ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

エドモントン

2011年02月25日 23時50分37秒 | 探検・冒険
現在、カナダのエドモントン付近に滞在中。ザック一個分くらいあるマイナス40度仕様の巨大化繊シュラフや、見たこともないくらい分厚いソレルの、マイナス50度仕様の防寒ブーツ、そのほか、ミトンやら熊よけ用のフレアガンという派手な空飛ぶ爆竹やら、極地探検用の特殊仕様装備を次々と購入中だ。一方、ソーセージやナッツ類、ドライフルーツ関係、自宅でもよく食べる韓国製の辛ラーメンなど食料方面も抜かりなく入手しており、現在、装備の量は段ボールにして8箱分くらいになっている。そのうちの一つはジョアヘブンという旅の中継地となる村に送った。

面白いのは、南部にすむ多くのカナダ人が北極圏の土地について知識がほとんどないことだ。今日、荷物を送りにいったエドモントンの近くのカムローズという町の郵便局のおばさん二人は、ジョアヘブンという村の名前すら聞いたことがなく、「どこ、それ? カナダなの?」とキャーキャーはしゃいでいた。

明日はオタワに移動し、世界的極地冒険家のリチャードウエーバー氏から極地探検専用のソリと食料を購入する予定である。ウエーバー氏は明日ノルウェーに向かうというので、我々は空港で待ち合わせする予定にしていた。だが、さっき氏から来たメールによると、氏の飛行機は14:30に出発する便であるらしく、我々がオタワに到着するのは13:30なので、どうやら空港で会うのは難しそうだ。

空港で会えなかったら、どうやってソリを受け取ろうか。というか、どうやって氏と連絡をとったらいいんだ? こっちはもう深夜で、われわれの乗る便は超早朝なので、氏と連絡をとる時間がほとんどないのである。トランジットの時に電話をかけるしかないが、ちゃんと家にいてくれるだろうか。心配だ。
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朝日の書評

2011年02月21日 10時06分37秒 | 雑記
石川君が朝日新聞で「空白の五マイル」のかっこいい書評を書いてくれた。自制心のたがが外れているというところは、自分にも心当たりがある。今後も気をつけることはないでしょう。

笑ったのは、肩書。早稲田大学探検部OBって、そんな肩書、世の中に存在するのか? ノンフィクションライターと書くにも大した実績がないし、探検家だとわけが分からないし、元朝日新聞記者というのも書きにくいということで、朝日新聞文化部的にも取り扱いに困っているのだろう。

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グーグルアース

2011年02月19日 23時40分57秒 | 雑記

来週の火曜日に日本を出国し、カナダに向かう。一部報道でも明らかになっているが、1845年に129人全員が忽然と行方を絶ったフランクリン隊の足跡をたどる予定だ。

ルートはレゾリュートから45~50日ほど氷上を歩き、キングウイリアム島のジョアヘブンへ。ジョアヘブンから東に北米大陸本土に渡り、ツンドラ地帯を40日ほどかけて、これまた歩いて南下。無事、計画通りことが進んだあかつきには、6月中旬あたりに目的地であるベイカーレイクにたどりついているはずである。なぜ、目的地をベイカーレイクにしたのか。それを書くと、本のネタばれになるので、今は明かせない。

とまあ、それはどうでもいいのだが、数カ月も前から、ルート中で最も懸念していたのが、後半のツンドラ地帯をはたして歩けるのだろうか、ということだった。ツンドラ地帯では池や水路が網の目のように絡み合っていて、出発から35日目、ついに私たちは渡渉不可能な大河に出くわし進退が窮まった……などということになったらシャレにならない。しっかりと歩けるルートを見つけ出すためにも、精緻な衛星画像が必要だという認識にいたり、昨年末あたりから、各種専門機関や大学に、そのような衛星画像がないか問い合わせてきた。その結果、多くの研究者の方から、グーグルアースが一番いいよ、無料だし、とのご意見を頂戴し、よって昨日と今日の二日間をかけて、グーグルアースで公開されている踏破予定ルートのあたりの画像を高級マット紙にプリントアウトし、セブンイレブンで購入したのりでつなぎ合わせた。

二日間かけた作業で分かったことは、グーグルアースの画像で判明した池や水路の位置は、わたしの手元にある50万分の1の地図のそれと、まったく一致するということだった。よく考えたら、グーグルアースの画像はランドサットが撮影した画像で、地図のほうの確か、ランドサットが元データになっているはずだ。出元が同じなんだから、一致するのは当たり前だ。くそ、まったくの無駄骨じゃないか。でも、せっかくプリントアウトしたから持って行こう。色もついていて、見やすいし。いらなくなったら、たき火の焚きつけにすればいいし。

「かくはたさん、北極へ行く」みたいな新聞記事を読んだ人が、このブログを見て幻滅するといけないので、一応、北極関連のことを書いみた。鍵穴にボンドつめこまれたとか、タワシをなくしたとか、アホみたいな話ばかりだったので。

それにしても、1600キロを歩くのか……。なんでこんな計画を思いついてしまったんだろう。
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チャリンコの鍵穴が

2011年02月17日 11時13分48秒 | 雑記
新年そうそうよくないことの第三弾。先日、朝日新聞の取材を受けるため、自宅から自転車で落合南長崎駅に行き、大江戸線で築地市場に向かった。取材が終わり、深夜、落合南長崎駅で自転車に乗り、自宅に帰ろうとすると、なんと自転車のチェーンの鍵穴にボンドが塗り込まれていた。

酔っぱらっていたため、最初はなんだかよくわからず、鍵穴がずいぶんぬるぬるしているなあ、とか思いながら、穴にキーを突っ込んだ。ボンドはまだ完全に固まりきってなかったのか、途中までは入るが、しかし奥までは入らない。しかしこのままでは家に帰れないので、とりあえずチェーンを外そうと、鍵を強引にぐいっと左にねじったら、鍵が根元からブチっとちぎれてしまった。チェーンの鍵穴には、ぶちっとちぎれた鍵の一部が先端から突き刺さっていた。

頭に来たので、こんなチャリンコ、もう豊島区に撤去されてしまえと、歩いて家路についたが、100メートルほど歩いたところで、やっぱりもったいなくなり、チェーンのついている後輪だけ10センチくらい浮かして、家に持って帰った。

それにしても陰湿ないたずらだ。ひょっとして、ストーカー? 仕掛けた本人は、わたしがチャリンコを持って帰れず右往左往しているところを、どこかの物陰からひそかに覗き、確認し、クスクス笑いでも浮かべているのだろうか。それならまだ分かるが、ただ単に純粋に結果を妄想して、このような虚しい遊びに興じているのだろうか。

チェーンにはちぎれたキーがまだ突き刺さった状態なので、これから後輪を浮かして自転車屋に向かい、チェーンを切断してもらい、新しいのを購入するつもりである。



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暗渠の宿など

2011年02月15日 10時46分03秒 | 書籍
暗渠の宿 (新潮文庫)
西村 賢太
新潮社


どうで死ぬ身の一踊り (講談社文庫)
西村 賢太
講談社


苦役列車に衝撃を受け、西村賢太を連続読みする。こんなに読んでいてニヤ笑いが止まらない本は、ジョン・クラカワーの「エヴェレストより高い山」以来である。

西村賢太の小説は簡単にまとめると三本仕立て。風俗に行って性欲を処理しつつ本当の彼女が欲しいと嘆く話と、藤澤清造に対する敬慕の話と、滝の川のマンションで同居した女へのDVの話の三つである。実生活のほうは最悪だが、文体が自分を揶揄的に表現したユーモアのある文体なので、一気に読ませる。

特に滝の川の女の話はまったく最悪で、よくこんなこと書けるなと思いつつも、ページをめくる手が止まらない。それぞれの短編の途中でこの女との最終的な破局は示唆されているのだが、女を殴って逃げられてはまた仲直りをするというのを何度も繰り返し、破局をなかなか迎えず、読者を引っ張る展開となっている。一つの短編を読み終わるたびに、おい、まだこの女と続くのか、と思わず突っ込みを入れたくなってしまう。

また、おんなじようなエピソードがいろんな短編の中でちりばめられているので、この話はこの前の話をあのエピソードね、みたいに読んでいて各短編が連環して繋がっていくのも、私小説ならではの面白みである。読んでいくうちのどんどん世界が広がっていくような深みがあるのだ。

ただ世界が広がっていくと言っても、西村賢太の人生について詳しくなるだけで、べつにフェイスブック的な豊かさがもたらされるわけではないので、そこのところは間違えないほうがいい。あと、西村賢太の小説を持ち上げると、全世界の女性を敵に回すような危惧を抱うのは、わたしだけだろうか。
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冒険本・探検本

2011年02月11日 14時15分20秒 | 雑記
本の雑誌 333号
クリエーター情報なし
本の雑誌社


本の雑誌3月号の特集は「いま冒険本・探検本が熱い!」。わたしも巻頭で高野さんと対談させてもらってます。

高野さんと対談した時に驚いたのは、高校生の時に、オカルト雑誌「ムー」と川口探検隊の合間に、レヴィ=ストロースを読んでいたという話。そんな読み方で誤解なく読めているのか疑問に思ったが、「野性の思考」の解説をリンネの分類学を持ち出して説明するところに、高野さんの、ムベンベ的なものとはまた別の奥深さを感じた。

特集では服部さんも極地本について紹介している。わたしのことを例にとり、冒険の行為者が、表現として世の中に伝えることの難しさにも触れている。開高賞の受賞の言葉にも書いたが、書くことを前提に冒険行為をした場合、原稿に書くことを常に意識して行動するため、行為がどうしてもそこにひきずられてしまう。わたしの場合は書くことを前提に探検や冒険をするので、よって行為としては純粋ではない(だから冒険家という肩書は基本的に断っている)。服部さんはそのことも鋭く指摘している。

わたしの受賞の言葉を読んでいない人は、こちらを見てください。

http://www.shueisha.co.jp/shuppan4syo/kaikou/kakuhata.html

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フェイスブック 若き天才の野望

2011年02月09日 00時57分47秒 | 書籍
フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)
デビッド・カークパトリック
日経BP社


映画「ソーシャルネットワーク」を見て、フェイスブックの創始者マーク・ザッカンバーグという人間に興味がわいたので、その日のうちにこの本を購入。つい先ごろまで読んでいた。

著者のデビッド・カークパトリックはフォーチュン誌のライターで、かなりザッカンバーグに食い込んでいるらしい。この本を読むと、「ソーシャルネットワーク」のほうはかなり作り込んでいるらしいことが分かる。映画のほうは大学の寮のルームメートであるエドゥアルドという親友との友情と別れ、そして確執がフレームアップされているが、本を読むとどうやらエドゥアルドはルームメイトでなかったらしく、資金提供者ではあったが、フェイスブック創業時における欠かせないキャラクターというわけでもなかったようだ。

また映画では元恋人にふられた腹いせに、大学の女性の顔写真を二つ並べてどっちが「ホット」かを選ぶサイトを作ったことがフェイスブック創業の伏線になったかのように描かれているが、そのへんの女性をめぐる人間的なドラマがあったのかどうかも、この本では分からなかった。

とにかくザッカンバーグは要所要所のビジネスチャンスで的確な判断をし、フェイスブックは随所で間違いのない新機能を追加。彼には高邁な理想と成功への確かなビジョンがあり、その結果、5億人とかいうとんでもない会員数を誇る化け物サイトになったらしいが、そんなことはわたしにとってはどうでもよかったので、100ページほどを残して読むのをやめた。

もっと創業時にどのような人間的なやり取りがあったのかが書かれていれば、面白かったのに。結局、ザッカンバーグがどれほどえぐい人間なのかというのは、さっぱり分からなかった。そういうのが読みたければ、西村賢太でも読めということだろうか。

ちなみにわたしも一年ほど前に、ちょっとした手違いでフェイスブックの会員になってしまっているが、一度も使ったことはない。それにしても、一年も会員なのに、友達のリクエストメールが4、5人からしか来てないのは、いったいどうしたことだろう。しかもその全員が、すでに知り合いである。知り合いから友達になりませんかと言われても、さっぱり世界が広がりそうもないので、申し訳ありませんが、返事をしてません。この場を借りて謝ります。

あとフェイスブックを使うと、どのようないいことがあるのか、誰か教えてください。
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荒川河川敷パート2

2011年02月06日 23時00分30秒 | 雑記
本日もタイヤ引きのため自転車で荒川河川敷へ。前回のストック、カラビナに続き、今回はタイヤを引っ張るロープが盗まれていた。さすがに頭に来たので、思わずあいつらかと思い、川のすぐ脇に立ちならぶホームレス小屋に向かった。犯人が見つかり次第、ケリの一発でも見舞ってやろうという気になっていた。

しかし、小屋を4、5軒回ったが、特にそれらしきものは見つからない。少し離れたところに立つ小屋の敷地内に入り見回っていると、居住者のおっさんがやって来て、「お前なにしてるんだ」と声を荒げて近づいてきた。

「タイヤのロープを盗まれたから、探してるんですよ」
「あ、そうなの」とおっさんは一転、弱弱しい声に変わった。そして「あ、あの最近タイヤ引いて頑張っているのは、君か」と言った。
「まあ、そうですけど……」
「そうかそうか。ロープのなんかこの辺の人間は盗まないよ。何の役にも立たないから」
「そうですか、じゃあいいです」

もう家に帰ろうと思い自転車のほうに向かうと、なぜかおっさんは「そうか、あんたがタイヤを引っ張っている人ねえ」とかなんとか言いながら、後ろをくっついて来た。そしてタイヤのところまでやって来ると、「これね、このタイヤでしょ」といって、タイヤを引く理由を聞き始めそうな感じになった。私も人の子、すぐ横の野球場で試合をしている少年たちから、あのいつもタイヤを引いているおじさん、今日はホームレスと仲良く話している、などと思われるのも癪なので、「もういいです、もういいです」と言いながら、そそくさと逃げるようにおっさんのもとを後にした。

結局、ロープは見つからず……。どうやら付近のホームレスの間で、何やらタイヤを引っ張って頑張っている若者がいるという話が広まっているらしいことだけが分かった一日であった。
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1967クロスカウンター

2011年02月01日 12時34分12秒 | クライミング
1967クロスカウンター 雑草と呼ばれたチャンピオン小林弘
菅淳一
太田出版


「空白の五マイル」で取材の協力していただいた菅尾淳一さんが「1967クロスカウンター」という本を出版した。クロスカウンターを武器に世界チャンピオンに駆けあがった小林弘の半生をつづったノンフィクションである。

菅尾さんは、ツアンポー峡谷で亡くなった武井義隆さんの友人で、わたしは本の中で菅尾さんのことを「怪人物」と書かせていただいた。「語られる言葉は常に劇的で、紡ぎだされる文章はリズミカルかつドラマチック、何をやっているのか分からない不可解さが彼という人間にある種の奥深さを与えていて、若者を惹きつける魅力にはこと欠かない人物だった」

要するに不思議このうえない人だったわけだが、先立って本を出版したと聞いたので正直驚いた。読んでみるとリズミカルかつドラマチックな文章で小林弘の75戦にもわたる戦歴を細かく描写している。初の日本人同士の世界戦となった沼田義明との一戦が山場。リングに倒れてもなおゾンビのように立ちあがって来る沼田義明の姿に、あしたのジョーの世界を垣間見た気がした。ボクシングファンにはたまらない本だと思う。

日曜日に新宿で出版記念パーティーがあり、わたしも招かれたので駆けつけた。サングラスとポマードで決めた風のボクシング関係者が多数駆けつけ、京王プラザホテルの宴会場は火曜サスペンス劇場さながらの独特のコロン臭に満ちていた。有名な世界王者が小林弘も含め5人ほど駆けつけたが、独特の菅尾節であいさつを述べる菅尾さんは他を圧倒。キャラの濃さでは輪島巧一と張っていた。さすがである。
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