでピッチを切った。

4ピッチ目が核心でまずは垂直のブルーアイスを、右の岩とのコンタクトラインから10mほど登る。落ち口で左にトラバースしてのっこすところがいやらしいが、氷はしっかりしているのでさほど難しくない。問題はその後で、少し傾斜が緩んだところを越えると、再び80度ほどの立った氷柱となり、ここがまた中身がスカスカの困った氷で、しっかりとした支点が取れず、つらい。久しぶりのまともなクライミングで腕がパンプして、落ち口で一瞬、ヤバイ、落ちると覚悟を決めそうになった。けっこうギリギリだったが、なんとか色々ごまかして越えた。氷壁登りもまた人生である(近年は日常で覚悟を決める機会は何度かあったが、山では久しくそういうことはなかったのです)。


核心の中間部氷柱。この上がいやらしいスカ氷の壁になる。

5ピッチ目は氷柱の最後の10mを越えて、事実上の登攀は終了。そこからさらに60mいっぱいまでロープを伸ばし、そこから同ルート下降でおりた。

天気が悪く、気温も低くて(下山後の松本付近の気温はマイナス9度だった)、手袋が凍りつき、なかなかハードなクライミングだった。結氷がもう少しよくなったら快適だと思うが、いずれにせよ非常に登りごたえのあるいいルートであることは間違いない。実質4ピッチか5ピッチだが、これだけ傾斜の強い氷が最後までつづき、しかも適度にテクニカルというルートは他にあまりないように思う。

じつは12月は八ヶ岳の大同心北西稜に向かったが、アプローチの裏同心ルンゼが渋滞しており、北西稜に取りついたところで敗退。正月も甲斐駒の摩利支天に行ったが、これもいろいろあって敗退と、今シーズンはまともに登れていなかったので、今回はいいストレス解消になった。

教訓としては、そろそろ新しいアイゼンに買い換えたほうがいいように思ったので、今度、山道具屋に行ったときに北極の装備のなかにこっそりアイゼンを忍び込ませて、妻に内緒で購入しようと思いました。これからもいろいろごまかして人生を乗り切ろうと思いました。

次は以前から気になっていた、登山体系で絶賛されているあの山に行こうと思います。


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