ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

フィリピンに到着したけど変圧器がなくて困っています

2013年08月31日 19時03分00秒 | 雑記
唐突だが、今日からフィリピンに来た。例の沖縄取材の一環で、どういうわけかフィリピン取材まで敢行してしまうことにしたのだ。最近はカナダばっかりでアジアに来たのは久しぶり。空港を下りた瞬間に空気と人間にアジア的な熱気が感じられて気分が高揚した。やはり旅をするのはアジアに限る、とカナダが旅行先としてはとりわけつまらないだけに、本当にそう思う。

マニラに着いて、韓国系の二つ星のホテルにチェックインし、怖ろしく電気が暗い部屋の中でこのブログの記事を書いている。

出発初日に気づいたことが二つあった。まずフィリピンに入国する際には帰国の便を押さえておかないと、行きのフライトのチェックインができないことを、チェックインカウンターで初めて知った。飛行機はもちろんジェットスターなのだが、決まりなので帰国便を購入してもらわないと、どうしても乗せてくれないという。今回は長い滞在ではないが、いつものように帰国日を決めているわけではない。だがしょうがないので適当に帰国日を決めて、その場で帰りのチケットを購入することにした。ネットで購入するよりもかなり割高のようだ。ひどく損をした気がする。

さらにマニラに着いてからも変圧器を持ってくるのを忘れたことに気がついた。というか変圧器が必要かどうか調べることを忘れていたのだ。おまけに現金を三万円少々しか用意しておらず、あとはカードキャッシングしなければならない。なんでもっと現金を用意してこなかったのだろう。面倒くさいことだ。

最近は飛行機を予約するのも手軽になったし、海外でも大体カードが使えるし、短期間ならビザが必要ない国も増えたし、何よりも飛行機代が安くなった。以前のようにリコンファームしなくていいし、TCを大量に準備することもない。というかそういう旅行を最近してないだけかもしれないが、要するに海外に行くのが便利に、手軽になって、ハードルが下がったので、北海道に旅行するのと変わらない気分で家を出るものだから、全然下調べをしなくなってしまったのである。

いや下調べをしていないわけではない。取材に関する事前調査はもちろん入念に行っている。今回は南部のミンダナオ島で取材予定なので、最近頻発しているイスラム過激派による爆弾テロのニュースだとか、原理主義組織の動向などは十分に情報収集している。だが、目的地に行くまでの移動やホテルの予約などが、もともと関心がないものだから恐ろしくいい加減に流してしまっている。

完全に地球の歩き方まかせ。というか、地球の歩き方は一応買ったが、読んだのはさっきマニラに着いてから、フィリピンって変圧器がいるのかどうか確かめたのが初めてという状態だ。

しかし考えて見たらホテルを予約しただけ上出来かもしれない。そういえば海外に来るのにホテルを日本で予約したのは初めてのことだ。エクスペディアとかアゴダとかの予約サイトができて、自分の部屋にいながらにして東南アジアの地方都市の宿の予約までできるものだから、最近では旅行先で利用することが少なくなくなった。

でもおかげで、こんなに部屋が暗いホテルに泊まることになった。予約サイトには夜の町に荘厳に光を放つ立派なホテルの写真が掲載されていたので、すっかり騙されてしまったのだ。自分で町を歩いて宿を選んでいたら、もう少し安くていいところに泊まっていたような気がする。

新潮選書で『「便利」は人を不幸にする』という本があるが、まさにその通りだ。便利に旅行できるようになったせいで、私は変圧器を忘れ、こんなに暗い宿に泊まらなければならなくなった(昔から私のことを知っている人間は、お前は昔からそういう人間だったと指摘することを承知で、私は今この文章を書いている)。宿は一日だけだからどうでもいいけど、変圧器は早く手に入れないと、こんなどうでもいい記事を書いている間にもどんどんバッテリー残量が減って、明日からの仕事に支障をきたすことは明白な状態である。

これから水谷さん(ノンフィクション作家、『日本を捨てた男たち』の作者)に会うから聞いてみよう。


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