ホトケの顔も三度まで

ノンフィクション作家、探検家角幡唯介のブログ

映画『コン・ティキ』とHONZレビュー『謎の独立国家ソマリランド』

2013年03月30日 09時27分40秒 | 雑記
6月29日に全国公開される映画『コン・ティキ』の試写会を昨日見てきた。

探検に興味のある方ならすぐに分かるだろうが、ノルウェーの人類学者で探検家トール・ヘイエルダールのコンティキ号による漂流を描いたものだ。探検の中身を簡単にまとめると、ポリネシアに人類が住みついたのは、南米から海を渡ってからではないかと考え付いたヘイエルダールは、その独自の学説を立証するため、ペルーから水に浮かぶバルサ材で筏を組み、はるばる八千キロを漂流して、本当にポリネシアにたどり着いた。その探検の模様をまとめた本は全世界で5千万部も売れた。日本では『コン・ティキ号探検記』としてちくま文庫から出ています(……と思ったら絶版みたいですね)。

コン・ティキ号探検記 (ちくま文庫)
トール・ヘイエルダール
筑摩書房


映画は素晴らしかった。この探検がどれだけ無茶苦茶だったかよく分かったし、コンティキ号があんなに大きかったことも知らなかった。本当の探検をできた時に感じる、自分と地球との対峙感も映像でうまく表現できている。何より自分の信念に一直線に突き進むヘイエルダールの魅力が伝わってきて感動した。必ずしもハッピーエンドでないところも含めてよかった。個人的には、やっぱり見境なく突き進むことが大事なんだな、という良いのか悪いのかよく分からない刺激を受けた。受けてしまった……。

探検に興味のない人でも十分に娯楽大作として楽しめるので、ぜひ多くの方に見てもらいたい。公開はだいぶ先ですが。下記はノルウェー大使館のHPです。

http://www.norway.or.jp/news_events/culture/literature/kontiki_ggnominate/

あとノンフィクション書評サイトHONZに高野さんの『謎の独立国家ソマリランド』の書評を書きました。

『ソマリランド』は本人も自負している通り、高野さんの久しぶりの会心作。無法と暴力が蔓延るアフリカ・ソマリアで平和と民主主義を達成しているソマリランドの探検記です。読み応え十分、一気読み必至。

謎の独立国家ソマリランド
高野秀行
本の雑誌社



実は4月から朝日新聞の書評委員をやることになっており、最初にこの本を取り上げたかったのだが、他の評者との競合にやぶれてしまった。週刊現代からも頼まれていたのだが、朝日で書くつもりだったので断った、という経緯があり、最終的にHONZで書かせてもらった。HONZはこちらです。

http://honz.jp/23795

北極の原稿と関野さんとのトークショー

2013年03月25日 21時10分23秒 | お知らせ
お知らせを二つ。

25日発売の「coyote」が「今、旅を書く」という特集を組んでおり、その中で年末年始に行っていた北極の原稿が載っています。「七キロの誤差」というタイトルです。長い旅をこの長さの原稿に収めるのはなかなか難しく、うまく書けたかどうかは分かりません。今回の旅のエッセンスをまとめたという感じです。


Coyote No.48 特集:THE BEST TRAVEL WRITING
クリエーター情報なし
スイッチパブリッシング


http://www.coyoteclub.net/2013/03/084130000.php

この特集では内澤旬子さんや『エンジェルフライト』の佐々涼子さんらが書いていますが、すごかったのは坂口恭平さんの原稿。こういう人には絶対にかなわない。

もうひとつ。31日に東中野の映画館、ポレポレ東中野で映画「プージェ」が上映され、その後に探検家関野吉晴さんとトークショーをおこないます。国立科学博物館で関野さんの《グレートジャーニー展》が開催されており、その連動企画ということです。上映はレイトショーなので、トーク自体は午後十時ぐらいからになると思います。詳しくはポレポレ東中野のHPを見てください。

http://www.mmjp.or.jp/pole2/

大鹿さんとの対談

2013年03月20日 08時36分51秒 | お知らせ
朝日新聞のウェブ論座のサイトに朝日新聞記者でジャーナリストの大鹿靖明さんとの対談が掲載されています。

http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2013031700004.html?iref=webronza

大鹿さんは『ヒルズ黙示録』でデビューし、『メルトダウン』で講談社ノンフィクション賞を受賞された方です。『メルトダウン』はすでに文庫化されて飛ぶように売れているようです。以前、ブログで『メルトダウン』のことを取り上げ、ネタ元に食い込む記者的な取材能力と、取材対象を系統だてて物語化する能力の二つを併せ持った、日本でも最も完成されたジャーナリストじゃないかと書いたところ、ご本人から連絡が来て、それで知り合いになりました。

対談の内容は日本のジャーナリズムを考えるという、今の私には少し肩の荷が重いものでした。記者をやっていた頃に持っていた問題意識を掘り起こして、なんとかまとめました。上中下の三回にわけてアップするそうです。

谷川一ノ倉沢3ルンゼ

2013年03月18日 09時39分35秒 | クライミング
土曜日に沼田山岳会Sさんと谷川岳一ノ倉沢3ルンゼに行ってきた。一ノ倉の最奥にある、雪崩の怖いルートだが、3月に入ってからの異常高温のおかげで、雪はがちがちに締まっており、順調に登れた。

ただ快適とは言い難い。上部雪田から落ちてくる雪でスノーシャワーが激しく、とくに核心F3では落ちてくる雪が集中するので、それに耐えながらの登攀となる。本来は日があたる前に越えてしまうべきなのだろう。F3は下部20mは70~80度の氷壁で、上部20mは傾斜の強い雪壁で、ここはランナウトとなる。

60mロープをほぼフルに使って10ピッチ。技術的に問題となるところはないが、頂上近くの稜線まで一気に登ることができる、非常に満足度の高いアルパインルートだった。久しぶりに山に登ったという感じがする。

なお、3ルンゼの向かって左側、一ノ倉沢本谷中央奥壁によだれの出そうなルートが2本あった。上から下までばっちり氷でつながっている。3ルンゼではなくそっちを登ろうか迷ったが、今回はスクリューを6本しか持って来ていなかったので断念し、次回に持ち越しとなった。登山体系と読むと、左側のルンゼ状が本庄山の会ルートだろうか。



画面中央の岩のリッジの左にある、傾斜の強い氷柱のある岩壁が中央奥壁。岩のリッジの右側の切れ込んでいるのが3ルンゼ。

また登りたいところが増えてしまった。

世界しあわせ紀行

2013年03月10日 10時50分22秒 | 書籍
世界しあわせ紀行
エリック・ワイナー
早川書房


エリック・ワイナー『世界しあわせ紀行』を読む。不幸な国の不幸な人々ばかり取材してきたアメリカのジャーナリストが、幸せな国を求めて世界を旅する旅行記である。オランダの幸福学の教授などが算出した幸福度調査を基準に、幸福度の高い国や、逆に幸福度の低い国を訪れ、彼らは本当に幸せなのか、幸せとは何なのかを問い続ける。

と簡単にいうとそういう本なのだが、なんといってもこの本の魅力は文章にある。

とにかく文章は面白い。アメリカのノンフィクションにはユーモアをきかせた作品が少なくないが、これは群を抜いている。群を抜いているというより、度を越しているというのに近い。しかし不快ではない。どんなにユーモアのきいた本でも、通常は読んでいてニタニタ笑いが抑えられない箇所は、一冊の中で4、5か所ぐらいだろうが、この本はほぼ全ページにわたって散りばめられている。

文章自体が面白すぎるため、内容に関してはほとんどどうでもいいとさえ思えてくる。読み終わった時に、そういえばこの本はいったい何が言いたかったんだっけ、と忘れてしまい、その結果、本の全体的な価値を少し下げてしまっているという珍しい本である。

発行は昨年10月だったかな。今までこんな本が出ていたことに気付かなかったことが不思議でならない。たまたま早稲田に用事があり、その帰りに高田馬場の芳林堂に寄って見つけたからよかったものの、芳林堂に行かなかったら、読むことはなかっただろう。そういえば、芳林堂に寄ったのは、kotobaの最新号で本屋特集をやっていて、その中で読書家で知られるピースの又吉直樹が、通りかかった本屋は絶対に立ち寄るというようなことを言っていたことを思い出し、わざわざ早稲田から芳林堂まで足を延ばしたのだ。そう考えると、この本と出会えたのも、ピース又吉のおかげである。ありがとう、ピース又吉!


kotoba (コトバ) 2013年 04月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
集英社


あと、お知らせですが、BEPAL最新号で石川直樹くんとの対談が載っています。小学館が開高健の全集を電子書籍で出すようで、その記念で開高賞出身の二人ということで呼ばれました。開高さんの本のことはもちろん、旅や冒険や書くことなどについて語っています。

BEーPAL (ビーパル) 2013年 04月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小学館




メモワール

2013年03月02日 13時03分15秒 | 書籍
メモワール 写真家・古屋誠一との二〇年
小林紀晴
集英社


小林紀晴『メモワール』を読む。

新聞書評やテーマの重さから、ものすごい本だというのは想像していた。それだけに、うちのめされるのが怖くて読む気が起きなかったが、読んでよかった。ものすごい本だった。写真家はなぜ写真をとるのかを問いつめた作品だ。

写真家である著者は、同じく写真家である古屋誠一を二十年にわたりおいかけた。出発点は古屋はなぜ自殺した妻の最後の姿を写真に収めたのか知りたかったからだ。

そこにあるのは業としかいいようのない写真家の呪われた目だ。当然、同じ写真家である筆者の目も呪われている。プロローグとエピローグでは、9・11と3・11の現場に赴く写真家のエピソードも織り交ぜられているが、彼らもみんな呪われた目をもっている。妻の生と死に執拗にこだわり続ける古屋を通して、筆者はおのれの、そして写真家の呪われた目に深い考察を向ける。

文体もテーマにぴったり、こんな文体ははじめて読んだ。写真を一枚一枚きざむように、筆者は古屋の動きを丹念に記述する。その動きが古屋の内面を浮かび上がらせるようで、なんだか怖いのだ。簡潔で重苦しい。コツン、コツンと病院の廊下で靴音がつめたく響くような文章だ。写真家の文章とはかくもおそろしいものなのか。

こういう本を読むと、どうしても自分のことにひきよせて考えてしまう。文章を書くことも、表現であるという点で考えると写真とかわらない。3・11の時、私はカナダにいたが、被災地を訪れたいという欲求に悩まされた。あれは被災地をルポすることで、何かを表現したいという欲求があったのだろうか。

登山も冒険も表現であることには変わらない。私が危険を顧みず衛星電話もGPSも持たずに北極に行くのは、それにより自分の世界観が表現できると考えているからだ。友人の舐め太郎氏は那智の滝を登って逮捕され、社会的制裁を受けたが、それもこれも那智の滝を登ることが彼らの表現だったからだ。表現とは狂気をはらむものなのである。

しかし写真家ほど自分が呪われていると感じる表現はないのかもしれない。カメラは暴力だし、他人の領域にずかずかと踏み込んでいかざるを得ないから。

今年のナンバー1決定! と思ったら、去年の本だった。そういえば年末年始は北極に行ってたんだった。