ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

ロシア ルート1の旅

2012年05月29日 23時42分34秒 | お知らせ
先日もお伝えしましたが、1日深夜にNHKのBS-1で「ロシアルート1の旅」が放送されます。

6月1日(金)午後11時~午前0時50分

ベラルーシ国境からモスクワまでのルート1(国道1号みたいなものです)約440キロを自転車で旅し、近隣に住む人々に話を聞いて、民衆レベルにおける現在のロシアを浮き彫りにする、という内容になっています。

ロシアという国は、報道だと政治、経済、外交方面ばかりからしか語られませんが、この番組では、ロシアに住む普通の人たちが暮らしや文化や政治に対して、どのような思いを抱いているか、といったあたりを焦点にしています。

NHKから広報資料が出ているようです。
http://www.nhk.or.jp/pr/keiei/shiryou/soukyoku/2012/05/006.pdf

ぜひご覧になってみてください。

     *     *

ちなみに今日、モノローグの収録があり、旅の映像、というか自分自身が映像になっているところを、生まれて初めて見たのだが、なんかちょっと、俺ってこんなんなんだ……という気持ちの悪さがあった。顔の筋肉とか皮膚とかの動きが、私が普段目にしている他の人よりも、少しぴくぴくしている感じがあったのだが……。蠕動運動というのでしょうか。

気のせいだろうか。誰か本当のことを教えてください。

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ゲラとどく

2012年05月25日 18時31分35秒 | 雑記
7月に文藝春秋から発売されるエッセイ集のゲラが届いた。やっぱりゲラになると違うものだ。ワードで書き終わった時は、こんなもの、いったい誰が読むのだろうと不安になったが、ゲラになるとそれなりに自分でも読めるから不思議なものである。

ちなみにタイトルは『探検家、36歳の憂鬱』

こんなタイトルにしてしまって大丈夫なのだろうか。売れるのだろうか。非常に憂鬱である。

これはもう装丁のほうで頑張ってもらうしかないということで、昨日は文春で装丁を担当してください大久保さんと、装画を書いてくださるryoonoさんとの打ち合わせがあった。ryoonoさんは本の装画は初めてとのことで、一体どんなものに仕上がるのか、非常に楽しみである。もう、滅茶苦茶にしてもらいたいところである。

ちなみに、この本は原稿用紙で40~50枚程度のエッセイが7本と、あと短いのが1本並んだものだ。そのうちの4本は過去に雑誌に書いたものだが、大幅に加筆修正しており、中には似ても似つかないものになっている原稿もある。残りの4本は書下ろしである。

内容としては、雪崩に遭った時の話、探検部の思いで、富士山登頂記、北極の話、震災の話、熱気球の神田道夫さんの話、コンパの話、表現の話の8本である。

なお、この8本の間に、このブログの記事も挟まっている。しかも無修正。編集者の選によるものだが、いやー、あの一篇が入ってしまったかと、内心ひそかに魂が引き裂かれそうな苦しみを感じたりしている。

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ピダハン

2012年05月24日 20時34分14秒 | 書籍
ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観
D・L・エヴェレット
みすず書房


D・L・エヴェレット『ピダハン』を読む。

今年のナンバー1本はこれで決定だろう。とんでもない本である。

ピダハンとはアマゾンに住む少数民族で、著書のエヴェレットは伝道師としてピダハンのもとに赴き、30年ほど住みこむ。目的は聖書をピダハン語に翻訳することなので、言語学者としてピダハン語を習得することも重要な任務だ。

その結果、著者はピダハン語には、チョムスキー以来の言語学界の主流であった理論が通用しないことを思い知らされる。人間のあらゆる言語には共通の文法(関係節による再帰という概念らしい)があり、それは人間に言語本能なるものが備わっているから、というのがチョムスキーの理論であるらしいのだが、ピダハン語には、その再帰という構造が見つからないというのである。

要は、著者はピダハン語を研究することで、人間には言語本能なんてない可能性を発見してしまったのだ。チョムスキーの学説は間違っていたと、世界有数の頭脳に喧嘩をふっかけたわけだ。

言語本能がないということは、人間の言語の文法は、それぞれの民族の文化の影響を受けて成立しているということになる(これは当たり前のようであるが、当たり前ではないらしく、詳しくは本書を読んでほしい)。

ピダハン語を規定しているピダハンの文化のポイントは、自分たちが直接体験した事実や話しか信じないという原則である。なぜなら、ピダハンが住む環境は、生と死が充満した自然の中であり、彼らはその自然の瞬間の中を生きているからだ。彼らは魚を釣って、動物を狩り、子供を産んで、マラリアにかかって死ぬ。自分の身は自分で守るのが原則で、それが人生のすべてなのだ。

その結果、どういうことが起きるかというと、著者は伝道師なので自分の信仰を捨ててしまうのである。どうやら家庭も崩壊したらしい。伝承に支えられた信仰よりも、ピダハンのリアルな生のほうが本物だ、と気づいてしまうのだ(ネタバレのようだが、著者が信仰を放棄したことは本のカバーの紹介にも書いてあるので、まあOKでしょう)。

このへんは、マーク・ローランズ『哲学者とオオカミ』を彷彿とさせる。頭のいい人が、人間はなんのために生きているのかを真剣に考えると、哲学よりもオオカミ、キリストよりもピダハンの方がよく知っていることに気づいてしまうのだろう。

このように内容をかいつまんで説明すると、堅苦しい本のように聞こえるだろうが、文体はユーモアたっぷりで非常に読みやすい。難しい言語学の理論でさえ、身近な例を用いて説明してくれるので、本当にそんなに単純なのかと読んでいる方が心配になるくらい分かりやすい。唯一、不満だったのは、妻や子供との、その後の関係に触れていない点である。信仰を捨てた結果、どうやら家庭も崩壊したらしいのだが、できればその崩壊過程も知りたかった。ケレンとは一体、どうなったんだ?

みすずの本なので3400円と高いが、5500円でも読む価値はある。


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テレビ効果?

2012年05月22日 15時10分52秒 | 雑記
昨日、NHKのエルムンドに出演したが、司会のアンディーさんの軽妙な話しぶりと、メイ・パグディさんの美しい容姿に助けられ、非常に楽しく話をすることができた。

告知では生と書いたが、正確に言うと半生で、放送の1時間ほど前に収録し、ほぼ生で放送するというスタイルだった。私は完全に生放送で、本番は午後11時からだと思い込んでいたので、9時45分ぐらいに、スタッフが「本番5分前でーす」と掛け声を出しても、何言ってんだろ?と首をひねるばかりで、あれよあれよといううちに、心の準備ができないまま本番が始まってしまい、内心あせっていた。

ところで、それはそれとして、今日、あるところに取材に行ってきて、その帰りに西武池袋線の改札内の小さな本屋に寄ったのだが、なんと驚いたことに、『雪男』が平積みになっていた。今まで、新刊で出たときも、賞をとった時も、『空白』も『雪男』も、この本やで自分の本が並んでいることは、ついぞお目にかかったことはなかったのだが、平積みになっている。しかも10冊近く(数えるのを忘れたが、それぐらいあった)。

テレビ効果だろうか。恐るべしエルムンド。恐るべしメイ・パグディさん。それにしても、俺の本って、こんなに在庫で眠ってたんだ……。

もしやと思い、東長崎駅前の某書店に寄ったが、こちらは全然効果なし。在庫に眠ったままのようだ。


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日本人の冒険と「創造的な登山」

2012年05月19日 10時24分50秒 | 書籍
日本人の冒険と「創造的な登山」 本多勝一ベストセレクション (ヤマケイ文庫)
クリエーター情報なし
山と渓谷社


解説を書いた本多勝一さんの『日本人の冒険と「創造的な登山」』が届いた。

この本は、本多さんの登山や冒険、遭難報道に関する評論やルポルタージュをまとめたもの。『山を考える』『冒険と日本人』『リーダーは何をしていたか』の三冊から、主な作品を収めて、このたび文庫本となった。

本多勝一のルポルタージュや冒険論は、学生の時にかなり読んでいて、相当な影響を受けていたので、山と溪谷社の神長さんから解説の依頼を受けた時は身の引き締まる思いだった。送ってもらったゲラをロシアに持ち込み、ウオトカを飲んでいない時に断続的に目を通した。

久しぶり本多さんの冒険論を読んで、実は結構ショックを受けた。私はこれまで自分でそれなりに独自の冒険論を築き上げてきたつもりだったが、実はそれが本多さんの冒険論の焼きまわしに過ぎないことを思い知らされたからだ。自分のオリジナルだと思っていた理論はすでに本多さんの本に書いてあったのだ。本多さんの冒険論は学生の時に読んでいたため、部分的にしか覚えておらず、でもたぶん何となく頭のどこかには残っていて、それが自分の中でオリジナルな冒険論となって再生産されていたのだろう。

なんということだ。まあ、しょうがないか。

ということで、解説では「反体制」として冒険、というタイトルで、自分でオリジナルなものだと思っていたけど、実は本多勝一がすでに昔、展開済みだった冒険論を書いている。さすがに本多勝一の解説なので、ロシアで数日かけてじっくり書こうかと思っていたが、普段から結構考えているテーマだったので、一日ですらすら書けてしまった。自分で言うのもなんだが、冒険とは何か、ということについて書いた文章の中では、最も本質をついていると自負している。もちろん解説なので、原型は本多さんの冒険論にあるのだが……。ちなみに、本多さんご本人にも喜んでいただけたようで、お礼の手紙をいただいた。

あと、この本では驚いたことがもうひとつあった。

なんと、著者プロフィールのところに、本多勝一の素顔の写真がのっているのだ。いつ、カツラとサングラスを外したのだろう……。こんな顔してたんだ。初めて見た。




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エルムンド

2012年05月18日 10時46分59秒 | お知らせ
21日にNHK-BS1の番組エルムンド(午後11時~11時50分)に出演します。

15分程度だそうです。生です。生は初めてですが、西村賢太風に言うと、生は好きです。ええ、もちろん生ビールのことです。(出典『西村賢太対話集』新潮社P193)

あ……、初めてじゃなかった。

いやいや、そうじゃなくて、生放送のことなんですけどね。こないだのスカパーは生だった。

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滝谷C沢右股の氷柱

2012年05月14日 12時22分24秒 | クライミング
土日に、沼田のS野さん、クライミングファイトのS田君と、滝谷のC沢右股に行ってきた。
数年前のGWの時にみかけた、C沢右股奥壁の氷柱を登るのは今年の春のひとつの目標で、4月から5月にかけて2度ばかりトライを試みたものの、天候に恵まれなかったり、天候に恵まれなかったと早合点したけど実は恵まれていたりした、なんてこともあったせいで、登るのがこの時期までずれ込んでしまった。

日曜の午前3時半ごろに小屋を出発。雄滝はすでに上半分がでているので、前日にフィックスを張っておいた。第3尾根取りつき付近に8時ごろ到着。C沢右股奥壁を偵察すると氷はすでに落ちていたので、その手前にある第3尾根右側のルンゼを登った。



滝谷出合からも見えます。


60メートルロープで実質3ピッチ。傾斜は緩く、やさしいルートだったが、天気も良く、岩と雪に囲まれた滝谷の大岩壁の中を登るので、ロケーションは最高。最後はガリーをつめて、ドームの頭に飛び出す。かなりいいルートだった。

この時期はもう解けてしまっていたが、4月の滝谷周辺は薄いアルパインチックな氷が至る所に形成されており、かなり面白そうである。ほとんど登られていないようだが、まったく不思議なくらいだ。今回見た中でも、涸沢岳西面や2尾根フランケ、1尾根と2尾根の中間ルンゼなどはかなり有望そうに見えた。


涸沢岳西面。もう解けちゃってますが、時期を掴めばどっか登れそうな……。


2尾根フランケ。これは毎年安定して氷るようです。誰か登ってるのかな。

来年の楽しみが増えたなあ。ちなみに私は夏の間はあまりクライミングをする予定はなく、次の探検に向けた歩荷トレなどを中心におこなう予定だ。西村賢太風にいえば、苦役列車とか小銭を数えるみたいな時期に突入してしまう。ああいやだ。

なお余談かつ汚い話になりますが、今回初めて登攀中に、ロープを結んだままおっきいものを出してしまいました。雨が流してくれるでしょう。

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ロシアの番組の放送時間

2012年05月11日 12時18分15秒 | お知らせ
4月にロケに行ったロシアの番組ですが、放映が6月1日に変わりました。
お知らせが遅れてすみません。

NHK BS-1
6月1日23時~2日午前0時50分

二部構成のようです。

    *  *

昨日は久しぶりに、北極で一緒だった荻田くんと池袋で飲み、今年の北極点挑戦について詳しい報告を聞いた。今年の北極海の海氷状況は最悪で、通常なら大西洋で発達した低気圧はロシア北方に行くのだが、今年は北極海に直進するケースが多く、そのため風が強く、気温も上がり、海氷にリードと呼ばれる割れ目がたくさん入る状況になってしまったという。ノルウェーの二人組、アイルランドの二人組、あとインドの軍隊の遠征隊が北極点に挑戦しようとしたらしいが、いずれも状況が悪く、途中で撤退したようだ。

これで、昨年に続き、北極点遠征組はすべて失敗に終わっている。北極海は昔みたいに、バシッと氷が張ることが少なくなってきたみたいで、冒険のハードルは確実に上がっているようだ。

私たちが昨年行った島嶼部の氷と違い、外洋の氷は一日に7、8キロも平気で動くらしく、寝ててもバリバリ氷が動く音がして、落ち着かなかったという。彼ほどの氷の経験をもってしても、北極海はまた未知の世界だったようだ。朝起きたら、氷盤同士がぶつかり合って、氷丘からがらがら氷が落ちてくるのを見て、あわててテントを撤収した日もあったとか……。

面白そうだ。行ってみたい。


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すばる5、6月号&エッセイ集

2012年05月07日 11時55分20秒 | お知らせ
すばるのお知らせを忘れてました。
五月号、六月号に連載が掲載されています。連載は七月号まで続き、リライトして九月に単行本化の予定です。

すばる 2012年 05月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
集英社


すばる 2012年 06月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
集英社


ちなみに今後の予定ですが、7月に文藝春秋からエッセイ集を刊行します。あれはエッセイ集というのだろうか。雑文集? 中身は、原稿用紙30~50枚程度のルポ、エッセイ、評論っぽいものなどの短文を8本のせる予定です。半分は過去に岳人などに掲載した文章で、残りは書下ろしです。

タイトルなど詳細が決まり次第、お知らせします。

最近、気分がのらないのと、忙しかったことと、ロシアに行って、今なら読めるかも!と思って、ドストエフスキーなど読んでしまっていたこともあり、ブログを書く気が起きませんでした。気分屋でどうもすみません。今後はなるべく書くようにしなければ。

そういえば、スティーブ・ハウス『垂壁のかなたへ』は面白かった。


垂壁のかなたへ
スティーブ・ハウス
白水社



スティーブ・ハウスは世界最高のアルパインクライマーの一人。この本は彼の一本、一本のクライミングに焦点を当てているのではなく、これまでのクライミングの中から彼の人生や思想を象徴するような場面を取り込み構成しているので、登山家という人種の魂の遍歴がよく分かる作品になっている。彼が山で食べているGUエネルギージェルというのがなんなのか気になった。

この本は、専門用語が多いのと、山をやっていないと彼の心情の吐露に共感できないぶぶんがあるかと思われるので、そういう方には森達也『オカルト』をお勧めします。


オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ
クリエーター情報なし
角川書店(角川グループパブリッシング)


テーマに対して煩悶を続けながら、本質を浮き彫りにしようとする森さんの書き方は、もはや職人芸といっていいだろう。『A3』でも『死刑』でも同じだが、世間の固定した見方を否定し、違う角度から光を当てようとする「反体制」的な態度に共感する。

ちなみに『垂壁のかたなへ』と『オカルト』の間には、私が最近読んだ面白かったノンフィクション、という以外に共通項はないので、その点はご了承下さい。


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